教員が意欲的に研修する時。あるいはしない時。

 夏休み中、自主研修として本の内容をまとめてきました。
(一応、まだ続けようという意思はある)
読書まとめ・「吃音の合理的配慮」 - 小学校笑いぐさ日記
読書まとめ「自分で試す 吃音の発声・発音練習帳」 - 小学校笑いぐさ日記
読書まとめ「吃音のある子どもと家族の支援」 - 小学校笑いぐさ日記
読書まとめ「吃音のある学齢児のためのワークブック」 - 小学校笑いぐさ日記
 しかし、なぜこんなマジメなことをしているのか。
 
 理由は2つあります。
 
1.今年が教員免許更新の年だから(って書いたら完全に年齢がバレるな……)
2.今年、県の研修にあたったから。
 
 1は、ご存じの方も多いと思うのですが、教員免許状は定期的に更新が必要で、そのためには30時間以上の講習を受けて試験に合格しないといけないのです。費用は自分持ち。
 
 2は、あまり正確に詳しく書くと勤務地までバレるので適当にぼかしますが、今年の私は、研究授業をやったり他の先生への校内研修を実施したりして資料をまとめ、それを県の研修センターに持って行かなければならないことになったのです。
 他の学校でも同じ研修をやってる人がいて、それを持ち寄って発表し合うという。
 
 その2つが何の関係があるのかというと……。
 
 教員免許状の更新講習がすごい不毛なのです。
 
 オンラインで講習が受けられる団体を2つほど選んで受講してるんですが、片方は前にもちょっと書いたとおり内容がアレ。
filinion.hatenablog.com
 
 あの後もマジメに研修動画を見たんですが、何しろ「いじめ・不登校について」の話で出てくる「いじめの定義」が、

「同一集団内の相互作用過程において優位に立つ一方が、意識的にあるいは集合的に他方に対して精神力・身体的苦痛を与えること」、「逃げられない閉じた集団(学校)の中で、対抗力のない弱者に対して、正当な理由なく繰り返される私的制裁」などと定義され、学校及びその周辺において、生徒の間で、一定の者から特定の者に対し、集中的、継続的に繰り返される心理的、物理的、暴力的な苦痛を与える行為を総称するもの
(東京地方裁判所八王子支部 昭和63年(ワ)389号 判決)
東京地方裁判所八王子支部 昭和63年(ワ)389号 判決 - 大判例

 だっていう。
 
 いじめの定義が昭和63年東京地裁判決!
 ヤバくないですか!?
 
 現職の教員に聞いたらみんな「それはやべえ……」って言いますよこれ。
 みんな、いじめについては校内研修で繰り返し聞かされてるはずだから。
 
 文科省によるいじめの定義は、平成25年以降、

児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/06/26/1400030_003.pdf

 になっています。
 
 つまり、「優位に立つ一方が」とか「集中的、継続的に繰り返される」といった条件は消えている。
(なんでそうなったかというと、いじめの事実を学校が認めない事案が多発したためにどんどんいじめ認定のハードルが下がっていた、という残念な話もある)
 
 それはわりと常識のはずなのですが……どうも講習をやってる先生は知らないらしい。
 
 そしてその講習のタイトルが「教育の最新事情」なんですよ。ギャグかな?
 
 ギャグならギャグでいいんですけど、それを聞くために9000円払ってるんですよ私(なおこの講習は6時間)。
 
 で、講師の先生、今は大学にお勤めだけど、以前は教員だったり児童相談所の職員だったりしたことがあって、その時代の経験談を話すこともあってそのエピソードはまあ興味深いといえば興味深い。
 でも、そういう個別の事例の話はもちろん試験には出ませんでしたね!
(試験はオンライン。講話のスライドをノート代わりにキャプチャしておいたんだけど、見るまでもなく超簡単だった)
 
 で、もう一つの団体。
 こっちの試験は紙ベースで、事前に試験問題を郵送してくれたんですよ。
 それに記入して送り返す方式。
 
 そしてそれが、なんか、動画を見るまでもなく答えられる……。
 
 たとえばの話、
 
「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と(ア)に努めなければならない」
「小学校におけるプログラミング教育のねらいは(イ)を育むことにある」
キャリアパスポートは、小学校から(ウ)までのキャリア教育に関わる活動について、学びのプロセスを児童・生徒自身で記述し、蓄積した記録を振り返ることができるポートフォリオである」
 
 ……のア・イ・ウに適語を補充しろ、って言われたら、まあ、すらすらできる人は少ないかも知れない。
 でもそれを、
 
「下の中から選びなさい。
1.高等学校
2.修養
3.プログラミング的思考」
 
 って問題にしたら、子どもでも正解できると思うんですがどうか。
 
 つまりそんな感じ。問題が10問とかあるけど、余分の選択肢がないので迷う余地がない。
 奧さんにもやってもらったけど、私が選んだ回答と一致しました。
 
 これで教員免許更新の資格が認定されるのか。やべえ。
 
 それでもせっかくお金を払ったので(また6時間9000円)一応動画を見ることにしたんですが……あんまり言うと団体を特定されるかも知れないのでぼかしますが、なんか、だいたい毎回同じ活動をやってる。
 
 例えるなら……
1時間目。「子どもの運動へのモチベーションを伸ばすためにはこのような点に注意して声かけをするとよいでしょう。では、実例を見てみましょう。(ミニサッカーの映像)」
2時間目。「子どもの運動機能を伸ばすためにはこのような配慮が必要です。では、実例を見てみましょう。(ミニサッカーの映像)」
3時間目。「子どもの(略)(ミニサッカーの映像)」
 みたいな感じ。
 
 いや、説明部分一回にまとめてくれよ。
 っていうか、ミニサッカーだけじゃなくていろんな活動の事例を見せてくれ。授業の参考にならないだろ。
 
 動画を見たかどうかは向こうもチェックしてる……かも知れないので全部見ますが、こういうのを30時間とかあまりに不毛なので、音量を最低にして画面の隅で流すだけにしました。
 話の内容にちょっと興味を惹かれた時だけ見る。
 
 で、その間何をしているかというと、つまり読書をしているわけです。
 
 なぜ読書かというと、最初に言った県の研修で、校内研修を実施するためには、まず自分が勉強しないとならないから。
 金を払って申し込んだ法定講習の内容が不毛なので、その動画を垂れ流す傍らで県の研修の準備に励んでいるわけです。
 
 いやこれ、オンライン講習だからよかったけど、どこかの大学とかの教室に行ってこんな講話聞かされたら、逃げ場がなくて発狂していたかも知れない……。
 
 それでつくづく思うのですが、教員免許状更新制というのは本当に無益な仕組みだなと。
 
 世の中には、
「免許更新制がなくなったら教員が勉強しなくなるのでは?」
 ……と、心配される向きもあるかも知れません。
 
 しかしご心配なく。
 そもそも現状の更新制自体が、何の研修にもなってないのです。
 
 そして、すでに存在する自治体の研修の方が、よほど研修の動機付けになっている。
 
 何せ、こっちは校内で研修をやったり、他の学校の先生の前で発表したりするわけだから、しっかり勉強して準備しないと自分が恥ずかしい。
 恥ずかしいのは自分だけではなく、学校の名前を背負って行く以上は、自分一人で資料を作るわけにはいきません。
 事前に計画を立てて校長教頭にも相談し、できた資料も内容を確認してもらわないとならない。
 
 非常に面倒と言えば面倒ですが、ともあれ研修の機会にはなっています。……お金はかからないし。
 
 だから、どうしても教員に研修をさせたいなら、更新制なんてただただ時間とお金を空費する仕組みは廃止し、自治体の研修の機会を充実させたらいいのではないでしょうか。
(っていうか事実、10年前とかに比べてずいぶん研修が増えてるんですけど……)