夏休みを利用して読んだ本の内容を備忘的に紹介していきます。
吃音の児童に対して、学校など周囲がどのように配慮していくべきか、という本。
以下に書いてあることは基本的に全部この本からの受け売り。
(カッコ内に書いてあるのが個人的な感想)
吃音とは。
まず、吃音は、いわゆる癖ではありません。
DSM-5に診断基準がある、れっきとした言語障害の一種です。
(小児期発症流暢症/小児期発症流暢障害。ハートクリニック|こころの病気のはなし)
学齢児童全体の1%が診断基準に該当すると考えられます(ただしその数字の根拠は書いてない)。
一方、言語障害通級指導教室で指導を受けているのはその5%に過ぎません。
つまり、吃音の児童の95%は、通常学級だけで学習していることになります。
吃音には3種類の症状があります。
「ぼぼぼ……」となるのは「連発」。
「ぼーーーくは……」となる「伸発」。
「………………ぼくは」となる「難発」。
そこに、手足でタイミングを取ったり、顔や舌に力が入る「随伴症状」があったりします。
「吃音」というと一般にイメージされるのは「連発」で、他の症状は存在すら認知されていなかったりします。
(幼稚園教諭で難発について知っているのは34%に過ぎなかった……というのですが、すみません私も知りませんでした。でも、ググるとWikipediaでも病院のサイトでも「3つの症状がある」と書いてある)
連発が多いのは幼児で、年齢を経るにつれ連発は減少し、難発が増えていきます。
多くの場合、3語文を話す2~5歳ごろに発症し、男子6割、女子8割が3年以内に自然に治ります。
一方、小学校2年生の時点で吃音がある児童は、小学校のうちに吃音が治ることは稀で、自分の吃音と付き合いながら思春期を乗り越える必要があります。
ただ、小・中・高・大と進学するにつれ、個別に音読する場面は減り、言い換えの工夫なども上手になるので、表面的には吃音があまり見られなくなることもあります。
言い換えの工夫とは、自分が言いづらい言葉に気づき、「ありがとう」だと発音しづらいので「サンキュー」に言い換える、のようなことです。
このため、表面的には「治った」ように見えがちです。
しかし、本人の中では話すことへの苦手意識が残っていて、そもそもあまり話さなくなってしまっていることもあり、就職活動で苦労することもあります。
吃音で本当に問題なのは発音そのものではなく、周囲が「なんでそんな言い方なの?」「ちゃんと話しなさい」などと言うことで、本人が「自分は話すのが苦手なんだ」と感じてしまい、発話意欲が下がったり、自己肯定感を失うこと。それが不登校や対人恐怖につながってしまうこともあります。
(言い換えを工夫すること自体は悪くはないように思う……というか、私も割と滑舌が悪いので、言いやすい言葉に無意識に言い換えている気がするけど、「話すのが苦手」という自覚があるから言い換えるわけで、苦手意識が強くなるのが問題なのかなと)
かつては、
「吃音は親の愛情不足」
「吃音の児童と一緒に過ごすと吃音になる(伝染する)」
「吃音を意識させると吃音が悪化する」
といった言説が多く、二次障害の原因ともなっていましたが、現在では、吃音は生来のものであると考えられています。
(裏を返すと、本書では「吃音は脳の障害であり、自然に消えることはあるが、訓練で『治療』することは困難」という立場に立っています。必要なのは周囲の配慮なのだと)
合理的配慮。
吃音が障害である以上は、障害者差別解消法などの対象となります。
(このへん、障害者差別解消の歴史なども書いてあるのだけど割愛)
従って、学校においては、吃音の児童にも「合理的配慮」をする必要があります。
「合理的配慮」では、担任が一方的に
「あの子は話すのが苦手だから発表させないようにしよう」
などと対応するのではなく、本人とも相談して、
「どうしたい?」
「こうするのとああするの、どっちがいい?」
などのように決めていくことが必要になります。
発表会などでは、本人が発音しやすい台詞を選ばせるなど。
(「合理的配慮」の3観点11項目についても表があるのですが割愛。
文科省の資料にリンクを貼っておきます)
共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告) 別表:文部科学省
特に、小学校では、音読の「すらすら読めるように」や、かけ算九九の練習(10秒以内に言えないとアウト)、「一時間に一回は発表しましょう」などがハードルになりがちなので注意。
「気持ちを込めて読めるように」だと大丈夫だったりします。
周囲の子ども向けの啓発資料が、学苑社のサイトからダウンロード可能なのでリンク。
子どもの吃音 ママ応援BOOK 子どもの吃音(きつおん)啓発資料 - 株式会社学苑社 特別支援教育、発達障害、児童福祉、心理の書籍を中心とする出版社
教師としては、つい本人に「落ち着いて話してごらん」「ゆっくりでいいよ」などと声を掛けてしまいますが、それがかえって本人の緊張を高めてしまいがちなので、どちらかというと周囲のからかい対策に力を入れる必要があります。
(厳しい。連発だけでなく、なかなか話し出せない子……難発の子にもそういう対応が必要なのだとすると。吃音じゃなくて話せない子もいるし、見分けが難しい)
吃音の子は、「歌う時はどもらない」「みんなと一斉に話す時はどもらない」といった特徴があり、つまり発話のタイミングを自分で取れないのが吃音です。
(「みんなで読もう」とかいう場面を多く設定すればいいんでしょうか)
吃音が出やすいのは、「ありがとうございます」「おはようございます」「お先に失礼します」などのあいさつや、数字の「1」、「はい」という返事などが苦手な人もいます。
「ちゃんとあいさつしなさい」などと指導されてしまうことも多いのですが、それが負担になりがちです。
また、国語の時間の音読も、「言いやすい言葉に言い換える」ということができないので難しく、「こんな漢字も読めないのか」などと誤解されてしまうこともあります。
心理的な緊張が高まると吃音がひどくなりがちなので、リラックスできる環境を作ることが大切です。
そのためには、どこかの時点で「私には吃音があります」ということを周囲に伝え、「話し方が違って当然」という雰囲気を作ることが有効です。
(……と、書いてあるのだけど、カミングアウトのタイミングってすごくデリケートな問題だよな、と思います)
(そのほか、幼稚園で必要な配慮や、中学校~高校、大学、企業に求められる配慮などが本の後半を占めているのですがそれは割愛。
ともかく、担任の見えないところでからかいの対象にならないよう、うまく周囲の理解を高めていくことが大切なのだな、と感じました。
しかし、周囲に障害をカミングアウトするにあたっては、どう伝えるかも配慮を要するし、まず保護者の理解も得ていく必要があるので、なかなかデリケートな部分だな、と思います。教師の人間力が大きく試される場面というか……)