ウチの奥さんは市役所に勤めています。
現在、市民生活課でマイナンバーカード業務を担当しています。
これが非常に複雑怪奇な業務だというのでその片鱗を聞いた話。
(以下は妻の話に基づいていますが、メモを取りながら聞いたわけではないので、内容に誤りがあったらそれは私の責任です)
システムが大変。
妻「まず第一に、マイナンバーカード業務で使うシステムは決まってるんだけど、これがすごく使いづらい。
ぱっと見1つのシステムに見えるんだけど、実はデジタル庁が作ったシステムとJ-LIS(ジェイリス。地方公共団体情報システム機構)が作ったシステムが無理矢理一つの画面に収まってるだけでね」
私「統合したフリをしてるだけのみずほ銀行」
妻「だから、こっちで入力した後ログアウトしてまたログイン、みたいなことがめちゃくちゃある。
それに、片方のシステムだけでも、
『あれ? さっき入力したデータこっちに反映されないの?』
みたいなことが本当に多くて。
……前に、マイナンバーカードの暗証番号をリセットするアプリを使って、『使いづらい』ってキレてたよね?」
私「あれな……『スマホでできる』っていうからやったけど、使いづらくて地獄かと思った」
妻「あれ作ったのがJ-LIS」
play.google.com
私「マジか……」
このアプリの使いづらいポイントは無数にあり、ユーザーレビューでも皆さん口々に言っているのですが……。
まず、生年月日の入力が「昭和1年01月01日」から始まるプルダウンメニューで、自分の生年月日までずーーーーーーーっとスクロールしないとならない。
セキュリティコードの入力にはテンキーが使えます。
さすがに「0000」からスクロールさせるのは現実的でないと気付いた模様。
それから、私がひっかかったトラップは、マイナンバーカードを読み込ませるとき、「ICカードをセットしてください」という画面になったときにセットしてはいけない、というものでした。
実際には、その次の次の画面に遷移したところで読み込ませる必要があり、さもないとエラーになります。
それも、
「ICカードの読み込みに失敗しました」
とかのメッセージが出るのではありません。
ちゃんと読み込みに成功した電子音が鳴るのに、その後の
「通信中です(この処理には数分かかる場合があります)」
で実際に数分待たされた上、
「通信がタイムアウトしました。最初からやり直してください」
になるという、ユーザーには原因のわからない形でエラーが出るのです。
そしてもう一度昭和元年からスクロールしないとならない。
あとは、スマホで顔認証する必要があります。
眼鏡をかけてはいけません。
これがただの自撮りではなく、画面に「右を向いてください」「片目を閉じてください」とか表示されるので、その指示に従う必要があります。
ところが、この字が小さくて、眼鏡を掛けないと読めない。
そして、読むために顔を近づけたりすると、その瞬間に不正と判定されて認証が失敗。
また「昭和元年」からやり直しになります。
眼鏡のおかげで支障なく日常生活を送れているけれど、本来は近眼も身体障害であり、私も身体障害者だったのだ、と、バリアフリーの大切さに改めて気付かせてくれる、素晴らしい配慮と言えるでしょう。
不正に厳しい割に顔認証の精度は低く、怨嗟の声にあふれるユーザーレビューの中で
「部屋を明るくし白い壁を背にするといい」
などの攻略情報がやりとりされているのが熱い。
私「……あのアプリ作ったところが、行政用システムの半分を作ってるの……?」
妻「暗証番号が絡むところはJ-LISの担当」
私「もう二度とあんなアプリ使うものか、と思ったし、奥様も『これは、市民に『スマホでできますよ』とか案内しない方がいいねえ』って言ってたけど……」
妻「そこのシステムを毎日使っています。
私はもう慣れたけど、初めて触る職員はわけわかんないと思うし、私も、通常の発行業務とかならともかく、レアケースが発生するとわりと混乱する」
制度が大変。
妻「マイナンバーカード、とにかくいろんなものと連携してるから、関係省庁が『こういう制度になってまーす』ってドキュメントをドカドカ送ってくるわけ。
それがいちいち膨大な量でさあ……」
私「マニュアルの山」
妻「マニュアル、ではないんだよね……。
『AはBとします』『CはBとすることができます』『DはEまたはFであるとき……』みたいな文面が延々と連なってるの。
具体的に自治体に何をどう処理させたいかが書かれているわけではないから、こっちはそれを読み解いて、具体的な手続きの手順に落とし込まないといけないわけ」
私「逆・手続き型生成」
妻「もうわけがわかんなーい、って時、係長が
『そうだ、省庁の市民向けサイトを見よう』
って言って、サイトを見たら、そっちはさすがに一般向けだからある程度わかりやすく手続きの手順が書いてあったりする」
私「市民が市民向けサイトを見るとき、市役所もまた市民向けサイトを見ているのだ」
妻「でも、肝心なところが
『詳しくは自治体の窓口にお問い合わせください』
とか書いてあって、いやこっちもわかんないんですけど! ってなることもある」
私「そして誰もわからなくなった」
妻「あと、マイナンバーカード周りはとにかく制度変更が頻繁。
で、制度改正があるたびにまた膨大な文書が送られてくる。
それで、制度がどうなってるのかよくわからなくて、省庁から来た通達を確認する時、当然最新版を確認するんだけど、するとそういう時に限って
『以前の通達の通り』
とか書いてあって、どれだよ! ってなる。
それに、省庁の人だって、自分とこのマイナンバー関連業務はたぶん把握してるんだろうけど、他の省庁のことは全然知らないものね。
それが自治体には全部来る。
マイナンバー制度の全貌を把握してる人は誰もいないんじゃないかなあ……」
私「人間の能力を超えている感がすごい」
妻「それこそAIになんとかして欲しいよね……」
私「ミスが許されない業務にAIは向かない気がする……」
妻「それに、ウチでは、内規的な文書はAIに読ませてはいけない内規になってるんだよね」
上が大変。
妻「関係する各省庁から、
『ある自治体でこういうミスがありました』
みたいな注意喚起がちょくちょく送られてくるんだけど、それが自治体職員をバカにしてる感じが端々から伝わってくるんだよねえ……。
『あのさあ、市民からこういう苦情が来てるんだけど、困るんだよねー。
お前らバカだから読めないんだろうけど、ちゃんと規則にこう書いてあるだろ? な? 書いてあるよな?
ちゃんとその通りにやってくんないと困るんだよ。
ほら、お前らにもわかりやすいように注意喚起の文書書いてやったからな?』
って感じで」
私「複雑なシステムだし、全国で見れば時にはミスもあるよねえ」
妻「それもあるし、そもそも制度が無理難題な場合も多くて。
例えば、
『長期出張者は代理人がマイナンバーカードを受け取れることになっている。
にもかかわらずに窓口で断られた、という苦情が何件も来ている。
できることになってるんだからお前らちゃんとやれ。ちゃんと規則を読め』
とか言われるんだけど、長期出張者の代理人が受け取るには、代理人が、
・本人のマイナンバーカードの交付通知書
・会社からの辞令
・身分証明書(最低2点。うち1点は顔写真付き)
を持ってくることが必要なのよ。
辞令の時点でハードル高いんだけど、顔写真付きの身分証なんて、大抵は運転免許証しかないし、免許証は出張してる本人が使ってることが多くて、代理人に預けられないでしょ?
だから、代理人が窓口まで来たけど身分証がなくてお断りせざるを得ない、ってことが大半なんだよね。それが苦情になってるんじゃないかと思う。
でもそれは自治体窓口が悪いのか? っていうさあ……。
あと、
『自分の居住する自治体では、事前に予約しないと手続きできないことになっており不便だ、という苦情が何件も来ている。
国民の利便性を向上させるのがマイナンバーカードだ。予約なしでもちゃんとやれ』
みたいな『注意喚起』も来るんだけどさあ……。
だったら予算と人員をくれ!
ウチは予約制じゃないけど、どうしてそういう自治体がわざわざ予約制にしてるのか、考えてみて欲しいよね」
私「一件一件の手続きが煩雑で時間がかかるのも、受け入れを絞らざるを得ない一因だよね」
妻「大きな自治体の中には、市内各所に『マイナンバーセンター』みたいなのがあって、交付とか更新みたいなよくあるケースはそこで扱って、国外転出とか特急発行みたいな特殊な手続きは本庁で、みたいにしてるところもあるみたい。
それなら、比較的簡単だけど数が多い手続きはセンターに任せて、本庁はややこしい事例だけに集中できるよね。
でも、ウチは全部一つの窓口でやってるからねえ……」
とにかく大変。
私「ややこしい事例、って例えば」
妻「例えば……特定在留カード。
これは要するに在留カードがマイナンバーカードと一体化したやつなんだけど、『外国人からは金を取ろう』って考えた人がいたらしくて、手続きに手数料が必要だったの。
しかもこれが、例えば同じ受け取りでも、『窓口で受け取る場合は270円』『発送の場合は290円』とか、ケースごとに金額がチマチマ違うわけ」
私「うわあ」
妻「その上、その手数料が、入管庁にいくら、J-LISにいくら、って決まってて、両方に分けて納付する必要があるの」
私「うわあ」
妻「しかもその上、入管庁は
『ウチは現金は扱ってません。収入印紙で納付してください』
J-LISは
『ウチは収入印紙は扱ってません。現金で納付してください』
とか言うの!」
私「1つの事務の手数料なのに両方必要?」
妻「だから、窓口に来た外国人に、
『郵便局で何百何十円分の収入印紙を買ってきてください』
とか伝えないといけない。
日本語が不自由な中国人とかベトナム人とかに」
私「数百円のために現場の負担がすごい」
妻「で、その関連の要項が改正に改正を重ねて今第5版になったんだけど、版を重ねるごとに無料の範囲が増えて、第5版でとうとう全部無料になりました」
私「よかった」
妻「でも、遡って全てが無料になるわけではなくて。
わざわざ県から注意喚起が来たんだけど、
『無料になるのは10月1日以降の申請についてです。
交付が10月1日以降であっても、申請がそれ以前である場合は、申請日の規定が有効になります』
って」
私「……つまり、第5版が出たことでその前の版が無効になるわけではなく……」
妻「そう。1~4版は依然として有効だから、手続きの種類によって手数料の金額が変わるだけでなく、同じ手続きでも申請の期日によって変わる。
最初から全部無料にしておけばこんなことにならなかったのに……」
私「Papers, Pleaseより酷い」
「Papers, Please」は、毎日法令が変わって手続きが複雑になるゲームでしたけど、それでも有効なのは常に「今日の規則」であって、「前の日付の規則を参照しろ」とは言われませんでしたからね……。
妻「で、もうこれは特定在留カードまわりのぐちゃぐちゃのほんの一部だし、しかも特定在留カードなんてマイナンバーカードの制度のごくごく一部だからね」
私「氷山の一角のそのまた一角が地獄」
皆さんにアドバイス。
妻「現在、とにかくいろんなものがどんどんマイナンバーカードに統一されていますが、運転免許証との一体化などは、当面控えた方がよいと思います。
というのも、現在の規定では、例えばマイナンバーカードを紛失した際の再発行には、身分証明書2点、もしくは顔写真付きの身分証明書が必要なんですね。
ところが、身分証といっても、保険証はすでにマイナンバーカードと統一している方が多いでしょうし、顔写真付きの身分証は運転免許証しかない方も多いと思います。
だから、万一、運転免許証と一体化したマイナンバーカードを紛失してしまうと、再発行に必要な身分証明書が揃えられない、という事態に陥る可能性があります。
(それに、身分証明書が複数必要なのは紛失時の再発行に限りません)
もっとも、必要な身分証の種類も、しばしば規則が改定され、少しずつ基準が緩められてはいるのですが、それでも、現状では
『身分証を再発行するための身分証がない』
といった事態は起こりえますので、あまりなんでもかんでも一体化するのは当面は控えた方が安全だと思います」
ともあれ。
妻の話を聞いて、国民の利便性、行政手続きの簡素化ということなら、縦割り行政をそのまま現場窓口にぶち込むのはやめた方がいいんじゃないかなあ、各自治体がそれぞれに試行錯誤するのはムダだから、デジタル庁がいったん引き受けて一本化してから自治体に投げてくれないもんかなあ、などと思ったことでした。






























