「違国日記」はいいぞ~。
……実はアニメはまだ途中なのですが、原作は全巻持っています。

最初は、漫画喫茶でなんとなく手に取って読み始めたのですが、すぐに衝撃を受けて夢中になりました。
確かその時点で7巻くらいまで出ていたと思いますが、その後も単行本を追い、結局、自分で全巻揃えました。
(単行本の出るのを待つ間、
「同じ作者の別の作品を……」
と思って「さんかく窓の外側は夜」を読み、それはそれで衝撃を受けたり……。
でもあれも名作だと思う)

ちなみに奥さんに1巻を勧めたら「BL臭がすごい!」と言われてそれ以上読んでもらえなかった。
「違国日記」は、
・交通事故で両親を失った中学3年生の少女、田汲朝
・それを引き取った小説家、高代槙生(朝は彼女の姪)
の2人の同居生活と、その周辺の人々の様子を描いた作品です。(最終11巻で朝が高校を卒業する)
作中、これといって大きな事件が起きるわけではありません。
しかし、登場人物が魅力的なうえ、2人の心情の変化や、一つ一つの台詞回しがとても巧みに、自然に描かれており、引き込まれます。
……とても好きな作品なんですが……作中の言葉が選び抜かれているだけに、なかなか紹介するのに勇気がいります。
なんか、
「安直な褒め方をすると、槙生さんに電灯の虫を見るような目で見られそう」
という気がする。

添削してもらえるならむしろ光栄ですけども……。
好きなシーンとか挙げたいところですが、正直どこをとっても名場面だし、しかしそのコマだけ切り取っても、知らない人には何がいいのかわからないと思います。
(ていうか、この記事で引用するにあたって名台詞、名場面をキャプチャしようと読み返したら、やっぱり名台詞ばっかりだったし土日が溶けてしまった)
うまく紹介できないので、「私が好きな違国日記キャラベスト3」とか書くことにしました(安直!)。
それを通して本作の魅力をご紹介できたらと思います。
先に書いておくと、
1位:槙生さん
2位:朝
3位:えみり
同率3位:塔野弁護士
という、とても普通の順位です。
1位:高代 槙生
ダブル主人公の歳上の方。
両親を失って身寄りのない朝を引き取った人です。
葬儀の後、朝を押しつけ合う(それも本人の前で!)親族らの姿が許せず、義憤に駆られて朝を引き取ったのですが。
しかし、よく考えたら槙生自身は知らない人と接するのが苦手な人見知りで、自分で招いた同居生活にひどく戸惑う……という人。
部屋の片付けとか事務手続きとか自炊とか電話とか苦手で生活力が低い。
同居を始めてすぐの様子。*1

そうじ が すき…?

朝の母親……つまり自分の姉との関係が極めて険悪で、許せない思い出、軽蔑すべき理由をたくさん抱えていました。
しかし、朝と出会ったことで、朝を通して、これまでとは違った角度で姉と向き合わざるを得なくなります。



姉を思い出すたびにすげえ顔する序盤の槙生さん。

姉の言葉に触れただけで呼吸が乱れる槙生さん。
朝の……そしてその両親の家の整理に行くエピソードは、序盤の山場です。

本作は、彼女が、死んだ姉への凝り固まった思い、姉と自分にかかった呪いを少しずつ解きほぐす物語でもあります。

また、小説家の槙生さんは、言葉をとても大切にする人です。
特に、重要な話題では、決して曖昧な言い方をしません。
あたう限り的確な言葉を使わずにはいられない人です。
彼女が朝を引き取ったときの
「わたしは大体不機嫌だし、あなたを愛せるかどうかはわからない。
でも、わたしは決してあなたを踏みにじらない。
それでよければ、明日も明後日も、ずっとうちに帰ってきなさい。
たらいまわしはなしだ」*2
……で終わる一連の台詞(本来はもっと長い)は、序盤の山場です。
この態度が、笠町くん(元彼)が彼女を「苛烈な人」と評する一つの理由だとも思います。
そして嘘がつけない。
朝から「なんでお母さんのこと嫌いなの?」と聞かれた時の反応。


こんなの、
「どうしてもウマが合わない人っているでしょ~大人でもおんなじだよ~」
とでも言っておけば無難にやり過ごせたのでしょうが、それができないのが槙生さん。
ちなみに、ずっと後にほぼ同じ質問をされたときの反応はこう。

丸くなってる!
また、槙生さんは、自分が「ふつうの」生き方ができないだけに、他人に何かを押しつけたり、決めつけたりするのを徹底して避けようと常に自省する人でもあります。
(友人にも変わった人多いし)


あたりまえってことは何もない。
ともあれ、本作は、彼女が朝のことを日に日に大切に思いながらも、ついに「愛している」とは言わない――もうそんなありきたりな言葉で表現できる思いではない――物語でもあります。
2位:田汲 朝
ダブル主人公の歳下の方。
名前は「あさ」でいいのか? 「あした」とか「とも」とか読むのでは……? と思っていたが、2巻でついに「あさ」であることが判明する。

槙生さんの言葉を借りれば「愛されることに屈託がない」人。
素直で前向きで、そりゃあみんなに愛されますわよな。
さりとて脳天気なわけではなく、怒ったり泣いたりする場面も度々あります。

その傷付き方、拗ね方がまたリアルで。
朝と槙生は、2人とも、それを乗り越えながら互いを理解し、成長していきます。

中学の卒業式直前、「朝の両親が死んだ」ということをクラスメートに周知されてしまい激昂する場面は序盤の山場です。

この学校の対応ね……どうかな……家庭の事情を他の子に知らせるのはもっと慎重じゃないかな、って気もするけど……でもこういう対応もあり得るのかな……。
一方で、高校デビューと同時に
「親が死んで一緒に暮らしてるおばさんが小説家で~」
とかぺらぺらしゃべって、そのことを一人で恥じたりする。

そして槙生さんは、憎むべき姉の子が素直で快活なことに戸惑い、その一方で、朝の中に一瞬姉の姿を見てしまったりもする。


朝にとっても、槙生やその知人たちは、想像もしなかった未知の世界との出会いになります。


本作は、朝が槙生という「違国」の人と出会うことで、自分が「当たり前」だと思っていた全てを見つめ直す物語でもあります。
両親を失った直後だけれど、めそめそすることはありません。

しかし、
「お父さんとお母さんが事故で死んだので…」
と、日記の文面を考えた途端に手が滑って箸を取り落とすシーンとか。
突然寝てしまうとか。
本人も気がついていないだけで、実は無意識にとても衝撃を受けていることは、何度も形を変えて暗示されます。

本作は、朝が両親の死と向き合い、「死んだ両親は何者だったのか?」を問う物語でもあります。
また、普通の中高生なので、槙生さんと違って言葉に対してそこまで意識的ではない。
朝の何気ない一言について話題にする、槙生さんと友人の作家たちのシーンが印象的です。



この辺の、語彙、言葉遣いの話も、全編に通底するサブテーマだと思います。



「むげん」。
3位:楢 えみり
朝の親友。
周囲の環境が一夜にして激変してしまった朝ですが、友人のえみりは朝と同じ高校に進学し、良き理解者としてともに歩みます。
(朝はえみりのことを……以前より理解するようになります)
今さらですがネタバレなので畳みます。
人は、生まれや性別、社会的身分などとは別に
「その人自身である」
ということ。
「なりたい自分になる」
ということ。
「どこへでも行けるし何にでもなれる」
ということ(現実のこの社会はそうではないかも知れないが、本来はそうあるべきなのだ、ということ)。
それが、本作の根幹にあるテーマだと思います。







3位:塔野和成
弁護士の人。
槙生さんが朝の未成年後見人になった時に担当になった、らしい。
だいぶ脇役だけど、個人的にはえみりと同率3位です。
以前(って3年前!? マジで!?)話題になった「違国日記」批判の記事があって。
anond.hatelabo.jp
そこでは
「不思議ちゃんのガリ勉弁護士。コイツはまともに人間として描写されてない」
とか言われていたのですが、私はこの人すごい好きだし共感するんですよね……。*3
この人、悪い人ではないのです。
むしろ、仕事に熱心で、朝の幸福を願っていて、頭もよくて勉強ができる。
でも残念なことに共感能力が低くて、他人の気持ちを推測できない人なのです。
そして、何か口に出した後から
「あっ、私、また何か失言を……!」
とか慌てる。

終盤、大学受験を控えた朝に、
「すみません、私は勉強で苦労しなかったので受験生の苦労に共感できないんです」
とかバカ正直に謝ってしまう。
その上で
「がんばってください」
とか、いかにも定型文の励ましをして大笑いされてしまう。

そういう自分の欠点はよく自覚していて、悩んでもいます。


同じ事務所の上司(だと思う)から言われるって相当だぞ。
この人は、他人の気持ちがわからない、という社会性の欠陥を、「人権」「子どもの権利」「虐待防止」みたいな外部の倫理指針を内面化することで補い、あとは「勉強ができる」という特技でどうにか人生を乗り切っているのです。
この点、槙生さんの、やっぱり社会性に欠けるところを「文才」という武器で一点突破して生きている姿によく似ていると思います。
私は勉強も文才もからっきしだけど、非コミュなところだけは同じなので、こういう人たちに憧れるのかも知れません。
脇役は脇役ですが、最終話で、槙生さんやえみりとともに登場する人なので、やっぱり重要な役回りなんじゃないかな、と思います。
*まとめ。「違国日記」はいいぞ。
そんなわけで、「違国日記」は本当に名作だと思います。
ちなみに、前掲の批判記事を引用して再び本作を批判してる記事が最近あったんですが。
note.com
おおよそ、どちらも「男らしさの去勢がうんぬん」「男性社会批判がうんぬん」という批判です。
しかし、ここまで見て明らかなように、本作は、男性にせよ女性にせよ、「普通の」生き方から外れてしまった人、そう生きざるを得なかった人々の物語です。
だって本作、主要な登場人物には「女性らしい女性」もいませんよ?
(えみりの母くらいか?)
槙生さんの友人、醍醐奈々も、こんな述懐をします。

親の期待に添った「普通の」人生を歩んではいない(しかしそれを後悔してもいない)、という。
一方で、朝の母親は、「普通に生きる」ことへのこだわりが強かったために苦しんでいた、という描写があります。
(朝の両親は内縁関係で……朝の母は、そのことを周囲に伏せていたのです)

決して、男性だけに「男性社会から降りろ」と要求する物語ではありません。
男女問わず、多様な生き方があって良いのだ、という話です。
……いや……実は、それでも私も不自然だと思うところがちょっとあるのですが……(笠町くんが自分語りするところ)、それは別の機会にしたいと思います。
ともかく、「違国日記」はいいぞ。
























