大谷選手が寄贈したグローブが、体育の授業で使われることはありません。

 大谷選手が、国内の小学校にグローブを寄贈してくださる予定だとか。
 それでいろんなことを言ってる人がいますが……。

大谷翔平 ジュニア用グローブ約6万個を日本のすべての小学校に寄贈へ | NHK

「校長が持って帰る」「担当教諭がメルカリで売る」「しまい込まれて日の目を見ない」この辺の事例は少なからずありそうだから、体育でバリバリ使って欲しいもんだ。

2023/11/09 18:04
b.hatena.ne.jp
 あのですね、そもそも小学校の体育って、グローブ使わないんですよ……。
 
 小学校の体育の内容は、低学年・中学年・高学年で分かれています(算数みたいに学年ごとではない)。
 
 文科省の資料。
ゲームについて~ベースボール型ゲーム

 
 表の通り、子どもの発達段階に合わせて、
低学年:ボールゲーム
中学年:ゲーム(ベースボール型ゲーム
高学年:ボール運動(ベースボール型
 という感じで発展していきます。
(「ベースボール型」の他、「ゴール型」はサッカー・バスケ系、「ネット型」はバレー系)
 
 まず中学年の「ベースボール型ゲーム」。
 ピッチャーが転がしたサッカーボールをバッターが蹴る「キックベース」、ティーの上に置いたゴムボールを手やラケットで打つ「ティーボール」などを扱います。
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 高学年の「ベースボール型」。
 ピッチャーが投げた柔らかいボールをバットで打つ「ソフトベースボール」などを扱います。
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 動画では「ソフトボール」って呼んでるけど、いわゆるソフトボールとは全然違うゲームなのでやめて文科省
 
 ルール的には野球より簡略化されていて、ランナーにタッチするのではなく、拾ったボールに守備側が集まるとか、打者一巡でチェンジとか。
 というか、より楽しく遊べるように、子どもたちが相談し、自分たちの実態に合わせてルールを調整することが奨励されています。
 
 しかし今回一番重要なのは「動画見ても、誰もグローブはめてない」ってことですね。
 だって柔らかいボールを使うし……。
 
 余談ながら、昨今では、ドッジボールをやるにも、ソフトバレーボールみたいなふわふわしたボールを使います。
 私が子どもの頃は、バスケットボールに使うような固いゴムボールが飛び交って、それがみぞおちに直撃して泣いた記憶があるんですが、今は全然。
 それでも「首から上はセーフ」というルールだけは残ってるので、子どもたちは姿勢を低くして積極的に頭から当たりに行ったりします。
 
 低学年? 低学年は、そもそも「ベースボール」ではないので……。
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 一年生なんて、ドッチボールですらルールが把握できないことがあるんですから。(当たったらどこへ行けばいいのかわからないとか、当てても戻ってこないとか)
 アウトとかチェンジとか進塁とか無理ー。
 
 で……低学年用のグローブを3つ寄贈してくださるんですか……そうですか……。
 
「指導要領になくても野球を扱ったらいいだろ!」
 ってお考えの方もいるかも知れませんが、指導要領は一応子どもたちの発達段階を考慮して編成されています。
 
 掛け算九九を学習してない子に割り算を教えられないのと同じで、まともにボールを投げられない(低学年だと、ドッジボールのコートの反対側までボールが届かない)子にグローブはめて野球やれっていうのは無理です。
 
 もちろん、個人的に野球クラブに入ってる子は別でしょうけど。
「低学年用グローブ」というものが存在する以上、そういう子もいるでしょう。
 
 そりゃあ、個人的に習ってれば、低学年で25m泳げる子もバイオリンが弾ける子もいますわな。
 でもそれは低学年の授業でみんなにバイオリンを弾かせて25m泳がせて野球をやらせられるという意味ではない。
 
 無理にやらせても、「わけがわからなかった」「楽しくなかった」「ボールが怖かった」という記憶が残ってしまって、大谷選手の意図と逆効果になってしまう気がします。
 
 それでは、もらったグローブがどうなるか……は、まあ私が決めることではありません。
 おそらく、
「校長会で検討して、市内で統一した対応を」
 みたいな話になると思います。
 でもたぶん、正面玄関のガラス戸に、色々な賞状やトロフィーと並んで展示されることになるのではないでしょうか。
 
「ちゃんと活用しろ!」
 という声もあると思うのですけど、冒頭にあるような
「メルカリで売ったんじゃないか」
 とかあらぬ疑いをかけられてもアレなので、みんなの目に見えるところに飾っておくことになるんじゃないかと。
 
 そもそも使えといわれても、本校の場合、学校の備品にグローブがないんですよね……授業で使わないから。
 そこへ3つばかりもらっても野球はできません。
 
 むしろ、中学校は授業でソフトボールやるから、そっちに寄贈した方がまだいいんじゃないかと思うのですが……。
 
 っていうか、学校にとって、寄贈品ってたいへんめんどくさいものです。
 いただいたものなので、うかつに処分できない。
 
 これまで、あちこちの学校で、半ば風化したような動物の剥製とか、ばかでかい彫刻とか、壊れかけた模型とかを見てきました。
 どう考えてもゴミだろ、って思うようなものが後生大事に取ってある時、だいたいどれも「寄贈」って札がついてるんです。
 
 大谷選手のグローブもそういうことになるのではないかなあ、と思います。
 
 もちろん、校内に野球部があるとか、有効に活用できる学校も必ずあるとは思うのですが。
 でも、だったら、せめて学校側に希望をとってほしいな、と思います。
 その方がお互い幸せなんじゃないでしょうか。
 相手の都合を聞かずに送りつけるのが迷惑なのは、何も被災地への支援物資だけではないと思うのですよね。
 
(個人的には、体育振興のためなら、グランド用の砂を1トンくらい寄贈するといいんじゃないかと思います。あれ減るので……あっ、でもちゃんとお住まいの地域の学校に相談はしてください)