読書まとめ「吃音のある学齢児のためのワークブック」

 夏休み自主研修の第4回。
 今回の本はこれ。
吃音のある学齢児のためのワークブック: 態度と感情への支援
 表紙だと一見わかりづらいけど、著者はアメリカの人で、これは翻訳なんですね。
 
 ワークシートとその活用法が中心、と言ってもいいかも知れない。
 
 1章は、まあ前書きです。指導者の役割についてとか。本書のねらいとか。
 
 なるほど、と思ったのは、「吃音の重症度と本人の意識は違う」ということ。
 客観的には大したことのない症状でも、深く思い悩んでいる子はいるし、逆に、顕著な吃音でも、周囲が受容的で本人が気にしていない状態にもなりうる。
 
 2章は、子どもと指導者(または保護者)のコミュニケーションについて。
 箇条書きでまとめると、
 
・自分の吃音への否定的な感情が緊張を引き起こし、吃音を悪化させる。
・子どもの否定的な感情をありのままに受け止めることが必要。
・傾聴、言葉返し(おうむ返しにする)、真意探り、ラベリング(~ってことかな?)、受容。
 
 このへんは、いわゆる「カウンセリングマインド」に通じるものがあるな、と思いました。
 吃音の子どもだけでなく、日常的な子どもとの(あるいは大人同士の……)コミュニケーションでも必要なことかな、と感じます。
 
 はっとしたのは、「受容」というのは、子どもの感情をきちんと受け止めることだ、という話。
 だから、「どもるのがいやなんだよ」に対して、「大丈夫だよ、ずいぶん良くなったよ」と「気にするほどじゃないよ」等々と返すのは受容的でない。
「そうかあ、どもるのが嫌なんだね」と、一旦引き取ってあげないといけない。
 
 これ、「絵が上手く描けない!」とかかんしゃくを起こす子相手にやってしまっていたなあ、とか反省。
 
 それから、
 
・価値付け褒め言葉ではなく励まし褒め言葉(見たまま、事実を伝える(おうむ返し的な考え方)努力や進歩を認める、Iメッセージ。何がどうなったのか、どう成長したか、相手の良さは何かの総括)
 
 自分なりに考えると、例えば「先生、なわとび見て!」って言う子に
「上手だね! いいね!」……っていうのが「価値付け」。
「すごく早く跳べてたね(事実) 休み時間にもいっぱい練習したんだね(努力) びっくりしたよ、見せてくれてうれしいな(Iメッセージ) もうなわとび名人だね(総括)」
 みたいな感じ……かなあ……(自信なげ)
 
 それから、吃音の子に対応する上で、症状だけでなく、背景や周囲のアセスメントが必要。
1.生育歴
2.吃音症状の頻度と重症度
3.認知、言語の発達の状態
4.構音の状態
5.運動能力
6.子ども自身の吃音に対する態度と感情(本書で主に扱う)
7.子どもの吃音に対する保護者の思い
8.子どもの吃音に対する担任の思い
 
「話すのは好き?」
「話し方をどうしたいの?」
「話し方がどうなっちゃうの?」
「どんなとき(誰と話す時)そうなっちゃうの?」
「誰かに何か言われたことある?」
「話しやすくするためにやっていることはある?」
「そんなときどんな気持ち?」
(なお、自分の吃音に気づいていない子に吃音について根掘り葉掘り聞くべきではない)
 
 3章は、実際に指導に使うワークシート……かな。
 子どもが自分の吃音をどう捉えているか、を知るためのもの。アセスメントの手段の一つ。
 子ども自身が描き込むことを想定したものもあれば、特に低学年向けに、教師がインタビュー的に聞き取りながら記入することを想定したものもあります。
 
「きみは、どう思っているの?(自分の話し方についてどう認識しているか)」
「10のことばで自己紹介(自分の長所と短所をどう捉えているか)」
「連想ゲーム(「ぼく・わたしは、絶対    ない」のような文章の空欄に思いつく言葉を書き込む)」
「避けるの、どのくいら?(どんな場面で話すことを避けるか)」
「保護者の方にお尋ねします」「先生にお尋ねします」(どんな場面で吃音が見られるか、どんな時話しにくそうにしているか、周囲の子の様子はどうか、など)
 
 こういったものが15種類あります。
 本書の特徴として、このワークシート本体に続いて、実際に指導を受けた子どもによる記入例が掲載されていることです。
(もちろん原文は英語なので、日本語のPOP体か何かで印刷されている)
 そして、「キャリンは、自分の吃音に対して強い否定的な感情を抱いていることがうかがえます。その一方で…」のような、著者による簡単なコメントがついている。
 ワークシートの活用法が具体的に分かるのでいいな、と感じました。
 
 ちょっと、文化の違いを感じるところもありますけど。
 
 4章は「指導の手立て」。
 
・スピーチノートを作る(何を学んだか、練習したかを自分でまとめる)
・話すということ、どもるということ(発音の仕組みについて知る)
・今週の質問(指導者に聞きたいことを書く)
・大事な話をしよう(吃音に関連したテーマについて。マッピングフローチャートなどで考えをまとめていく)
・問題解決計画(自分の課題が何であり、どんな気持ちで、どう取り組んでいくか、短期的なチャレンジを考え、後で振り返る)
・考えを変えよう(何が不安なのか、ネガティブな気持ちになっているのは何かを見直す)
・苦手にチャレンジ(話すことが比較的容易な練習から苦手な場面へ向けて、スモールステップで練習計画を立てる)
・吃音体験(どんなどもり方があるかを書き出し、それを身近な人にやってもらって採点する。吃音に対する不安を和らげる手立て)
・伝えよう(担任など身近な人に吃音について相談したり、クラスでプレゼンを行ったりする)
 
 これも、実際の子どもの具体例が載っているのでわかりやすい。
「発音の仕組みについて知る」の準備として、「一緒にピザを作る」が出てくるの、おおアメリカだ、って感じがする。
(発音には声帯や脳や肺や横隔膜が複合的に関わっていることを、ピザ生地やソースやペパロニやチーズの関係になぞらえるというですね……)
 
 5章は「指導の例」。
 3・4章で出てきたワークシート、手立てが、個別の児童にどのように活かされたか、という指導事例。
 8歳のヘイリーから、15歳のフランクまで、4名の児童について、どのようにアセスメントが行われ、どんな目標が立てられ、どんな手立てが講じられたかが書かれています。
 ここでも、中心になるのは文章じゃなくて子ども自身が書いたワークシートです。
 
 内容としては以上。
 B5サイズで200ページある本ですが、文章中心なのは1・2章だけで20ページしかないので、わりとすぐ読むことができ、具体的な事例が中心なので参考になりました。