「いじめ」は、武道家が戦える相手ではない。

 なんか、いじめ防止に武道家の先生を、とか言ってる間抜けがいるらしいんですが。
 実際、私がいじめ対策にあたった時……そして力及ばなかった時のことを書いておこうと思います。
 
 数年前、私が小学校高学年を担任していた時のことです。
 
 とある女子児童の保護者から、連絡帳を介して、
「うちの子がいじめられている」
 という訴えがありました。
 
 なんか、土日にグループで遊びに行った時に、その子だけが仲間はずれにされたとかなんとか。
 
 ……お役所的には
「学校外の出来事に学校は責任を負いません」
 でもいいんですが、まあそうはいかないのが学校なわけで。
 
 個別に事情聴取をしたり、家庭訪問をしたりと、色々一生懸命対応に当たったんですが……。
 
 しかし、事情聴取の結果は惨憺たるものでした。
 どの子も、嘘などついていない表情で
「覚えがない」
 とか
「むしろ自分の方がいじめられた」
 とか言うばかりで、一向に実際の状況は明らかにならず。
 
 ただ感じられたのは、その日、その時の問題というよりも、そもそも前の学年から色々トラブルがあり、そのしこりが残っているらしい、ということでした。
(そんな状況なら一緒に遊びになど行くな、と思うのですが、そうならないのが女子の「仲良しグループ」というやつなのでしょう)
 
 ……一方、家庭訪問の方もますますわけのわからない話で。
 
 とりわけ印象に残っているのは、関係児童の一人の家にお邪魔した時のことです。
 お茶を出してくださったおばあちゃん(児童の祖母です)が、
「あの家のお嫁さん(相手児童の母親です)
 について、声を潜めて悪口を聞かせてくれました。
 前の旦那さんがどうとか遺産がどうとか……。
 
 ……あるいは、前の学年というより、もはや前の世代からのトラブルであったのかも知れません。
 
 結局、全ては藪の中でした。
 その対応の途中で私は鬱病と診断され、半強制的に休職することになったからです。
 
 その後がどうなったかは知りませんし、その半年間のことは(再発予防のために)極力思い出さないよう心がけていたおかげで、今になってみるとなんとも記憶が曖昧で、読者の方には申し訳ありません。
 
 ……などと書くと、あたかもいじめ対応が鬱病の原因であったかのようですが、別段問題はそれだけではなく、学級経営全般がうまくいっていなかった……というか、結局は私の指導力不足なのだろうと思います。
 
 あと、赴任したばかりの学校で他の職員に協力を求めづらかったとか、管理職がさっぱり人の話を聞かなかったとか、まあ色々あります。
(今にして思えば、一人で抱え込んではいけなかったのでしょうが……。相談しづらい雰囲気でもあったのです)
 
 私個人の細かい事情はさておき、こういった状況を踏まえて考えて欲しいのですが、仮にその時「武道の先生」が学校にいたとしたら、こういう事態に一体どう対処してくれたのでしょうか。
 誰が誰をいじめているか、ということも必ずしも明らかではない、「いじめ対策」において。
 
 これは憶測ですが、谷川副大臣が想像する「いじめ」というのは、力が強くて粗暴な子が、ひ弱な子をいじめる……いわば「ジャイアンのび太」みたいな、いたく単純なものなのではないでしょうか。
 おそらく副大臣の脳内の学校では、ジャイアンのび太をいじめていて、教員はそれを指導しなければいけないのだけれどひ弱で指導できない、とかそんな状況なのだと思います。
 
 実際の状況はそんな単純なものではないのです。
 泣いている子が被害者だ、とも限らないくらいなのですから。
 
 というか、そもそもその「脳内いじめ事案」に対して、ボクシング選手がいて何をするんでしょうか。
「いじめっ子」を殴り飛ばすとか?
 
 それが必要かつ有効だ、というのであれば、単に体罰を合法にしたらいいんじゃないでしょうか。私は、それが必要だとも有効だとも思いませんが。
 別に武道家なんかいなくたって、大人が子どもに腕力で負けたりしません。それが合法なら。
 
 あと、前述の件でもそうですし、学校での子ども同士のトラブル全般についていつも思うのは、「真相はこうだ」という予断を持つことはとても危険だ、ということです。
 
 前述の件では、子どもではなく保護者からの訴えがあったので、いじめの事実があるのだろう、という前提で行動してしまったのですが……。
 思えばその時点で失敗でした。
 その結果として、「加害児童」と見なした子どもからも、その保護者からも、不信の念を抱かれてしまったように思います。
 
 もっと些細なトラブルにおいても、本人達や周囲の児童の話をつき合わせると、当初は思いもよらなかったような事態であったことが判明する、ということはよくあります。
 事前に「事件の真相はこうだろう」という図式を勝手に思い描いて、それに合わせるように子どもから告白を引きだそうとするようなことは、とても危険なことです。
 
 ……で、警察OBですか。
 
 いや……。
 
 元警察の捜査能力を生かして、教員よりも適切にトラブルの真相を明らかにしてくれる、というのなら、それは大変結構なことなんですけど……。
 
 ……でも、「武道の先生がいないなら警察OBでもいい」という意味での警察OBというのは……不安しかないのは私だけでしょうか。
 
 まあ、教育現場は、素人が
「こうすれば学校の問題なんて解決するんだよ(≒教師は馬鹿だから気づかないんだよ)」
 的な頓珍漢なことを好き勝手に口にするのにはもう慣れているんですけどね。
 
 ただ、言うのは勝手だけど、それを実行するために教育予算を割いて現場を引っかき回すのは勘弁して欲しい、というのが心からの願いです。
 

蛇足。

 
 「武道家の先生」が本当に職員室に送り込まれて来て、しかもその人が本当に
「腕力で押さえつければいじめはなくなる」
「いじめっこをちょっと締め上げてやればいい」

 的な発想の持ち主だったとして。
 
 そしたら、他の職員集団から著しく浮くのは間違いないですし、その人に児童のトラブル対応を任せようとする担任もいないのではないかな、と。
 
 ……結果的に、その「武道家の先生」自身が、
「のけものにされた」
「陰湿ないじめを受けた」

 とか言い出す事態になるのでは……などと、今から心配でなりません。
 
 いじめダメ、絶対。