「生きづらい私は発達障碍者でした」を読んで

 そういう漫画がTwitterであって賛否両論だったらしいので読みました。

(一番下にリンクしておきます)

 

 すごく正直な漫画だな、と思ったし、胸が痛くなりました。

 これが批判されるのもわかるけど、それが辛い。

 

 まず、前提として、発達障害の人は、一般に「空気を読む」「他人の気持ちを推し測る」といったことがすごく苦手です。

 

 それがこの漫画にも強く表れています。

 だから、どこの職場に行っても仕事でミスが多いし、人間関係をうまく構築できず浮いてしまい、嫌われてしまうのです。

 

 そして、その理由を本人が全然理解できないのもそうです。

 

 あの作品を批判する人たちは、

「同僚が一方的に悪人に描かれていて、主人公の反省や成長がない」

 って書いているし、それはまったくその通りです。

 

 でもそれは作者が感じたままなのです。

「たぶん同僚には自分を嫌う理由があったんだろうなあ、自分が何かやらかしてしまったんだろうなあ」

 という論理的な推測はできても、それが具体的に何だったのかはわからない。

「むき出しの敵意を突然ぶつけられた」

 という強烈な経験だけが記憶に残っている。

 

 だから「反省」はできない。自己嫌悪だけは高まる。

 

 そして同じ特性の結果として、漫画を描く時に

「自分の体験を、自分が感じた通りに描いたら、読者はどう感じるか」

 ということも、作者として想像するのがおそらく難しい。

 

 そういう状態で正直に描かれたのがあの作品なのです。

 

「自分をかわいそうに描いて同情を買おうとしている」

 とか

「同僚を一方的に悪役に描くのはテーマに則していない」

 とか批判している人がいますが、あれはそもそも、「同情」とか「テーマ」とかいう「他人の目」を意識した計算ができない人が描いた話なのです。

 

 だから、あの漫画が嫌われてしまう原因は、発達障害の人が嫌われてしまう原因と非常によく似ています。

 作者が空気を読めず、相手の気持ちを推し量れないから嫌われるのです。

 悲しいことです。

 

 だからといって、「この漫画を嫌うな! 差別だ!」とは言えません。誰がどの漫画を好きになり、嫌いになるかはその人の自由です。

(私だって、「あの漫画が好きだ! 続きが読みたい! 似たような作品をどんどん読みたい!」とは言えないです。何しろ気が滅入るので)

「あの人は発達障害だから嫌うな! 差別だ!」と言えないのと同じです。自由ですから。

 

 じゃあどうすればいいの、というと、結局のところ、

発達障害の人はそういうコミュニケーションの困難さを持っている」

 ということを理解してね、という話だと思います。

 

 作者の同僚の人も、作者が発達障害だと知っていて、

「あの人は生まれつき空気を読む能力が低いです」

「ダメな点は具体的に指摘すれば理解するけど『それぐらい察しろ!』って言っても決して察しません」

 とか「取扱説明」を受けてれば対応が違ったかも知れない。

 本人も、同僚も、お互いにストレスが減っていたかも知れない。

 

「理解ある彼くん」って表現、しばしば揶揄的に使用されますけど、別に「彼/彼女」になって同情したり愛したりはしてくれなくていいのです。

 ただ社会の側の「理解」を高めていく必要があるんだろうなあ、と思います。

 

 ……思いますけど、

発達障害の人は他人の気持ちを推し量るのが苦手である」

 という前提、はてなブックマークの人たちは、たぶん世間一般よりよく知っているはずじゃないですかね……?

 しかし元の漫画へのブコメ群は全くそういう気配がないのなんでなの……。

 知ってるのと理解してるのは違う、という話なのでしょうか。

 だとしたら、社会の「理解」を高めることの困難さよ……。

 

 似た話で、沖田×華さんという漫画家が、自分の発達障害をエッセイ漫画にしていて面白いのですけど。

毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で (本当にあった笑える話)

 しかし、Amazonのレビューを見ると、

「作者は最低の人だと思います!」

 みたいな声があってまた考えさせられます。

 

 うん……確かに最低なんですよ。

 悪気はないけど誕生日サプライズを事前に本人にバラしちゃったり、悪気はないけど友達の彼氏を寝取っちゃったりするので……。

 

 でも、この漫画を読んで、発達障害の特性について説明と具体例を見た上で、なおそういう反応になるのかあ、という……。

 まあ……理解した上でなお嫌う人が一定数いるのは仕方ないということ、かなあ……?

 

 ともあれ、件の漫画の最後にあるとおり、

「お子さんはもっと生きやすいといいですね」

 としか言いようがないし、そういう社会になっていくといいと思います。

 

 作者も、お子さんも、発達障害を治療する方法は基本的にない(必要なものは全部持ち歩く、とか、とにかく睡眠時間は守る、とか、Tips的な対処しかない)ので、発達障害の主人公が「努力によって障害を克服する」ストーリーを期待することはできません。

 成長し、課題を克服せねばならないのは社会の側なのです。


ブコメ返信

id:kishimoto0050 

空気が読めてそれに従える人は正しいという前提は受け入れなければ結局許されないのだとしたら一連の議論は救いのないもののようにも思えてしまいます。空気って誰が作るんでしょうね。

 

 私も空気を読めない人間なので、「空気を読む」ことを過度に強要する社会は息苦しい、と思います。つらい。

 しかし、じゃあみんなが空気を読まなければ生きやすくなるのか、というとそうでもないと最近思うのです……。

 発達障害の人は空気を読まないけど、じゃあ発達障害児同士なら仲良くできるかというと必ずしもそうではありません。

 お互い独自の感性を持っていてそれを曲げないので、「だって悪いのはあいつだし」をお互いに主張し続けてむしろ大変なことも多い。

「ああ、こいつはクラスでもちょっと変わった奴だから仕方ないよな……」

 って考えられるのは定型発達の子なのです。それも「空気を読む」力のなせるわざなので……。

 

id:hedgehogx

 障害は本人のせいではないとして、ではそこで発生する莫大な迷惑を誰がどう処理するか問題

 

「発生する莫大な迷惑」が一定だとすればその通りなんですが、社会の理解が深まれば「迷惑」の量が減るのではないかな、と思います。

 火とか塩素系洗剤とか、危険なものを知識なく日常生活の中で扱ったら事故が続発するけど、正しい取り扱いが知られれば事故が減るように。

 きれいごとかも知れないですし、「減ってもゼロにはならないのでは?」と言われたらまことにその通りなんですが。

 ただまあ、学校でよく「困った子は困っている子」と言われます。

 障害で一番苦しんでいるのは本人で、それは「誰が処理するか」といえば本人が「処理」しているのです。

 そして、同僚はどんなに迷惑でもいずれは同僚でなくなるけど、本人は死ぬまで本人なので逃れる術がないのです。

 

id:kkkirikkk 
悪気はなく友達の彼氏を寝取るとかあり得るのか?ってなって本が気になってしょうがない。知らないとかなら普通にあるだろうけど障害関係ないしな

id:neetnin
発達障害でも友達の彼氏を寝取るのは悪いことだと知ってる。俺も発達障害だけど発達障害を免罪符にするのやめてほしい。大抵の発達障害はクローズ就労してコンサータでバフかけて健常者世界に溶け込む努力をしてる。

 

 ……本題ではなかったのですけど、「悪気なく彼氏を寝取る」に反応してる人が多いようなので……。

(一巻はKindle Unlimitedに入ってるのでよければ読んで欲しいです。…もっとも、絵は正直、後の巻の方が読みやすいと思う)

 

 どういう状況かというと(読み返しました)、

「友人Yが、アパレル店員の男性Aを好きになってしまう(店に通って、勧められるままやたら高い服を買ったりし始める)」

「しかし相手のAは気軽に他の女子を口説いたり、女性関係がだらしない様子」

「『このままでは大切な友人が変な男にもてあそばれて傷ついてしまう』と懸念する作者(当時まだ十代)」

「ある日、Aから口説かれる作者」

「『これはAの本性を確かめるチャンス』と考え、Aに誘われるままドライブに出かけ、誘われるままホテルでベッドイン」

「事がすんだ後、『あんたはYのことなんとも思ってないんでしょう?』『Yが傷つくからその気にさせるのやめて欲しい』と、Yに近づかないよう説得」

「事の次第をYに報告、『やっぱりAはサイテーなやつだったよー』」

「激怒するY」

 という……。

 

 当時の作者は

「AはYのことを好きではなくYの一方的な片思いだったのだし、自分もAのことを好きではないので悪いことはしていない」

 ……と思っていた(むしろ友人のために体を張って「いいこと」をしたと思っていた)のだけど、事情を聞いた友人一同から罵詈雑言を浴びせられた上にYに土下座させられる羽目になったという……。

 

 ……こう……正直、あらためて説明してみると、どんな社会的理解があればこの被害を軽減できたのかしら、という感じはある。どうがんばっても迷惑ですよね(でも本当に悪いのは女癖が悪いAだとも思うんですけど)。

 しかし、作者の沖田×華氏いわく、Yさんとは今も友人だとのことなので、Yさんにとっても、長年にわたり縁を切らずに交友関係を続けるだけの何かがあったのだろうな、と思います。

 

*以下、この話の関係記事のリンク。

anond.hatelabo.jp

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