タイトルは釣り。
……のつもりなんですけど……。実際釣りどうかは読んだ方の判断に委ねるしかありません。
(長くてすみませんが。本文約4600字&脚注)
4年生のクラスでした。
特に配慮が必要な児童が2人いました。
1人目は、不登校傾向のA児。
すごく真面目で繊細で傷つきやすい子です。
2人目は、発達障害のB児。
多動で衝動性が強い子です。
A児は、3年生の時から不登校気味になり、学校に来ても、保健室登校のような形で過ごしていました。
たまに給食だけ教室に食べに行ったり、仲のいい子が休み時間に部屋に遊びに来てトランプとかで一緒に遊んだり……みたいな状態。
年度当初、これからは少しずつ教室で過ごせることを目標にしていきましょう(ただ、本人の意思を最優先し、無理はしない)という方針を保護者とも確認しました。
一方、発達障害のB児は、常日頃いろんな子とトラブルを起こしていたんですが、それはA児相手でも例外ではなく。
というか、「トラブル」の多くは
「休み時間になる→即座に教室から飛び出す→途中で他の子にぶつかる→本人は気づいていない」
みたいな、本人の衝動性に起因するもので(私は「交通事故」と呼んでいました)、相手を選ばない。*1
しかし、A児はそれを
「つきとばされた」「僕だけがいじめられている」
みたいに受け取る子なのです。
A児から「B君に押されました」「叩かれました」みたいな苦情があるたびに、本人や周囲の子から話を聞いたんですが。
B児は「やってないですよ!」って怒るし。
周囲の子に聞いても「えー……? わかんないです……」「見てたけどそんな感じではなかったですよ」という反応だし。*2
それで、担任としては、
「B君は押したつもりはなかったと思うんだけど、急いでいたからぶつかっちゃったんじゃないかと思うんだ。
これからはよく気をつけてね。
A君も、B君はわざと押したわけじゃないと思うから許してあげてほしい」
といった指導を繰り返すことになりました。
A児はそれで納得していたように見えたんですが(むしろB児の方が不満顔)、一番納得しなかったのがA児のお母さん。
「なぜ先生からBさんにきちんとした指導がなされないのでしょうか。いじめはいじめる側が悪いのではないのでしょうか。『B君には悪気はないんだ』と言われて、Aは意味がわからなかったそうです(以下2ページ略)」
……みたいな長文のお手紙が連絡帳に。
この……お母さんとの関係が、実のところ一番難しいところでした。
例えば、4月早々、入学式の前日のことです。
K村「ねえA君、明日の入学式の時、どうするかちょっと相談しよう」
A「出ます」
K村「そう? でもね、他の学年の子もみんないるから、ちょっと心配じゃない?」*3
A「大丈夫です」
K村「そう……。もちろん、A君が出られるっていうならそれでいいし、A君が座る席もちゃんとあるんだ。まあ、入学式ってほとんど座ってるだけで、他の学年の人と話したりはしないしね。
でも、保健の先生とは相談してあって、A君が入学式に出ない時は、保健の先生と一緒に保健室でゆっくり過ごしても大丈夫、ってことになってるからね? その時は、A君の入学式の椅子はどかしちゃうから、A君がいないことはお客さんにはわからないし」
A「はい」
K村「まあ、別に今決めなくてもいいんだよ。明日の朝、出たければ出てもいいし、やっぱり嫌だなあ、って思ったら保健室で過ごすこともできるから大丈夫。ゆっくり考えてね」
A「はい」
そして翌日の連絡帳。
「今日学校から帰ってきたAが、『入学式に出席するって先生と約束してしまった』と言って泣いていました。他の学年と接する機会のないようにしてほしいとお願いしていたのになぜそんなことを無理強いするのか理解に苦しみます。昨年度のR先生は、少しずつ学校に慣れていくように配慮して進めてくださったのに(以下2ページ略)」
K村「……A君、入学式出るの嫌だったの?」
A「はい」
K村「おうちで泣いたの?」
A「はい」
K村「そう……。じゃあ、今日の入学式は保健室で過ごそうか」
A「はい」
K村「あのね、嫌だったら、嫌だって言っていいんだよ。先生たち、A君に楽な気持ちで学校に来てほしいと思っていろいろ考えてるから、嫌だったらそう言ってくれた方がうれしいからね」
A「はい」
まあ……そんなわけで。
無理せず、少しずつ、本人の意思を尊重しつつ、保健室登校から教室登校を目指した……つもりだったのですが。
しかし、A児母からの長文お手紙はそれからもたびたび繰り返されることになりました。
曰く、
・昼休み、ドッジボールで上級生に集中的に狙われたのが嫌だったと言っている。
・委員会の時間、担当の先生に強い口調で指導されたのが嫌だったと言っている。
・学習プリントを配布するとき、担任が机に強く置いたのが嫌だったと言っている。
……等々。
こちらとしても、その都度、A君自身から話を聞いたり、周囲の子に状況を聞いたり、上級生の担任や管理職等々と相談して対応したつもりなのですが……。
ほぼ常に「『加害』側には全然そんなつもりはなかった」って結論に落ち着くという。(もちろんプリントの件も)
K村「……A君、嫌なことがあったらせめてその場で言ってくれるといいんですけどね……」
養護教諭「あれはたぶん、家でお母さんがしつこく聞いてるんだと思うよ。
『今日は学校で嫌なことあった? あったでしょ? 何? 何が嫌だったの?』
って。
それで、Aちゃんは『嫌だったこと』を無理矢理ひねり出してるんじゃないかな。お母さんの期待に応えたくて」
迷惑な。
K村「そういえばR先生、お母さんがR先生のことほめてましたよ。
『R先生は、少しずつ学校に慣れていくように配慮して進めてくださった』って」
R「……あのお母さん、去年は『K先生だけがウチの子の気持ちをわかってくれた』『担任にもっと指導力があればこんなことにはならなかった』って言ってたんですよ……」*4
養護「あのお母さんは、目の前にいる人を攻撃することしか頭にないんだよ。言ってること真面目に受け止めたらダメだよ」
R「去年は、連絡用にメールアドレスを教えてたんですけど、長いメールをいっぱい送ってくるんですよ……。それで、15分前のメールと次のメールで言ってることが違うんです……」
A児のお母さんは、近所づきあいや保育園でも「ちょっと変」「常識がない」「怖い」といった評判のある方でした。
……実のところ、たぶん、本件の関係者の中で、一番メンタルヘルス的なケアが必要なのはA児のお母さんなんです。
でも、それは学校にはどうすることもできない。
ともあれ、そんなA児母ですから、B児への対応で納得いただくのは困難でした。
私からも、時には校長からも「B児については全職員で対応に当たっています」といったことをお伝えしたのですが、A児のお母さんの中では、
「うちの子がいじめられているのに、担任は『本人には悪気はなかった』と言うなど、いじめの存在を認めず、適切な対応を怠っている」
という堅固なストーリーができあがってしまってですね。
ついには
「Bさんの保護者の方と直接会ってお話ししたい」
とか。
「こじれるだけだからやめろ」
って校長からも(婉曲に)お伝えしたんですが、結局直談判になって。
B児のお母さんの心労も相当なものだと思います。
B児のお母さんは穏やかな方なんですが、お子さんが2人とも発達障害気味で、家の中でも暴れたりものを壊したり。
1年生の時から(というか、幼稚園の時から)、お子さんがらみで大きめのトラブルがある都度、相手方の保護者に謝罪の電話をされているという……。
ただ、学校は、A児のお母さんに
「B君は発達障害なんです。薬も処方されてます。ああいう子なんです」
と言うわけにはいかない。そんな繊細な個人情報ぺらぺらしゃべれない。
で、A児のご両親は直談判に来て言いたいこと言って帰り、菓子折を持ってきたB児のお母さんはひたすら頭を下げていたのですが、それでB児の行動が収まるはずもなく。
(収まるくらいなら幼稚園時代に収まっている)
その後もA児の母からは、連絡帳を通じて「明らかに悪意がある」とか「異常」といった激烈な表現を含む長文のお手紙を度々いただくことになりました。
……最終的には、残念ながらA児はほとんど学校には来なくなってしまい、保護者の希望で、適応指導教室に通うことになりました……が、そちらもちょっとしたきっかけで通えなくなってしまった、と、適応指導教室の先生から聞きました。
(適応指導教室の先生曰く「あのおうちはお母さんがキーですね」)
なんでも、
「A児は一人でも自習ができるのに、教室の先生が『わからないところはない?』とか話しかけてくるのが嫌だと言っている」
とかで。
そして、隣県には、学習時間は完全にその子に任せてくれる適応指導教室があるので、父親はそちらへの転勤希望を出しているとか。
……お父さん、転勤の前に、お母さんをなんとかしてあげないといけないんじゃないかなあ……。*5
養護教諭「Aちゃん、あのお母さんと一日2人っきりで、どう過ごしてるんだろうね。どこにも出かけたりしないみたいだし……」
私は異動してしまったのでその後のことはわからないのですが、今でも
「一体どうすれば良かったんだろう……」
と思うのでした。
本件で、私や、周囲の先生方が最善を尽くしたことは、胸を張って言うことができます。*6
しかし残念ながら、結果にはつながりませんでした。
……これ、もし将来、A児に何かあったら、
「小学校時代にいじめが始まって不登校になった。学校側はいじめの存在を認めず、隠蔽を図った」
とか言われてしまうんだろうなあ……と思います。
とはいえ、本件で「いじめはなかった」とは言えません。
現在の文科省のいじめの定義は、要するに「精神的苦痛を感じたらいじめ」です。
で、A児は「僕はいじめられている」と思って苦痛を感じていたのだから、いじめは「あった」としか言えない。
ただ、B児が意図的に「いじめた」のか、というと、それは難しい。
……まあ……B児も「Aのことは嫌い」と言っていたので、全く何の害意もないとも言えませんけど。
K村「なんでA君のこと嫌いなの?」
B「ぶってないのにぶたれたとかウソつくから」
まあ……君の視点だとそうだろうねえ……。
こういう、ナチュラルに周囲を傷つけている子が
「自分は『普通にしている』だけなのに、周囲からのけものにされている」
という被害意識を持ってることって実はよくあります。
そういう意味では、本件は、「B児もいじめられていた」とも言えます。
だってB児も「暴力行為の濡れ衣を着せられた」という精神的苦痛を感じてるわけですから。……A児にその意識は全くないだろうけど。
いじめ対応で
「学校はいじめた子をかばっている」
とかよく言われます。
しかし、
「困った子は困っている子」
という格言がありますが、本件はA児・B児どちらも「困った子」であり、「困っている子」なんですよね……。(おそらくA児の母も)
みんな救えたら良かったのですが。到底力が及びませんでした。
*1:とはいえそれとは別に、怒るとすぐ手が出たり、順番を守るなどのことができなかったり、という問題もあります。
*2:周囲の子がB児をかばっている、という可能性は残念ながらほとんどないです。みんな大なり小なりB児の被害を経験していて「大目に見てる」だけなので。
*3:「過去に上級生に意地悪されたのがトラウマになっている」との話が母親からあったのです。
*4:1・2年生の時の担任も私だった。
*5:お父さんは……お母さんよりはずっと話が通じる方なのですが、いかんせんお仕事が忙しく、お子さんの状況についてはほとんどお母さんを通じて聞いているだけ、という。
*6:A児母からのお手紙のコピーとか、トラブル時の対応とかは全部記録してファイルしてあります。