昨年度は2年生を担当していました。
で、年度末ごろ、生活科で「生い立ちの授業」……つまり、生まれてから今までの自分の成長を、保護者に聞いて振り返る、という学習をしました。
そして、その発表会を、年度末の授業参観でやるという計画。
いや、これとか「1/2成人式」とかって、世間では
「センシティブな個人情報に必要以上に学校が立ち入りすぎではないか」
「被虐待児童や離婚家庭などへの配慮がない」
といった批判があるのは承知しています。
とりわけ、はてな界隈では
「学校は授業だけやってればいいのに余計なことするな」
とか蛇蝎の如く忌み嫌われている授業です。
*はてブの反応の例(どっちも主題は1/2成人式だけど)
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[B! hatena-bookmark] 「名前の由来」「昔の写真」必要か? 2分の1成人式(内田良) - 個人 - Yahoo!ニュース
でも、生活科の教科書に載ってるんだから担任の判断で勝手に省略できないじゃないですか……。
で、保護者に、これまでのエピソードを子どもたちに教えてくれるようお願いしたり。
入学以前の写真を用意してくれるようお願いしたり。
子どもたちにエピソードをいくつか選ばせて原稿を書かせたり。
原稿にあった写真をスキャンしたり。
写真がない場面については絵を描かせてそれをスキャンしたり。
正直すごいめんどくさいので担任としても二度とやりたくない気持ちでいっぱい。
写真はスキャンしたらすぐ返すけど、万一汚損したら……とか思うと気が気じゃないし。*1
「お母さんへのお礼の手紙」とかはやりませんでした。
片親とか再婚とかの家庭がないらしいことはわかっていましたが、お母さんへの手紙を書いてお父さんが参観に来たら気まずいし。
それに、手紙を書くとしたら授業の最後に渡すことになるわけですが、保護者はそれまで教室にいないんじゃないかな、と思ったので。
というのも、子どもたちの発表って、
「ぼくは生まれる前、お母さんのおなかを元気にけとばしていたそうです」
「わたしが生まれた時、お父さんとお母さんとお兄ちゃんはとてもよろこんだそうです」
「1才の時、つかまり立ちをしました。どこへでも行ってしまってお母さんはたいへんだったそうです」
「年長さんの時、はじめてなわとびができました。おかあさんにほめてもらって、とてもうれしかったです」
「3年生になったら、字がていねいで、かきゅうせいにやさしい3年生になりたいです」
……みたいな話を、スライド(写真or本人の描いた絵)とともに発表する……という内容。
一応は全員違う内容だとはいえ、そんなに劇的に違いがあるはずもなく。
似たり寄ったりな話を30人くらいぶっつづけで延々聞かされるという……。
自分で授業参観にぶつけておいてなんですが、ものすげー退屈な内容なのですよ。
だから、保護者には事前に
「出席番号順に発表します。時間は1人あたり2分弱です」
と連絡しておき、自分のお子さんの発表だけ見られるように配慮しておきました。
第一、他の学年に兄弟姉妹がいる場合、そちらの授業も見に行かねばなりません。
何分頃に見に来ればいいのか伝えておくのは大切なことです。
……という計画だったのですが。
いざ子どもたちの発表が始まってみると、保護者の真剣さたるや。
もちろん、兄弟姉妹関係で途中離席する保護者もいたのですが、ほとんどの方が、自分のお子さんの発表が終わってからも食い入るように発表を見ておいでで。
教室後方に用意した保護者席はほぼ満席。
「どういうことなの……」
そして、授業後に回収されたアンケートはわりと絶賛の嵐。
「子どもたちの成長をあらためて感じる素晴らしい授業でした」
いや担任はほとんど眺めてるだけの『授業』でしたけど。
「今は毎日の慌ただしさに追われていますが、毎日が笑顔だったあの頃を久しぶりに思い出しました」
大丈夫ですかお母さん。
「最後の先生のお話は、まさに私が言いたかったことを言ってくださった、という思いでした。*2
みんなにその気持ちがあれば、いじめなどなくなると思います」
その、いじめが「起きない」じゃなくて「なくなる」って言い方はどういう……。
「話す順番でない子も仕事があるなど、工夫されていて良かったです」
『仕事』って言っても、発表待ちの子は自分の前に発表する子のスライド係をやる、ってだけなんですけど……。
PCのカーソルキーを押すだけの簡単なお仕事。
担任は当日は全体を見ていたいし、それに、担任がスライドをミスるのは失策だけど、2年生がミスっても微笑ましく見ていただけるので……。
まあ、もちろん、アンケートを提出されない保護者の方が多いので、不満がないのかどうかはわかりませんが。
しかし、少なくとも苦情めいたアンケートは一件もなく。
「退屈なんじゃないか」
「人権的にどうなのか」
などという不安があったにもかかわらず、結果的には、過去何十回かやった授業参観の中でも特に好評だったという……。
結局、同じ発表であっても、子どもがいない私が見るのと、実際にそのお子さんを産み育てた保護者の方が見るのでは、全く違った感慨があるのでしょう。
今回はたまたまそれが良い方向に働いたとはいえ、保護者の目線でものを見るのは難しいことだな、とつくづく思いました。
そして、はてなーの一人を自認する私としては複雑な思いですが、子どもの個人情報……特に、家庭環境や生育歴といった情報は学校からは切り離すのが望ましい、というはてな的価値観は、保護者間では必ずしも一般的なものではないのだ、と感じた次第でした。
余談
A児「ねえ先生、お母さんのおなかの中の絵って、何色でぬればいいの?」
担任「うーん……。覚えてないの?」
A児「ないよ!」
担任「まあ、赤とかオレンジとかピンクとか、そのへんの好きな色で塗ればいいんじゃないかな?」
担任「……で、君の……その絵は何の絵?」
B児「おなかの中にいた時の絵!」
担任「そう……。じゃあ、何か色を塗った方がいいんじゃないかな?」
B児「塗らない」
担任「いや……でも……」
B児「これ、ちょうおんぱの絵だから」
担任「……ああー!」
ちなみに、「今までの様子がわかる写真」というお願いに、超音波エコーの写真を持たせてくださった保護者もいました。
担任「じゃあ、お話しする台本に、『これは、ちょうおんぱでおなかの中を見た時の絵です』って書いておこうね。
……でないと、見た人びっくりすると思うから」