スキュモーフィズム定規

 さて皆さん。
 突然ですが、下の写真の物差しは、本校の小学校2年生が使っているものです。*1
 

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 皆さんは見たことがありますか? あるはずですね?
 それで、この物差しが何でできているかわかりますか?
 
 木? 竹?
 
 ……いやだなあ、そんなものでできてるわけがないじゃありませんか。
 昭和じゃあるまいし。
 
 この物差しは、もちろん、プラスチックでできています。
 端のところを拡大するとわかりやすいですかね?
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 透明なプラスチックで、裏面……つまり机やノートに接する部分に、目盛りと、茶色い塗料が塗ってあるのです。
 
 竹の物差しなんて、使っているうちに反るし、手にトゲが刺さったりしますから、子ども向きではないですよね!
  
 ……プラスチックならどんなデザインにもできるのに、なんでこんな古風なデザインなのか?
 
 ……教科書を見てください。
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東京書籍「新しい算数」2年上
 
 これ、現役小学生が使ってる教科書ですからね?
 タイトルは「新しい算数」ですからね?
 
 ……つまりですね。
 
 その昔、物差しと言えば竹、というのが常識だった時代に、算数の教科書が作られました。
 その後、プラスチックが登場して、社会にも、子どもたちの文房具にも、便利なプラスチックが普及しました。
 そしてその間、教科書は何度も何度も改訂されました。 
 
 にもかかわらず、教科書に載っている「ものさし」は、このデザインのまま残っちゃったわけです。
 
 それで、今度は教材会社が、教科書に合わせて、わざわざ「竹の物差しそっくりなプラスチック物差し」を開発したわけですよ。
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教科書の拡大
 よく見ると、教科書には「竹のものさし」って書いてある。
 
 昭和じゃないんだから……!
 
 私が10年くらい前に勤務していた学校では、2年生がこの「長さ」の勉強をするのに合わせて、まさに竹の物差しを購入していたんですけどね。
 便利な時代に……なってないだろ!
 
 何が変かって、子どもたち、普通の物差しはちゃんと持ってるんですよ。
 でも、教科書で扱う「ものさし」がこれなので、それに合わせて、別にこのヘンテコな物差しを買わねばならないのです。
 
 そして、この「竹みたいな物差し」が、2年生にとって使いやすいか、というと、全然そうではありません。
 何しろ、目盛りに数字が書いてないので。
 
 もちろん、大人であれば
「同心円のマークが書いてあるのが10cmごとで、その中間の黒丸が5cmの印」
 というのはすぐわかりますが、これが2年生には難しい。
 特に、学力が下位の子には。
 ただでさえ、cmとmmの2つの単位を扱わねばならず、頭がこんがらがる子が続出するのに。
 
 2年生を担任して、長さを測る問題がわからなくて答えがめちゃくちゃになっている子に、
「この茶色い物差しじゃなくて、筆箱に入ってる方の物差しではかってごらん」
 って言うと正確に測れる、みたいなことを何度も経験しました。
 
 もちろん、かつて、世の中でも竹の物差しが一般的で、それが使えなければ長さが測れない、という時代には、この教科書のように教えるのは非常に実践的だっただろうと思います。
 しかし現代では、こんな目盛りの振ってない物差しをわざわざ買ってまでやらせる意味がない。
 
 そりゃまあ、一部の業界とかでは今でもこういう物差しが使われているでしょうけれど、そんなのその時に読めればいいんですよ。
 
 時計だって、世の中には文字盤に数字のない時計もあるけど、初めて時計の読み方を教わる子どもにそんなの使って教えないでしょう。
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文字盤に数字がない、金色の懐中時計のイラストです。
 
 ムダなことをやっているなあ……というか。
 子どもたちに不必要な苦労を押しつけているなあ、と。
 
 文科省も教科書会社も、タブレットだとかプログラミング教育とか言う前にこういう地道なところを現代化して欲しいなあ、と思うことなのでした。
 

*1:私が今勤務している学校でも、異動する前にいた学校でも、その前の学校でもこれを使っていました。