PTAに3000円の寄付を強要されたという話について私見。

 結論から言うと、前半はあり得ないとは言えないが、後半はほぼフィクションなんじゃないかなあ、と。
 
近所の小学校PTAから、突然寄付金の強要が来る→詐欺かと学校に確認したら、ガチで学校とPTAが関わってた案件だった - Togetter
【続報】小学校PTAから寄付金を強要された方が、小学校・PTA・市の教育委員会と話し合った結果を報告 - Togetter
 
(まとめも発端のツイートも消えてるので、連ツイの2番目にリンクしておきます。
 前半https://twitter.com/vKpjIheSE5X0tXy/status/1535919100974989312
 後半https://twitter.com/vKpjIheSE5X0tXy/status/1536543835047985152

 

なくもない話。

 
・そもそもPTA会費って何?
 学校教育活動に使うお金を職員・保護者から集めるもの。
 備品とか消耗品とかを買います。
 
 例えば、うちの地元には「PTA奉仕作業」というのがあって、夏休みとかに職員と保護者が校庭の草むしりをします。
 参加者にスポーツドリンクを渡します。
 そのスポドリはPTA会費で買います。
 
 全部公費でやれって? ごもっともです。
 校庭の除草を業者に委託する費用が自治体から(=税金から)出れば、奉仕作業もスポドリも必要ないのでありがたいです。
 ぜひ地元の議員さんにそう働きかけてください。(学校職員は大体地元の有権者ではない)
 
 このように、PTA会費は自治体の予算に比べて使途に融通が利く利点がありますが、もちろん浪費できるものではありません。
 今まで見た学校だと、年度末にPTA会長と会計(どっちも保護者)が帳簿と通帳をチェックし、次年度当初のPTA総会で会計監査報告をします。
 
・賛助会員費なんてあるの?
 あるところにはある。
 
 今の勤務校にはないですが、もっと田舎の学校にいた時にはありました。
 そこでは、卒業生の保護者に年間数百円の納入をお願いする、という仕組みでした。
 つまり、在籍している6年間は「会費(数千円)」を払うのに加え、卒業後は恒久的に「賛助会員費」の納入を要請されるという……。
 正直どうなの、と思わぬではなかったです。
 
 また、集める方も、地区のPTAの担当者(保護者)が数百円のために戸別訪問するのですげえ大変らしいです。
 ベルマーク的な昭和の遺風感がある。
 
 だから、都会地のPTAでは、正会員費だけで活動を賄えるようにして、賛助会員費はかつてあったとしても廃止したんだと思います。
 
 ただ、僻地では在校生が減少傾向なので、卒業生保護者にも頼らねばならないという事情はありました。
 
 また、会費をもらう一方、一応の対価として、PTA広報部が作成した広報誌を賛助会員にもお配りしていました。
 担当者が戸別訪問で。(昭和!)
(そもそも学校が日々ブログを更新してる時代、紙の広報誌にどれほどの存在意義が……?)
 
・強制なの?
 PTAが強制でないのと同じように強制でないです。
 
 断じて払わない、という家もあったとか。
 そもそも支払いを強制する権限なんてないので。
 
 ただ、前述の通り田舎にしか存在しない仕組みなので、「そういうものだ」と思っている人が多いのは確か。
 
 似たような話として、学区内でお葬式があるとご遺族が学校に何万円か寄付するのが慣例になっている地域もありました。(もちろん学校から要求とかではないです)
 

あんまりなさそうな話。

 
・10年分取られたりするの?
 ないんじゃないの……?
 そもそも「PTA(保護者と教職員の団体)」という位置づけからして、子どもがいない家から取る、というのは筋が通らないと思うのですが。
 
 ただ、募金集めに回っている保護者が
「あの家はヨソモノの上に賛助会員費も払ってないから気にくわない。10年分請求してやる」
 くらいの私怨で行動する可能性がないとはいえない。
 
・「空調設備投資優先した為、教材の備品費が足らない」
 空調設備は市の予算でつくんじゃないの……?
 
 自前の予算で空調整備して、後から市が「空調整備するよ」って言い出したらどうするんだろ……?
(続報がまさにそういう話になってるけど)
 
 まあ、
「各教室の扇風機は昔~~さんが寄付してくれたものだ」
 って学校を見たことはあるので、耐久消費財を寄付で買うことがないとは言えない。
 
 なお、togetterのコメントにある「PTA会費で空調整備して、市の空調予算は学校が丸儲け」とかいう話はあり得ないです。
 工事業者は市が入札で決定して工事を手配するので、学校が着服する余地がない。
 
・市の教育委員会責任者の方がいらっしゃいました。
 誰それ?
 
教育委員会」と「教育委員会事務局」は似て非なる集団で。
 この場合だと教育長なのか学校教育課長なのか、はたまた(最初に電話したという)生涯学習課長なのか、と思うんですけど。
 
 ただ、この後の言動が、どうもそんなまともな経験を積んだ責任者っぽくないんだよな……。
 

なさそうな話。

・「集合時間まで時間があったのもあり、校内の現状を確認させていただきましたが、私から見て特に修繕が必要な設備、補充が必要な備品等がみあたらない」
 何その他人事感。
  
「責任者」氏も自分で言っていますが、学校の予算は基本的に教育委員会から出ます。
 
 大勢の子どもと職員が毎日利用する施設ですから、補修が必要な部分は常にあります。*1
 時代の変化で新たに望まれる設備もあります。*2
 
 このため、教育委員会は毎年、学校に対し、施設・設備等の要望調査を行っています。
 つまり教育委員会は、各学校に必要な修繕・設備を知っているはずなのです。(もちろん内容を暗記はしていないでしょうが)
 
 その調査をした立場なのに、「ちょっと見たけど修繕が必要な設備は見あたらないですね」とか言ってしまうの、「教育委員会の責任者」として無能すぎでは。
 
 それに、PTA会費で購入するものって、現実的には「テプラの調子が悪いから新しいのを」「奉仕作業で使う草刈り機の混合油を」「封筒と切手の補充を」みたいなこまごましたものです。
 その必要性の有無は、2時間や3時間施設内を見回ったところで把握できるわけがない……というのは、少しでも事務的な仕事をしたことがある方なら学校関係者でなくともわかるのではないでしょうか。
 
 ……正直に白状すると、この台詞があまりに部外者めいているので、私はてっきりこれを言ったのはツイ主なのだと理解していました。
 
 それで当初、
「部外者が早めに来て校内の現状確認なんかしたら通報されるぞ」
 と書いていたのですが、ブコメid:inet_malic氏、コメントのid:kitajun氏から指摘を受けて自分の勘違いに気づき、この項を追加しました。ありがとうございました。
 
 ともあれ、この台詞は、教育委員会が学校とどんな仕事をしているかをよく知らない人が言ったのか、書いたのか、ということだと思います。
 
教育委員会が賛助会費の存在を知らない。
 そんなわけないだろ。
 具体的にいくら集金してるかは知らない、といったことはあり得る。
 
 でも、市の予算だけでなく、PTA会費等で備品類を補ってるのは知っているはずで、
「公立のため保護者から寄付を集めること自体おかしい行為ですが」
 だの、
「市で予算出してますよね」
 って言って予算書ちらつかせるとかあり得ない話だと思います。
 
 教育委員会の人(肩書き不明)は予算書いつも持ち歩いてるんでしょうか?
 
・都内や府内への視察と出張がほかの市内の小学校と比べても多い
 ちょっと意味がわからない。
 
 ツイ主としては
「校長教頭が、地域住民から集めた金を私的に流用し、視察・出張と称して東京大阪で遊んでいる!」
 という印象を持たせたいのだと推察します。
 
 しかし、職員が勤務日に勤務地を離れるならそれは公務としての出張になります。
 申請書を書かねばならず、公簿に残ります。
(というか、記録がなければ「教育委員会の責任者」が確認できない)
 
 そして毎月末に勤務記録が教育委員会に提出され、
「なんで東京だの大阪だのにそんな頻繁に行くの? 出張後の報告は?」
 って話になるはずです。
(出張なら旅費は公費になるし、職員の出張は教育委員会にとって他人事ではない)
 
 つまり、問題になるならずっと前からなっているはずで、今ここで「教育委員会の責任者の方」が持ち出すのはおかしい。
 
 もちろん、校長教頭が有給休暇取って東京に行ってたら把握できないけど、それだと「視察が多い」って知る手段が謎になるからなあ……。
 
・っていうか
 いちいち教育委員会と校長が対立するのが一番おかしい。
 
 この局面で教育委員会が出てくるとしたら、ヒートアップしている地域の人をなだめて、校長と一緒に頭を下げて「今後気をつけますのでどうぞ鎮まりたまえ」って言うためだと思うのですよね。
 
 その上で、学校側に問題があるな、と思ったら、地域住民の前では言わず、後で校長に伝えて是正を図るのが、教育委員会の……というか、普通の社会人の行動なんじゃないでしょうか。
 
 ツイ主と一緒に校長を激詰めして火に油を注ぐのが「教育委員会の責任者」というのはちょっと理解しがたいです。
 

実際どうだったのか?

 
 以下まったくの憶測なんですが。
 
 PTAの人から募金を要求されたのはおそらく事実なんだと思います。
 そしてツイ主が断ったのも事実。
 
 たぶんその時、「PTAは任意団体であり云々」とか、PTA活動を熱心にやっている保護者にはカチンとくるようなことをカチンとくるような調子で言ったんじゃないでしょうか。
(その内容が間違っていたとは言わない)
 
 それで売り言葉に買い言葉になり、怒ったツイ主は学校と教育委員会電凸
 
 それを受けて学校と教育委員会の間でやりとりがあり、
「ツイ主氏と話し合いの場を設けましょう」
 という話になったのかも知れない。
 
 ただ、そうすると当然学校と教育委員会の間ではツイ主をどうなだめるかの相談ができていたわけで、実際にはツイ主は
「今後気をつけます、もうお宅には集金に伺いませんのでご安心を、集めた寄付金は今後とも児童の教育活動のため有効に活用させていただきます」
 くらいのことを言われて丸め込まれて帰って来たのではないでしょうか。
 
 だから、空調設備とか東京出張とかいうのは創作。
 
「校内の現状を確認した」とかいうのも創作。校長室まで行く間にキョロキョロ周囲を見ていた可能性は高いと思いますが。
 
 それで、丸め込まれてモヤモヤするし、以前のツイートがバズってしまったこともあって振り上げた拳の行き先が見つからず、創作8割の連ツイをした……といったところではないでしょうか。
 
 ……これだけ書いておいて、
「賛助金と称して集めた金で校長教頭が東京で贅沢三昧(栃木)」
 みたいな報道が近日中にあったらどうする、って話ですが。
 
 こういうネット創作実話が創作臭くなる原因は、
「お話としてはスカッとするけど、登場人物一人一人の行動をその立場に即して考えると不合理」
 ということがあると思います。
 
 だから、自分の立場をわきまえず不合理な行動を取る校長とPTA会長と教育委員会の責任者がいた場合には、全て実話ということもあり得るかも知れないですね。

*1:コンクリの劣化とか、プールの塗装の剥げとか、雨樋の詰まりとか、雨もりとか。

*2:無線LANとか、コンセントの増設とか、水洗トイレの洋式化とか。