それでも地球は動いているんですよ先生!

 「頭の固い小学校教師」の例として、
「『影が動くのはなぜですか』という理科の問題に、『地球が動くから』と書いたら不正解になった」
 という話が一時期巷間に流布したのは、ご存じの方も多いかも知れません。
 
 テストの解答を見てみましょう。

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日本標準・小学3年理科テスト
 
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拡大図
 
 ご覧の通り、「地球が動くから」も正答、と明記されています。
 
 ……まあ……この話があんまり有名になったからわざわざ業者の方で付記したんじゃないかな、という気もしますけど。
 
 それはさておき、実際の授業で、この話がどんな感じかというと。
 
K村「さあみんな、遮光板の使い方はわかったかな?」*1
子どもたち「はーい!」
K村「……ところで、ちょっと鉄棒を見て?
 さっき、鉄棒の影に重なるように白線を引いたよね?
 今どうなってる?」
A児「あっ! 線がずれてる!」
B児「影が動いた!?」
C児「地球が動いたんだよ!」
K村「でも、影って、いつも太陽と反対側にあったよね?
 さっき、みんなが走ったり、くるくる回ったりしても、影の向きは全然変わらなかったよね?
 どうして影の向きが変わったんだろう?」
D児「太陽が動いたんじゃない?」
C児「地球が動いてるんですよ!」
K村「うん、よく知ってるね。
 ……さあみんな、遮光板でもう一度、よーく太陽を見てみようか。動いてるように見える?」
子どもたち「……わかんなーい」
C児「地球が動いてるんですよ!」
K村「うん、そうだな。えーと、みんな、太陽は空にあって目印がないから、動いてるかどうかよくわからないよね」
C児「地球が動いてるんですよ!」
K村「わかったわかった……。みんな、登り棒の根元に座ってみて。それで、太陽が半分だけ登り棒で隠れる場所から太陽を見てごらん」
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遮光板で見た太陽(画像は合成です)
K村「こうやって、登り棒を目印にしたら、太陽が動いて見えるかどうか、わかるんじゃないかな」
 
 太陽の視直径はおよそ0.5度で、24時間でほぼ360度移動するわけですから、この状態で2分くらい見ていると、登り棒で「日没」を観察することができます。
 
子どもたち「……あー! 太陽動いてる!」
C児「地球が動いてるんだよ!」
K村「太陽、どっちに動いて見える?」
子どもたち「右に動いてる!」
K村「方角で言うとどっち?」
E児「えーっと……西?」
K村「そうだなあ。太陽は東から西へと……」
C児「地球が動いてるんですよ先生! そんなことも知らないんですか!?」
K村「やかましいわー!
 地球が動いているくらいのことは先生だって当然知っています! 大人なんだから!
 けれども、太陽を観察していても、地球の動きそのものを体感することはできないだろ?
 だからさっきから『太陽が動いて見える』と言ってるんだろうが!
 いいから座って太陽を観察しろ!」
 
 ……まあ……そんな感じでした。
 
 なお、その後のテストで「地球が動くから」と書いてきた子は何人かいて、当然正解にしましたが、肝心のC児は「地球が太陽のまわりを回っているから」と書いたため、残念ながら不正解となりました。*2
 答案を返却する時、自転と公転の違いを説明する図を付記しておきました。
 
 まあ……その……「地球が動く」ということを言葉として知っていることと、それを理解していることは違うんだよな、と。
 
 解答としては「太陽が動くから」で充分なのですが、
「時間とともに太陽は動いていて、かげは太陽の反対がわにできるから、太陽が動くといっしょにかげも動く」
 等、こっちが恐縮するくらい丁寧な解答を書いてきた子もいて、そっちは花丸をつけました。……点数は変わらないけど。

*1:太陽を観察する時に使う道具。

*2:もちろん厳密には、見かけ上の太陽の動きは、地球の自転と公転双方の影響を受けるわけですが、公転の影響は非常に小さいし、そもそも自転と公転は回転方向が同じなので、日中は公転運動の影響は自転運動の影響に大部分相殺されているのではないか、と思います。  違っていたらご指摘ください。