保険セールスの方は読まないでください。

 どことは言わないけど、学校で保険の営業を受けています。
 そのセールス手法がひどいので覚え書き。
 
 元々、保険はもう入っているのでセールスなんか聞く必要はないんです。
 じゃあなんで聞いてるのかというと、学校の廊下で(校内に入ってくるわけですよ。もちろん勤務時間外だけど)
「校長先生の指示で、先生方に社会保障についての情報提供をしているので時間をいただきたい」
 って言われてうっかり了承してしまったわけですね。
 
 で、それが1回では終わらず、
「また来週お願いします」
 ですでに2回話を聞いていて、来週もまた「先生に合ったプランをご提案」しに来ることになっている。
 
 実は「校長の指示」っていうのは本校の校長ではなく、退職校長が役員に入ってるってだけの話だったわけですが。
「情報提供」ってのも、要するに日本の社会保障制度への不安を煽って商品を売るための話の枕だった。
 
 それで何がひどいかというと、客を欺く気満々のセールストークがひどい。
(最初の話を聞かせる段階からそうだったわけですが)
 
 話の途中で「あっ、これはただの保険セールスだ」と気付いた(遅い)私が
個人年金ならiDeCoに加入してインデックス投信を積み立ててるんですけど」
 と言ったところ、スクラップブックを取り出して
投資信託がいかに危険か」
 をご説明くださるんですが。
 
 まず、「たわらノーロード」(確か「8資産均等型」だったと思う)の
「~万円の積み立て投資が、~%の確率で~万円以上に」
 みたいな販売資料(だと思う)を取り出して、
「どうですか先生、この投資信託、いいと思いますか」
「その数字だけじゃよくわからんけどいいんじゃないですか(私は買ってないけど、確か積み立てNISAとかの対象商品に入ってた気がする)」
「ところがですね先生、これを見てください」
 
 と言って取り出したのが、投資信託の資金流入額・流出額の変動グラフ。
 
「このようにですね、投資信託というのは、ある月には一位になったのに、その直後に大幅にマイナスになってしまう、ということが起きるんですよ」
「ははあ」
「そして金融庁がなんと言っているかというとですね」
 
 と言って別な資料(新聞記事)を取り出し、
 
「まともな投資信託は全体の1%もない、プロでも選ぶのは困難だ、と、金融庁長官が言っているわけですよ!」
「ははあ」
 どこの新聞だったかは見ませんでした(だいたい、自分の言いたいことを言い終わるとさっとスクラップブックを閉じてしまう)が、内容としては、2017年4月、金融庁長官の基調講演を報じたものでした。
(講演内容は公開されていますhttps://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/20170407/01.pdf
 
「実際、私が知っているある先生も、長年投資信託をやっていらっしゃるそうなんですが、現在マイナス~円(6ケタの数字)で、プラスになっているのをほとんど見たことがないそうです」
「へえ」
 
 ……以上の話の何がおかしいか。
 
 まず、投資信託の「資金流入額・流出額」というのは、ざっくり言うと、その投資信託が買われているかどうかの指標です。まあ会員数の増減みたいなもの。
 買った人が儲かったか損したかを表すものではない。
 もちろん成績が悪くなると売られる傾向はあるでしょうけど、それなら価格変動のグラフそのものを見せるべき。
 
 次に、「金融庁長官も言っている」ですが。
 長官が
「現在の金融機関は、顧客をだまくらかして手数料で儲けるようなアクティブ投信の販売に血道を上げていて、ちゃんと顧客が利益を得られる商品が少ない」
 的なことを言ったのは確か。
 
 でも、それを踏まえて、金融庁自身がまともな投資信託(主にインデックス投信)を厳選したのが、積み立てNISAやらiDeCoやらの対象銘柄なわけで。
 金融庁長官は投資信託やめろとか言いたかったわけでは全然ない。
 
「プロでも選ぶのは困難」っていうのは、
「株の売買のタイミングを選ぶのはプロでも難しい。だから成績のいいアクティブ投信は少ない」
 って話であって、投資信託を選ぶのが「プロでも難しい」という話ではない。
 
 だいたい、こっちが
iDeCoでインデックス投信積み立ててます」
 って言ってるのに、
「アクティブ投信は悪質なのが多い」
 という話を持ち出して
金融庁長官も投信は危険だと言ってます!」
 って言うのは明らかに誤解を招こうとしている。
 
 運用成績がマイナスの「ある先生」が誰で、何を買っていたのかはわからないけど、おそらく長官の言うような悪質なファンドにひっかかってしまったのではと思います。
 ……その先生が実在するとすればですけど。
 
 家に帰ってから調べたのですが、「たわらノーロード(8資産均等型)」は、資金流入額がマイナスになった月は運用開始以来一度もないし、もちろんアクティブ投信でもないし、そもそも運用開始が2017年11月…つまり金融庁長官の講演より後だから、「長年やっている」銘柄ではあり得ない。
(「たわら」の他のタイプだと、2015年12月から始まっていたり、流入額マイナスの月が2・3回あったりするけど、とにかく「長年」ってことはない)
 しかも、積み立てNISAの対象銘柄に……つまり金融庁が選んだ「割と安全な投資信託」に入っている。
 
 いや、私は買ってないし、他人におすすめもしないですけど。*1
 
 要するに、保険の人は、違う話を意図的にまぜこぜにして、聞く人に誤解を与えようとしているわけです。
「たわら」の人と金融庁の人は風評被害で訴えてもよい。
 
 ちなみに、それで先方が売ろうとしている商品は、ざっくり言うと、ドル建てで年3%の利息が付く貯金を積み立てることで個人年金の原資とし、そこに介護保険などの保障と、宿泊施設の割引きやら劇場の割引きやらのこまごました特典が付く、みたいな話。
(その代わり解約返戻金抑制型なので、60歳より前に取り崩そうとすると減額される)
 
 ……私が理解した範囲ではそんなに著しく悪いとは思えないですけど……。
 でも、客に誤解させるトークをする人だ、ということはもう十分わかっているので、この理解にも穴がありそうな気がする。
 
「貯金」って言ってたけど、今ググった感じだとアメリカ国債じゃないのかな。
 いくらアメリカでも預金に3%も金利はつかない気がする。
 
投資信託と違って、20%の源泉分離課税がかからないんです!」
 って言ってたけど、それは無税だって話ではなくて、所得税とか住民税とかは別にかかるのでは。
 
マイナンバーが必要ないので、国に把握されづらい!」
 ……それをメリットとして言ってしまうのは……どうなの……?
 今の政府は税金を浪費してるとは思うけど、それでも脱税する気はないですよ私。
 
 あと、これはセールスではなく商品への疑問なんですけど、外貨建てで積み立てるのに、ドル側が定額で、毎月の日本円での支払い額が為替相場によって変動するのって、明らかに不利なのでは……?
 逆の方が成績上がるはずだよね……?
 
 職業に貴賎なし、とはいうものの、私は過去に他の保険屋と英会話のNOVAで酷いセールスを受けて騙されたことがあって、セールスマンというものにはかなり職業的偏見があります。
 それが今回また強化されてしまった感じ。
(今の車を買った時の営業所の担当者はすごく親切だったので感謝しています。他の大きい営業所に異動してしまったけど)
 
 金融庁長官が言った、銀行とかが窓口で売ってる投資信託に悪質なものが多い、というのは、セールスマンの給料を払うためにコストがかさむから、というのも一因なわけで。
 顧客に払う分とは別に、営業販売のコストも捻出しなければいけないんだから、顧客の取り分はどうしてもそれだけ減ってしまう。
 そう考えると、セールスマンが売りに来る保険商品を買うのも同じだよなあ、と思います。
 
 ……しかし、実際に「ご説明」を受ける場では、以上つらつら書いたようなことは相手には一言も言わず、「ははあ」「なるほど」で通してるんですが。
 だって指摘しても、向こうのセールストーク向上に貢献するだけで私は何の得にもならないし……。
 
 しかし黙って聞いていてもお互い何の利益もないし部屋も寒いので、次回で「ご説明」を聞くのはやめようかなー、と思っています。
 何と言って断ったものか……。
 
 しかし、保険に入る気が全くない私がまんまと騙されて営業トーク聞かされてるんですから、「私は詐欺には騙されない」みたいな過信がいかに危険か、という話だなあ、とつくづく思います。
 

*1:断じて金融商品のおすすめはしませんからね?