左派は資産運用を始めると少しだけ精神が楽になる(諦めがつく)という話。

 2年くらい前から投資信託の定期積立を始めました。
 老後に備えて……というか、万一の時に備えて。
 
 公立学校教員なんて安定した職に就いていながら何が「万一」だ、とか怒られるかも知れませんが、私個人はいつまたメンタルをやられて潰れるかわからないわけで……。 
 身分は安定でもメンタルが不安定。
 
 そんな理由で始めた投資信託、今のところ経過は順調っぽいです。*1
 
 とにかく「歴史的に見て、世界の平均株価は長期的には必ず上昇する」という信念のもとに積立を続けています。
 
 それで思わぬ良い(?)副作用があったので記事を書くことにします。
 

何を買うか。

 
 結論から言うと、私は「先進国株式(除く日本)」を中心に買っています。
 
 これが、お金とは違う理由で心の安定に役立っています。
 
 元々、積み立て投資を始める入り口になったのはこの辺の本です。*2
難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください! お金は寝かせて増やしなさい
 なので、株式インデックス投信*3を買うのは決まっていました。
 
 しかし、「株式インデックス」と言っても種類は色々。
 全世界の株を均等に買う商品もあれば、「日本株全般」「アメリカ株」「欧州」「アジア」「新興国」など様々です。
 
 で、同じ
「インデックス投信で長期分散投資!」
 と主張する著者でも、具体的に何を買うべきかは人によって勧める内容が異なります。
 
 例えば、前掲書、左側の本の山崎氏は
「海外先進国株と日本株を5:5で」
 と言ってます。(リスクを取りたくない分は日本国債
 
 右側の水瀬氏は
「基本は全世界株で、部分的に日本国債(あと、取れるリスクに応じて新興国株とか比率を調整)」と。

 ……それで結局私は、最初の山崎氏が「5:5で」って言ってるやつの前者側だけ買うことにしたわけです。
 
 だって……そうじゃないですか。
  
 投資家、ジム・ロジャースは、
「自分がよく知っている分野に投資しろ」
 と言います。
 
 しかし残念ながら私は、身近で今後有望そうな経済分野に心当たりがありません。
 
 でも、逆に考えるんだ。
 
 身近で、「有望そうじゃない」分野には心当たりがあります。
 
 日本です。
 日本経済の未来が暗そうだ、ということにかけては、おそらく海外在住のほとんどの人より強い確信があります。
 
 そう考えると、「日本以外の世界」に投資すれば、「全世界」に投資するより良い結果になるのでは……?*4
 
 ちなみに、この点について山崎氏は、
 
「株価はそういう将来予想を織り込んだ上で決まっているので、日本経済が『予想と同じくらい悪化した』場合には株価は下がらないし、『悪化したけど予想ほどではなかった』場合には、たとえ経済が悪化していても株価は上がる」
 
 と説明してるんですが、これは正直私にはよくわかりません。
 
 株価は景気に先行するとよく言われますが、どのくらい先行するかと言えば半年~1年くらいだとか。
 
 ……ってことは、今の日本の株価はせいぜい1年後の日本経済しか織り込んでないわけで、10年とか20年とか未来の日本経済の悪化までは反映されてないのでは……。
 
 あと、最近読んだこの記事。
gendai.ismedia.jp
 漫画の第一話が試し読みできるんですけど、ここでは山崎先生、「外国株と日本株を6:4で買え」って言ってる。
 
 5:5じゃなかったのかよ!
 
 ともあれ、幸か不幸か私の判断は今のところ正しかったらしく、「海外先進国(除く日本)」の成績は、「日本」より好調です。*5
 
 下のグラフで、水色が海外先進国(MSCIコクサイ・インデックス)。色の濃い青が日本(TOPIX)。

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(出典:比較チャート | MAXIS | 投資信託なら三菱UFJ国際投信
 
 それで、思わぬ副産物に気づきました。
 
 私は、日本経済の……というか、日本そのものの将来に悲観的ですが、それを良しとしているわけではありません。
 衰退しつつある日本が、再び世界で輝く国になって欲しいと思っています。
 
 私はリベラル左派(大きな政府主義者)なので、そのためには、再配分を強化して経済格差を縮小し、厚い中間層に支えられた力強い経済を再建し、育児支援や教育や科学研究といった未来への投資には特に手厚く予算を配分すべきだと思っています。
 
 そして、どうやら昨今の日本政府がそれに逆行したことをやっており、日々、ますますこの国の将来の希望が閉ざされていくのを感じています。
 そのことに正直鬱々たる思いなのですが……しかし。
 
「海外先進国(除く日本)」に積立投資を始めて以来、日本でダメなニュースがあっても、
「ああ……やっぱり日本はもうダメなんだな……。やっぱり、自分の投資判断は正しかったんだ……」
 という気持ちにもなるのです。
 
 繰り返しになりますが、私はいわゆる「反日」ではないので(そもそも日本にそんな人実在します?)、日本がダメになってうれしい、というわけではありません。
 
 このまま日本経済が衰退して格差が拡大すれば、治安も悪化するだろうし、インフラや医療、公共サービスも縮小され、年金だって危うい。

 前述のジム・ロジャースは、
「私が10歳の日本人なら、AK-47(カラシニコフ自動小銃)を買うか、日本を去ることを選ぶだろう」
 と言いました。
 
 歴史を見るに、社会の安定というのは、市民の多くが思うほど盤石なものではありません。
 文革しかり、アフガニスタンしかり、ルワンダしかり、ベネズエラしかり、ウクライナしかり。惨事は突然やって来ます。
(いや、破滅の原因はそれ以前から存在していたわけで、後知恵で見れば歴史的必然だったかのように見えたりもしますが。グレーリノ、ってやつかも知れない)
 
 1984年の冬季五輪を現地やテレビで見た人のどれだけが、その9年後にはその会場が内戦で破壊し尽くされることを予想できたでしょうか。
 
 さすがにそこまででなくとも、今後、日本社会が不安定になれば、ちょっとくらい手元の運用成績が良くてもほとんど埋め合わせになりません。
 
 ただまあ……今の気休めにはなるよ、という話です。
 精神的リスク分散、とでもいうのか。
 
 私は投資の成果についてアドバイスする資格は全然ないので、そっちは保証しませんが。
 
 ……いやもちろん、これを読んだ方が、
 
反日パヨクがデマを吹き散らかしてやがる!
 これから我が日本は、アベノミクスを継承したスガノミクスの下で大復活を遂げるのだ!
 労働力不足は外国人技能実習生によって解決されるし、そこでは何の問題も起こらない!
 学術会議が政府の権威の下に正しく掌握された結果、選択と集中ムーンショットによって日本の科学力が世界の先頭をひた走るようになるだろう!
 世界が日本に羨望の眼差しを向ける日が間近に迫っているのだ!」

 
 ……というバラ色の未来像を抱いていらっしゃるなら、ぜひ「日本株に100%」とかの投資をお始めになることをオススメします。
 それはそれで幸せになれると思います。精神的には。
 
 ……そして、私の投資判断が正しくないなら、それはそれで私にとってはとても喜ばしいことなのです。
 

ちなみにその他の本の場合。

 
父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教え
 この本は「米国株(S&P)100%がベスト」
 
日本一カンタンな「投資」と「お金」の本
「全世界株を買っとけ」*6
 
FIRE 最強の早期リタイア術――最速でお金から自由になれる究極メソッド
「全世界株と国債を6:4で」
 
ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第12版> 株式投資の不滅の真理 (日本経済新聞出版)
「一口では言えないけど、米国株と国債を6:4で、必要に応じてREITとか金とか入れたらいいんじゃないの」
 
 まあ、とにかく株式インデックスで分散投資しろ、ということだけは一貫してるんですけど。
 

株じゃダメなの?

 
 実は過去に2回ほど、株に手を出していた時期があります。*7
 しかし、日々の(というか時々刻々の)騰落に一喜一憂するのがストレスな上、結局暴落時に耐えきれなくなってやめてしまう、という一番悪いパターンでした。チャイナショックの時は毎日チャート見て吐きそうでした。
 株はメンタルに良くないです。
 
 しかし今回は、前掲書を読んで
「長期分散投資なら必ず数年後にはプラスになる」*8
 という信念で臨んだお陰か、始めた直後にマイナスになったり、コロナショックで大幅にマイナスになったりしても、それほど動揺せずにすみました。
 金額的なマイナスは今回の方がよっぽど大きかったのに。やっぱり知識は大事。
(チャイナショックの時のアレも、売らずに持ってればなあ……)
 
 あと、投資信託は一日一回しか値段が変わらないので、株みたいな「今いくらになってるんだろう」感がなく、メンタルへの刺激が少ないのも良いですね。
 
「毎日積立」を選んでるのも心が平和でいいです。
 購入する日が月に一回とかだと、購入日の前に暴騰すると
「あああっ、なんでそんなに高くなっちゃうの!?」
 と思うし、購入してからそれより下がるともちろん落ち込むことになります(そしてほぼ確実にそういうことは起きるわけです)。
 
 でも、毎日が積み立て日ならその辺が気にならない。
 確率論的には、まとまったお金ができたら即座に全部購入に回すのが合理的なんでしょうけど、メンタルの負担が大きいと長期的に続けられないですから、気楽に続けられる形でやるのが一番です。
 
 とはいえ、本来なら「完全にほったらかして忘れておく」のが理想であるところ、ついつい毎日値動きを見てしまうし、ここ2年の間に何度も銘柄を入れ替えたりしてる(しかも、先進国REITとかアジア株とかを、「伸び悩んでるので売る」というあまり頭の良くないことをしている)ので、まだまだ精進が足りないと思います。
 

*1:SBI証券によると「開始以来のトータルリターンは12.8%」ということになっているけど、計算上、リバランスとかで売買を繰り返すとパーセンテージが下がるので、実際にはもう少し高いはず。

*2:ちなみに、このブログのどのリンクをクリックしても、私にはビタ一文入らないので安心してください。

*3:いろんな株の詰め合わせセットみたいなものです。たくさんの銘柄の株を個人が買うのは不可能だけど、投資信託なら間接的にそれができる。
代わりに、「詰め合わせセット」を作った証券会社は、毎年0.1%とかの管理手数料(信託報酬)を取っていく。

*4:新興国株入れた方が、とか、小型株効果、とかいう人は、なんかオススメの銘柄を教えてください。

*5:なお、ちょっとだけ買っている「アメリカ株(S&P)」はもっと好調。

*6:実はこの本は最後まで読んでないです。「先生と生徒」が会話しながら読者に教えていく形式なんだけど、舞台設定がおかしいし、本題に入るまでが長すぎる。

*7:正確には、TOPIX連動型上場投資信託

*8:いや、もちろん、長期的にプラスにならない……つまり
「今が人類経済の最盛期である」
という可能性はあるんですが、それはつまり、近いうちに世界大戦とか気候変動とかパンデミックとか隕石衝突とかで世界経済が崩壊するということなので、それならもうお金の心配をしても仕方がない。
 そっちが心配ならシェルター作って保存食でも備蓄しておいた方がいい。