いろんな意味で危険。

ロンドンのどんな裏町より、美しい田舎の方が凶悪犯罪の巣だ。
シャーロック・ホームズ

「野焼き」とは何か、ご存じでしょうか。
 
都会にお住まいの方だと、
「ゴミを屋外で焼くこと?」
とか思われるかも知れませんが、そうではありません。
 
この時期、土手や水田のあぜなどの枯れ草に火をつける行事です。
Wikipedia「野焼き」
 
Wikipediaにもありますが、草地というのはほったらかしておくと、一年草の群落から多年草の群落、多年草の群落から低木林……と、成長は遅いが物理的にたくましい植物へと徐々に遷移していき、気が付くと雑木林に、という状況になってしまいます。
「雑草のくらし」という絵本をちょっとお勧め。
雑草のくらし (福音館の科学シリーズ)
 
で、水田が雑木林化しては困るので、毎年草地を焼き払ってリセットするわけです。
 
都会では、そこらの草むらに火をつけたりしたら放火扱いだと思いますが、田舎は燃え移るような建物もほとんどありませんし。
火を点けるのにバーナーを使うとか、地域の消防団が消防車で見回りをするとか、昔と違う点もありますが、春の季語にもなっている由緒正しい農作業なのです。
 
隣近所の農家が集まって、土手に火をつけ、見守ります。
広い地域を一気に全部燃やすと収拾がつかなくなって危険なので、一カ所に火を点けて、順々に燃えるように管理するわけです。
けっこう時間がかかりますので、甘酒が振る舞われたり、それに子どもたちも集まってきたり。
 
……「のどかな行事だなあ」と、思われましたか、都会の方?
 
はっはっは。
 
……田舎で不用意にのんびりすると危険ですよ?
 
以下、先日N先生が職員室でしていた話。
 
N「この間、うちの父と、近所のおじちゃんたちが野焼きをしたんですよ。
河原の茅とかススキとかなんですけど。
 
で、けっこう広くて見通しの悪いやぶだったんですけど、燃えていくうちに見通しが良くなって来るじゃないですか?
 
そしたら、やぶの中に、車が停まってるのが見えてきてですね」
私「……それで?」
N「いやー、だって、もうどうしようもないじゃないですか」
私「……それで?」
N「それで、どかーんと」
 
どかーん。

註:イメージ映像です。
 
Y「……誰の車だったんですか、それ」
N「なんか、都会から来て、バードウォッチングかなにかしてる人だったみたいです」
 
田舎で不用意にのんびりすると危険です。
 
N「どうなんですかね、損害賠償とか……」
S「そりゃあ……、まあ、野焼きする前に、周囲の安全確認を怠った、ってことだから、ある程度の補償は必要なんじゃないの? 向こうも不注意だったにせよ」
 
「草むらに車を停めておいたら草むらごと燃やされてしまった」
という状況で、「あなたにも責任がある」になるのが農村の法律。
 
N「えー、でも、警察の人も、『まあ、こんなとこに車あるとは思わねえもん、しゃあねえよなー』って言ってました」
 
法律。
 
K「でも、車の持ち主が外にいたからいいけど、万一、中で昼寝でもしてたら、『しゃあねえよな』では済まなかったですからね」
 
田舎で不用意にのんびりすると非常に危険です。
 
H「そういう意味では、警察が呼ばれるのは当然なんだよ」
N「あー」
S「……でもさ、万一、本当に中に人がいたら、警察を呼ばないで車ごとそこら辺の山の中に……
 
危険すぎる。