安倍晋三内閣に寄せる期待を語る。

注目URLから。
安倍政権でこうなる 産経Web 【教育を考える】首相主導で「教育再生http://www.sankei.co.jp/databox/kyoiku/200609/060904b.html

首相主導で「教育再生
 
自民党総裁選で優位に立ち次期首相が確実視されている安倍晋三官房長官は「教育再生」を最重要課題に掲げている。首相直属の「教育改革推進会議」(仮称)を10月にも設置して官邸主導の教育改革を進める考えだ。安倍政権で教育はどう変わるのか−。安倍氏側近の下村博文衆院議員ら3人が参加して8月29日に開かれたシンポジウム「新政権に何を期待するか?」から拾った。

要するに、安倍氏の側近らがシンポジウムで語った内容ですね。

テーマは10くらいあるが、例えば、子供たちに、1人で生きているのではなく、社会みんなで助け合って生きているのだと実体験してもらうために、奉仕活動、ボランティア活動を必修化しようという案がある。

高校卒業は3月だが、大学入学は9月にする。半年のブランクのうち3カ月間は、介護施設などで奉仕活動をしてもらい、その経験がなければ大学に入学させない。

それから、駄目な教師は辞めさせる。一方で、いい先生の待遇をよくするという体系に変える。親が学校に期待しているのは、いい先生だ。

ジェンダーフリー教育は即刻やめさせる。自虐史観に基づいた歴史教科書も官邸のチェックで改めさせる。

一番大切なのは心であり、徳育だ。そういったものを、推進会議で一気に処方箋(せん)を作って実行に移すことが必要だ。

私は文科政務官をしていたが、文科省にも共産党支持とみられる役人がいる。官邸機能の強化には、省庁の局長以上の人事については官僚ではなく政治が任用することが必要だ。

ううむ。
 
いわゆるマスメディアの歪曲報道には前々から疑問を感じていたんですが、これはひどすぎると思います。
 
石原慎太郎都知事の、「かつての日韓合併の歴史を100%正当化するつもりはない」みたいなものです。*1
 
これも、記事を見ただけで、元の発言の駄目な部分ばかりを恣意的に引用し、安倍氏をおとしめようと言う意図があまりにも明らかで、こんな偏向報道をされては、安倍さんとその側近がかわいそうだと……
 
え?
 
産経新聞安倍氏に好意的な立場なんですか?
 
…………。
 
あー。
 
どこからツッコミを入れていいのか分かりませんが……。
 
「ボランティアを強制」って発想は、以前にもかなり反発を受けていた気がしますね。
 
私も反対ではあるんですが、「強制反対」「奉仕の強制なんて馬鹿げてる」……といった理由ではないです。
 
というのも、学校における係活動や委員会活動などは、言ってみれば学校という小さな社会における、社会奉仕活動の「強制」であるわけで。
それが、「みんなのために働くことの喜び」「社会は互いに支え合って成立しているということの実感」……みたいなものを学ぶ機会になっている、というのは、学校関係者ならみんな肯定すると思います。
 
それじゃあなんでボランティア必修化に反対するのか、っていうと、十分な教育効果が見込めないような気がするからです。
 
正直、社会人として働いている人で、「みんなのために働くことの喜び」「社会は互いに支え合って成立しているということの実感」なんてものを、そう頻繁に味わってる人はいないと思います。
 
学校の係活動の場合は、教師が色々お膳立てをして、達成感を味わえるように仕組んでいるわけです。
 
これが、本物の高齢者などを相手にした本物の奉仕体験となると、そううまく「教育的配慮」を仕組むわけにはいかないでしょう。
 
世の中には、介護疲れで参ってしまう人は、高齢者の家族でも介護の専門家でもいっぱいいるのに、学生の介護体験だけがそんなバラ色のものになるとしたらそれはどんなマジックですか。
あれか、密かに、性格が良くて扱いやすい高齢者だけを介護実習用にかき集めておいて、強制的に学生さんへの感謝の言葉を吐かせるとか?
 
私も、「介護に達成感などない」……とまでは言いませんが、数ヶ月の強制介護実習でそれが味わわせられる、という期待はしない方がいいんじゃないでしょうか。
 
ジェンダーフリー教育は即刻やめさせる。自虐史観に基づいた歴史教科書も官邸のチェックで改めさせる。
 
一番大切なのは心であり、徳育だ。そういったものを、推進会議で一気に処方箋(せん)を作って実行に移すことが必要だ。

 
つまり、現在の教科書検定制度を改め、官邸主導の国定教科書制度に近い方式にしよう、道徳教育についても、国家が望ましい徳性のあり方について示していこう、ということなわけですが。
 
あー……。
まあ……。
なんというか。
 
国定教科書制度は、例えば、お隣の国、韓国でも採用している、実績のある制度です。
それが韓国国民に対して極めて効果的な教育効果を及ぼしているのは、近年私たちも目にしているところですし、ああいった「普通の国」を目指すんであれば、よろしいんじゃないでしょうか?
 
アジアとの連帯のためには、そういった政策も大変有効だと思いますよ。ええ。
 
駄目な教師は辞めさせる。一方で、いい先生の待遇をよくするという体系に変える。親が学校に期待しているのは、いい先生だ。
教員免許更新制もグラグラしている。講習さえ受ければ更新するという方向に行っているが、官邸は、駄目な先生は駄目としなければならない。

 
なかなか、私としては耳の痛い主張ではあります。
 
ともあれ、教員の水準を確保することが、教育の水準を確保する上で大切だ……というのには全く賛成です。
 
本当に日本の教育水準を向上させるためであれば、私自身は首を切られても仕方がない……というくらいの覚悟は私にもありますので、官邸の皆さんにはぜひがんばって頂きたいと思います。
 
で、人材確保法を廃止して免許法を厳しくし、教育内容にも政府が細かに口を出す……というのは、つまり給料は下げて雇用は不安定化し、仕事のやりがいは少なくする、ということです。
 
そうすると、そのうちたぶん教員採用試験が定員割れを起こすような事態になると思います。
 
これは必ずしも夢物語ではなくて。
例えば組合の力が強い北海道では、教頭試験が定員割れを起こしている地域があって、教育委員会がベテラン教員をおどしたりすかしたりしてなんとか人員を確保しようとしている状況にあります。
 
それでも定数が足りず、配属されるはずの教頭がいない学校、というのも現実にあるんですね。
 
教頭ではなくて一般教員でそういう状況になると、足りない分の人員を、臨時採用の講師でまかなう態勢になるでしょう。
 
そうなれば、人件費の面で大きな節減になり、危機的状況にある我が国の財政再建に大きく貢献するのではないでしょうか。
 
教育水準はどうか知りませんが。
 
若者に農業に就かせる「徴農」を実施すれば、ニート問題は解決する。そういった思い切った施策を盛り込むべきだ。
 
この辺の主張に対して、ポル・ポトとか文化大革命とかを引き合いに出して批判する人もいますが、保守本流である安倍氏に対してそれは失礼な言いぐさだと思います。
ポルポト呼ばわりしてるのは、
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.sankei.co.jp/databox/kyoiku/200609/060904b.html
のコメントとか。 はてなキーワードの「徴農」もそうかも)
 
文科省にも共産党支持とみられる役人がいる。官邸機能の強化には、省庁の局長以上の人事については官僚ではなく政治が任用することが必要だ。
……という、むしろ共産党を非合法団体扱いしている姿勢からも、ポル・ポト説の誤りは明らかでしょう。
 
これはむしろ、日本の古き良き伝統である、公地公民制の復活、と捉えるべきではないでしょうか。
 
悠仁親王殿下がご誕生遊ばされ、わが皇国の未来も安泰となりました。
 
この時期に、全ての土地は公のものであり、全ての国民も公のものである、という、本朝の美風に立ち返ることは、まさに「美しい国へ」を実現する手段としてふさわしいと思います。
あのころには「租・調・庸」という税制があり、税金として労働力を提供する義務が国民に課せられていました。
職業選択の自由など非日本的な幻想であり、まして職に就く意思のないニートなど、徴用されて当然なのです。*2
 
これに対して、農業というのは、相応の知識や技能を必要とする産業で、「Not in Employment, Education or Training(=NEET)」な連中にいきなり農業をやらせられると考えるのは農家蔑視も甚だしい……という批判をする人もいますが、平安時代の日本政府要人の発言を考えればわかるように、農民は無学で愚鈍な「あやしき」輩である、というのが、公地公民制下における基本認識ですから、側近氏の発言は極めて妥当なもので、批判は当たらないと思います。
 
……ところで、家庭菜園でも学校菜園でもやったことがある人間なら誰でも知っていることですが、素人が作物を作ったところで、到底、プロの農家が育てたような品質に到達することは出来ません。
つまり、ニートを普通に農業に従事させると、労働力や耕地面積に対する収益が極めて低くなってしまい、徴農ニート各自がまともな生活を送るのは困難です。
 
ここで、これまでのようなビジネスモデルの農業経営のためにニートを動員するとすれば、彼らに十分な農業の知識・技能を身に付けさせるために、高校・大学の農学科・農学部を大幅に拡充したり、ニート向けの農業専門学校を大量に新設したりすることが必要になりますが、これには莫大な費用が必要ですし、そもそも農業に関する専門教育を受けるような人はニートとは言いません。
 
そこで「思い切った施策」が必要になります。
 
つまり、収益が低いままで良い、という発想です。
徴農されたニートについては、原則的に社会保障制度や労働関連法規の対象から外し、プロの農家・農業企業の備品(役畜)扱いとするわけです。
 
これを「農奴制」と表現する人もいますが、農奴制と言うのは、主にロシアやヨーロッパの身分制について表現する言葉であって、私としては、むしろ「****制」と表現すべきだと思います。*3
 
徴農」制について、“農家は人手不足だ”という誤った前提に基づいている、という批判もありますが*4、実際には、人手は足りているにせよ、高度な機械化や農薬・肥料の多用が高コスト体質をもたらしている、という、日本の農業の抱える問題は確かにあります。
 
そこで、これまで機械や薬剤で行っていた、田植えや稲刈り、害虫の駆除といった作業をニートにやらせ、農作業の時期決定や肥料設計、病虫害防除などの専門的判断はプロの農家が行う、という階級分担を明確化することで、コストを削減し、併せて「低農薬の農産物」という付加価値を得ることが出来ます。
アイガモ農法ならぬニート農法、というわけです。
また、機械化が困難であるために近年放棄されてきた棚田なども、ニート階層の労働強化により再生することが可能で、農業生産量の向上と共に、日本の伝統的な農村風景の再生にも一役買うことでしょう。
 
んー……。
 
美しい国、日本。
 
現在の私たちが、消費優先の生活の中で見失ってしまったものを、安倍氏の側近の方々は取り戻そうとしているように思えます。
 
今の我々のライフスタイルは、持続可能なものではありません。
日本が主導した京都議定書も、現状では日本自身が目標を達成できない可能性が高い状況にあります。
もっと、昔ながらの生活を見直すべき時期に来ているのです。
 
そういった中、国民の生活を後退させ、社会体制の面でも思想・道徳の面でも、前近代的な水準に立ち返ろう、というこれらの主張に、私たちは大きな期待を寄せるべきではないでしょうか。

*1:都知事は「するつもりはない」って言ったのに、「するつもりだ」っていう字幕を入れられた。都知事はTBSを相手取って訴訟を起こし、現在は和解が成立。

*2:いわゆるニートが職に就く意思がない、というのは誤りで、できることなら定職に就きたい、と考えている人が多数派だ、というのは知っていますので指摘して下さらなくて大丈夫です。
ていうか、安倍氏側近ズの人に指摘してあげて下さい。

*3:「****」の部分は、江戸幕府の身分制において下層と見なされた階級の名前が入っていましたが、政治的配慮により伏せ字としました。

*4:本当に足りないのはたぶん「後継者」。