死して屍再生することなし。

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夢見た教壇2カ月 彼女は命を絶った 23歳教諭の苦悩
東京都新宿区立小学校の新任の女性教諭(当時23)が昨年6月、自ら命を絶った。
念願がかなって教壇に立ち、わずか2カ月後に、なぜ死に至ったのか。
両親や学校関係者に取材すると、校内での支援が十分とはいえないなか、仕事に追われ、保護者の苦情に悩んでいた姿が見えてくる。*1

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.asahi.com/national/update/1009/TKY200710080324.html

まずは、亡くなられた先生に、心より哀悼の意を表します。
 
「死ぬ前に逃げろ」
と言う人もいますし、たぶん正論なんでしょう。
でも、学校って、現に目の前に子どもがいる以上、なかなかそこから逃げることはしづらいですよ。
周りの先生だって決して暇じゃないし、それも充分わかってるわけですから、責任感の強い先生ほど逃げられないと思います。
「自分が逃げたら、子どもたちはどう思うか(=子どもたちにどんな教育的影響を及ぼすか)」
とか考えちゃって。
 
まあ、私は逃げるけど。
 
担任が自殺したらそれこそ教育的にどうか、ということは、本人も当然考えていたと思います。
(ちゃんと思考力がある間は)
 
それでもなお命を絶たずにいられなかった……ということに、環境の過酷さを感じずにはいられません。
主として精神的な意味で。
 
肉体的にも過酷だったと思いますけど、体だけなら、まず倒れるとかが先に来ますもの。

ある保護者が4月中旬以降、連絡帳で次々苦情を寄せた。
「子どものけんかで授業がつぶれているが心配」
「下校時間が守られていない」
「結婚や子育てをしていないので経験が乏しいのでは」。
校長がこれを知ったのは5月下旬だった。
「ご両親が連絡帳の文面を見たらショックを受けるかもと区教委から言われた」
と父。
 
他の保護者たちも校長室を訪ね、
「子どもがもめても注意しない。前の担任なら注意した」
などと訴えていたという。

連絡帳で苦情、というのはまあ普通ですけど……。
 
内容の是非はさておき、親がショックを受けるから見せられないような文面て、どれだけですか。
見た本人はどれだけショックだったか。

この学校は各学年1学級だけで同学年に他に担任がおらず、授業の進め方の直接の手本がなかった。
しかも、前年度10人いた教員のうち5人が異動していた。
「家庭の事情など本人の希望などを尊重した」
と区教委は言うが、
「校長の経営方針に反対して異動を希望した教員も多かった」
と学校関係者。

誰だ「学校関係者」って。*2
 
……東京都は、校長の裁量権が他県より強大だ、と聞きます。
 
立派な校長ならその立派さが一層発揮されて素晴らしいことになるでしょうけど……。
 
まずげな校長先生の下で働くと……なあ。
 
職員の半数に逃げられるって、どんな人なんですか。
 
仮に
「職員の半数が異動を希望した」
という状況では、全員の希望が通ることはまずないはずです。
 
半数が現に異動してしまった、ということは、
「異動を希望したが通らなかった」
という先生が相当いるはずで、実際にはほとんど全員が異動希望だったんじゃないかと思います。
 
教員10人、ってことは、校長・教頭・教務主任・養護教諭・担任×6、とかいう、わりと最低限の編成です。*3
そのうち5人が異動ってのは、本当に大異動です。(企業で、営業所の半分が異動、とか、あまりない状況ではないでしょうか?)
 
昨年度までの状況がわからない教員が半数では、担任同士で新人のサポートなんかほとんどできません。
サポートに回るべき教頭・教務あたりは、担任たち全体の指導に忙殺されているか、さもなくば本人も今年来たばかりで右往左往しているか、でしょうし。
 
要するに、新人に仕事のやり方を教えることが、誰にもできない。
なんて教育的な環境。
 
学級が大変、とか、保護者からクレーム、とかだと、私は、まず連絡帳の文面を他の担任とか教務・教頭あたりに見せて、どう対応したらいいか聞いちゃいますけど。
 
でも、見せられなかったんでしょうね……。
 
・個人攻撃だから見せたくない
・みんな忙しそうだから頼れない
・責任感が強すぎて他人を頼れない
・そもそも校長に知れると逆に叱られそうで他人に言えない

 
とか。
(校長、保護者からクレームが付いているのを、一ヶ月以上知らなかったんですよね?)

娘がまず提出を求められたのは食育指導計画、公開授業指導案、キャリアプラン……。
離れて住んでいた父は娘と電話で話していて
「追いまくられてると感じた」。

うあー。
 
忙しすぎだ。
私より仕事多いじゃん。(←頼られてない)
 
公開授業は……どういう種類のだか分からないんで。
新採教員の様子を教委のえらいひとが見に来る、とかいうのもあるので、それは逃げられません。
(……でも、4月5月にやるか、それ)
 
学校全体で何学級か公開、というようなものであれば、
「新人に振るな!」
って話ですね。
 
食育指導計画とキャリアプランは、食育とキャリア教育に関する年間の指導計画ですよね?
 
そんなの、去年の丸写しすればいいじゃーん。(←ダメ公務員の典型)
 
いや、昨年度の実施内容に、昨年度の反省を元に修正を加えればいいんですよ。
 
……しかし、半数の職員が、昨年度の状況がわかってないんではなあ……。
 
(ところでそういうのって、前年度のうちに翌年度の計画を組んでおくものじゃないかと思うんですけど。
なんで4月に入ってからやってるの?
それって、提出期限がすごくタイトだったんじゃ?)
 
しかし、そんなの新人にやらすなよ……。
 
……でもたぶん、この学校、「食育」と「キャリア教育」以外にも、いろんな「○○教育計画」を抱えていて、新人にも2つくらいやらせないとやっていけないんだと思います。
 
安全教育とか命の教育とか。
 
ところで。
 
少し以前のニュース記事。

<政策会議>統廃合へ 官邸に100以上「多すぎて支障に」
政府は首相官邸に設けられた100以上の政策会議の統廃合に乗り出す。
「作るのは易しいが、やめるのは難しい」
と放置してきたが、首相や官房長官の日常業務の支障にもなりかねないと重い腰を上げた。
(中略)
首相か官房長官がトップの会議では、06年4月以降一回も開かれていないものも
イラク問題対策本部」
「食育推進会議」
など23に上っている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071008-00000059-mai-pol

死んだ先生、夜も寝ないで食育指導計画を作ってたんですけど。
 
官邸の食育推進会議、去年の4月以来一回も開かれてないんですよ。

官邸の会議は複数省庁にまたがる政策課題に官邸主導で取り組むために作られたが、「政権のアピール材料」(政府関係者)の側面もあったことから乱立状態を招いた。

それに振り回される側の身にもなってみろ。
 
「もういいやー。食育やーめた」
ってことなら、それはそれで学校に通知してくれないと困ります。
 
官邸は、好きな時に会議を開いてあとは放置、でもいいでしょうけど、学校は、一旦導入されたものは「やめろ」って言われない限り続けざるを得ないわけで。
 
官邸どころでなく「日常業務の支障」になってるんですよ。
 
いや、
「政府として推進していくべき時期は過ぎ、あとは地域や学校に任せるべきだ」
……ってことなのかも知れませんが、そうして学校に丸投げしたあげく死人が出てるわけです。
 
国のレベルでも学校のレベルでも、トップダウン型なのにトップが責任を負わず、上から現場*4へのサポートもまるでなし、という状況が続く限り、同様の事件はまた起きるし、教育が「再生」することなんか永遠にないと思います。
 
……ところで、「教育再生会議」も廃止しませんか、福田総理?

*1:改行修正。以下この項同じ。強調も同じく引用者。

*2:うっかり言っちゃったんでしょうけど……。
今頃犯人捜しをしてますよ、絶対。

*3:「初年度は副担任」
「音楽専科」
とかいうのは、この人数では不可能です。

*4:学校、あるいは学級