「おあがんなさいまし」「戦っている」

人民の97%が革命を信じなくても、私は戦い続ける。
革命を信じるのが私一人になっても戦い続ける。
なぜなら革命家とは、たとえ一人になっても、理想のために戦い続ける人間だからだ。

フィデル・カストロ

私が中学の時、国際理解教育のはしりみたいなので、グループで世界のどこかの国について調べて、わかったことを発表する、という活動がありました。
 
「どこかの国」と言っても、候補は教師側でいくつか準備されていて、その中から選ぶ形式だったんですけど。
 
学校にインターネット環境などない時代ですから、図書室で資料を探しました。(たぶん、先生方が用意した候補は、図書室の資料が比較的充実している国、と言うことだったんだろうと思います)
 
それでわかったこと。
 
・なんか知らんが、数十年前に社会的な大改革があったらしい。
・それは、国民みんなが大歓迎した出来事だったらしい。
・とにかく素晴らしい改革だったらしい。
 
わからないこと。
 
・具体的に何があったのかよくわからない。
・改革されてどんな社会になったのかよくわからない。
・そもそも、改革前がどうだったのかもよくわからない。
・なにがどう素晴らしいんだかさっぱりわからない。
 
図書室に置いてあった本で、参考になりそうだったのは、かなり古めの、子ども向けの本が何冊かでした。
そして、そのどれもが、
 
「おおい、おおい。」
カルロスが、いつものようにサトウキビ畑ではたらいていると、だれかが大声でよんでいます。
「なんだ、ホセじゃないか。どうしたんだい。」
「やった、やったぞ、カルロス。」
カルロスが近づいて見ると、ホセは、にこにこして今にもおどりだしそうなようすです。
ホセがあまりうれしそうなので、カルロスはたずねました。
「いったい、何があったんだい、ホセ」

 
……みたいな感じで。(文章は全面的に捏造ですが、雰囲気はこんな感じでした)
 
好奇心をそそられる一方、なんかうさんくさいものを感じたのも事実でした。
 
もうお気づきでしょうが、私が調べることを選んだ国は、「キューバ」です。
 
それらの本にあった「改革」とは、つまり1959年のキューバ革命のことであったのです。
もっとも、子ども向けの本には、「革命」という表現もなければ、バティスタ大統領もカストロも出てこず、社会主義の社の字もありませんでしたが。
 
とはいえ、件の本にあった「社会主義革命=正義」という無条件の礼賛は、70年代の遺風とでも言うべきものだったのだろうと思います。
私には、その無条件の礼賛がかえってうさんくさく感じられたんですが。
 
この辺のねじけた根性は昔からなんですね。
 
まあ、アメリカの傀儡、バティスタ軍事政権下の生活が悲惨なものだったのは事実なんでしょうけれど。
でも、革命派だって、必ずしも常に人道的だったわけじゃないしなあ。
 
学校の図書室って、えらく古い本も捨てずに取ってあるから油断できません。
 
当時の私としては、「どうせなら知らない国を調べてやろう」というだけの理由で選んだグループでした。
だから、当初は、社会体制はおろかどこにある国かさえ知らなかったんですが。
 
しかし、思えば、これが、社会主義国家について能動的に調べた最初の経験であり、テキストの記述を本気で疑った(おそらく)人生最初の経験でもあったわけです。
 
そんなわけで、キューバという国には昔からちょっと一方的な親近感があるのですよ、私は。
 
ていうか、カストロ議長がまだ生きてるというのがすごいよな。
 
社会主義革命の立役者、ですから、言ってみればレーニンとか毛沢東とか金日成と同じ立場の人です。
今例に挙げた連中は、言うまでもなくみんな死んでます。
 
それなのに、キューバではカストロがまだ生きているばかりか政権を握ってる、というのは、今なお冷戦が続く土地・朝鮮半島と並んで、生きた歴史資料ではなかろうかと。
 
あの国では、
「最近どうだい」
と聞かれたら
「闘っている」
……と答えるのがあいさつなんだそうですよ。
 
まあ、昔は、社会主義革命のために闘っている、という意味だったのが、最近では、生活苦と闘っている、という意味合いに変わっている、とかですが。
 
……まあ、結局はどっちも同じようなもんですよ。(暴言)
 
言ってみれば、日本の「おあがんなさいまし」みたいなもんですかね。*1(さらに暴言)
 
Wikipediaキューバについて調べたら、(便利な時代だよな……、ほんとに)

住民の人種構成は、混血51%、白人37%、黒人11%、中国系1%である。 (ただしキューバ政府は人種別の統計を取っていない。理由は「人種別の統計は、人種差別につながるため」である
(強調筆者)

だって。
 
わはは、素晴らしい!
万歳、万歳、社会主義革命万歳!
万国の労働者団結せよ!
 
てなわけで、もちろん日本も応援するけど、キューバががんばっているのもうれしい今日この頃。
 
いや、キューバとドミニカってのも、ある意味因縁の対決だし。(革命で政権を追われたバティスタ将軍が逃げ込んだのがドミニカだったから)
 
かつて、バティスタ軍事政権を支援し、そして今なおキューバへの経済制裁を続けるアメリカ。
そのアメリカにキューバ国旗がひるがえる……というのも、それはそれで燃える展開だなあ、と。
 
まあ、私は元々スポーツ好きな方じゃないし、野球なんか最近大嫌いなんですが。
 
禍根の残らない、いい試合になるといいですね。
 
時に、冒頭に引用したカストロの言葉。
 
同じ中学の図書室にあった名言集で読みました。
 
民主主義的に考えて、一人で戦ってる人ってすげえ迷惑なんじゃないか、と、読んだ当時は思ったけど。
 
でも、今にして考えると、革命とは、そもそも民主制が機能していないところで行われるものなのですね。
 
それにまあ、「戦う」ってのは、なにも武装闘争だけとは限らない、と考えれば、「一人でも戦う」姿勢は、時には誰にとっても必要なのかも知れない。
 
……時には立ち止まって、「なんでみんなは自分に賛成しないんだろう」って振り返ってみることも必要でしょうけれど。

*1:千葉近辺のあいさつ(方言)で、本来の意味は「ご飯は食べましたか」。
天明の大飢饉(1782〜88頃)に由来するという。