癒着構造。

公立小学校というのは、地域のコミュニティーの中核を自認したりしていますが(特に地方)、地域に密着した組織であると同時に、文科省が管轄する公的機関であることも間違いのない事実です。
 
職員一人一人が公僕たるの自覚を持ち、個々人の言動についても組織の運営についても厳正さを保たねばなりません。
 
不祥事を起こさないのは当然として、「君子は瓜田に履を納れず 李下に冠を正さず」の格言にもあるとおり、疑いを招くような行為も厳に慎まねばなりません。
 
さて、学校では、業者テストや教科の副読本、図工の作品製作キットなど、たくさんの教材を購入します。
教材を作っているのは、同人出版・青葉書房・正進社などの企業ですが、学校はそこに直接注文するわけではありません。
学校に出入りの文房具店などを通して発注します。
 
本を買うのに、出版社ではなく書店に注文するのと同様ですね。
 
本校の場合、教材等の注文を取りに来る業者は3つあります。(大きい学校はもっとたくさん来ます)
やまなり書店(仮)、平和書房(仮)、伊福部英貨堂(仮)です。
 
年度当初、購入予定のテストや副読本類を選定し、リストアップして教務主任に渡しました。(このあたりの事務は、学校によって異なります。一学年が複数クラスの場合、普通は学年の全クラスで同じ物を購入します)
 
それぞれの業者は、数ある教材会社全部の製品を扱っているわけではありませんから、「青葉のテストを買うならやまなり、光文書院のなら平和」……のように、買う商品によって、どの業者に注文するかは限られてきます。
 
……と、教務主任から呼ばれました。
 
「K村先生、このリストだと、英貨堂からなんにも買わないみたいなんだけど……」
「ええ。英貨堂の持って来た教材見本も一通り見たんですけど、あんまり魅力的なのがなくって……」
「うーん。でもほら、やまなり書店から買うことになってる漢字ドリル、英貨堂でも扱ってるよね」
「ええ……まあ。でも、どうせならなるべく注文する業者が少ない方が、支払いも楽ですし。それに、英貨堂は隣の市だから、電話してもなかなか来てくれないし……。その点、やまなりさんは毎週決まった日に来てくれてますから、ありがたいんです」
「ううん……。いや……実はね? 英貨堂のとこの奥さんが、ちょっと変わった人でさ」
「ははあ」
「自分のとこに注文入れない先生がいると、『あの先生はよその文房具屋からリベートをもらってる』……って言いふらすんだわ」
「うげ」
「まあ、それで信じる保護者もそんなにはいないと思うんだけど……。中には、疑うことを知らない保護者もいるし。そんなわけだから、なんとかやりくりして、英貨堂からもできれば何点か買うようにしてほしいわけよ……」
「ははあ……」
 
そんな業者出入りさせなきゃいいのに。
……きっと、「校長がリベートをもらってる」って言われるんでしょうけど……。
 
しかたないので、英貨堂からも漢字ドリルと、当初の予定になかった計算プリントを購入することに。
 
まあ、別にあって困るものじゃあないんですが。
しかし、私のお金じゃなくて保護者のお金で購入するものですから、なんとも。
 
……「君子は瓜田に履を納れず 李下に冠を正さず」と申しまして。
 
っていうかむしろ、君子危うきに近寄らず、に近い気がするけど。