リサイクル工作船。

夏休み前に、学校出入りの教材業者さんたちが、「夏休み自由研究&自由工作セット」とか、そんな感じの申込書を持ってきます。
 
そこに載っている、ジュニア顕微鏡だのレモン電池実験セットだのログハウス貯金箱セットだのを買ってくれ、という。
 
申し込む児童は、代金を封筒に入れて、担任に預けるわけです。
 
業者のとりまとめを学校がやっていいのか、という気もしないではないですが、まあ、自由研究&工作に取り組むのはいいことです。
 
もっとも、その「ログハウス貯金箱セット」を組み立ててそのまま持ってきたり、「レモン電池実験セット」の説明書に載っているとおりの実験をやって提出しても、評価としてはかなり厳しくなりますが。
 
説明書通りにやるのではなくて、キットを元にしつつも自分なりに考えを進めて、工作ならキットに入っていない物でたっぷり飾り付けをするとか細かいところに凝ってみるとか、実験なら他の素材でも試してみるとかその原理について調べてみるとか、とにかくもっと発展的なことをしないと。
 
発展的活動の一例
 
ほぼキットそのままの状態
 
発展的な制作活動
 
ヒトラー最後の賭け、「ラインの守り」作戦!
悪天候に乗じてアルデンヌ森林地帯を突破、一挙にアントワープまで到達し、進撃しつつある連合軍を包囲・殲滅せよ!
 
「パットン、部隊を北に向け、ドイツ軍に対して反撃を開始するのにどのくらいかかる?」
「あなたの発言が終わり次第です、アイゼンハワー閣下」
「バカなことを言うな!」
「事実であります! 自分は、今朝までに手筈は全て整えておきました!」
 
……えーと、まあ。
 
教え子を戦場に送るな!
 
さて、それはさておき。
 
この点、わがクラスのA児は見込みがありました。
購入を希望したのは、「木ぎれセット(370円)」。
 
いろいろな形・大きさの木ぎれがたくさん入っているという商品です。
「含まれる木切れの形、大きさ等はそれぞれ異なります」と書いてあるとおり、決まった設計図はなく、まさに自由工作向け。
 
申し込む時に、
「先生、これ、何を作ってもいいの?」
「ああ、そりゃあもう。好きな物を作って下さい。恐竜でも自動車でも」
「じゃあ、ぼく、船を作ろうかな」
「いいねえ。川とかで浮かべて遊ぶと楽しそうだ。届くのが楽しみだね」
「うん!」
 
数日後。
 
「先生、工作セットまだとどかないの?」
「うん、業者さんには渡したから、もうすぐ来ると思うよ」
「夏休みまでには来る?」
「ああ、来るよ。 そうそう、夏休み明けに、工作や自由研究の展示会をやるから、できた作品は持ってきてね」
「えー、きっと持ってこられないと思うよ」
「どうして? A君の船、見たいなあ」
「うーん、うちの軽トラックになら乗るかなあ……」
 
ちょっと待て。
 
それは工作ではなく造船ではないか。
 
発展的にもほどがあります。
 
自分の技術的な限界を考えず、果てしなく高度な作品を夢想してしまうのは、この年代の図工の作品制作ではありがちですが……(絵を描くと、水彩絵具では色を塗るのが不可能なほど細かい下書きをしたりする)。
 
さて。
夏休み前、注文したキットが届き、ぬいぐるみ作りセットだのオカリナ作りセットだのを受け取った子どもたちは大喜び。
 
しかし、両手ですくえる程度の木切れを見て、案の定A児はがっかりです。
 
「先生、来たのこれだけですか?」
「そうだねえ……」
 
人間が乗れるサイズの船の材料が、370円で手にはいると思うのかね。
 
しかし、こうなることは予期していましたから、私なりになぐさめの言葉を考えていました。
 
「ほら、学校の近くに〜〜木材の工場があるだろ? それで足りなかったら、あそこに行って『いらない端材があったらください』って言えば、きっといくらでも木切れをくれると思うよ」
「ほんとですか?」
「本当だよ」
 
A児は納得して帰って行きました。
よかったよかった。
 
……それはつまり、370円は完全に無駄だったということなんだけどもなー。
 
しかし、ただの端材を、「適当な量ずつ梱包すれば売れる」と考えた業者もすごいよな。
 
北海道にいた頃、ホタテの貝殻を観光客向けに10枚150円で売ってるのを見たけど、それに匹敵するというか。*1
 
ともあれ、夏休み明けが楽しみではあります。
 
もし、作品が軽トラでも運べないようだったら、写真を撮って持ってきてくれれば、それを飾るから、と話しておきましたが……さて。

*1:北海道にいた頃、海産物加工工場の向かいに、白い古墳のごとき山がありまして。
上にショベルカーが停まっていて、時々増築をしてるんですが。
その材料がつまり、砕いたホタテの貝殻。
ホタテの貝殻というのは、産業廃棄物の一種なんです。