「帝劇」と言ったら「サクラ大戦」くらいの印象しかなかったわけですが、あんなに女性が多い場所だとは思いませんでした。
演目にもよるのかも知れないけど、デパートの婦人服売り場だって、もう少し男性がいるぞ。
最初にベンチに座って仕出し弁当を広げた時にも、近くにいた女性客が、
「ほら、他の人の場所もとっといてあげた方がいいわよ」
「そうよ、もうすぐたくさんお客さんが来るんだし。おばちゃんたちすごいんだから」
おおむねそんな様子。
勉強になりました。
……で、観劇を終えて、後は夕食。
しかし、劇が思ったより早く終わってしまったため、一時間程度時間が余りました。
そんなこともあろうかと調べておいたのですが、有楽町駅は国際フォーラムのすぐそばにあります。
国際フォーラムではショッピングもできるし軽食もとれるし(メシ食ったばかりだ? まあそうですね)、地下には相田みつを美術館もあります……って、校長先生、その雑誌の切り抜きはなんですか?
「この近くに、ゴルフ用具の中古ショップがあるんだ」
ははあなるほど。
下調べをしたのは私だけではなかったわけですね。
それでは、40分後にこの場所で集合ということに……って、なんで私を手招きするんですか校長先生。
しかもH先生もY先生も校長先生と一緒に行くんですか?
Y先生はともかく、H先生はゴルフなんかしないでしょうが。
超インドア派で、ゴルフは環境破壊スポーツだと信じている私は、ゴルフなんて生涯しないと思うんですが、仕方ないのでついて行くことに。
商品の品定めをする校長先生を尻目に、
「高いなあ」
「高いですねえ」
「この形にはなんか意味があるんだろうな」
「私は最初車のバックミラーが並んでるのかと思いましたよ」
「最新のやつってそんなに違うのかなあ」
「運動エネルギーをボールに伝えるのに、チタンだのなんだのが必要なんですかね……」
「ミズノとかはともかく、聞いたことのないメーカーが多いなあ」
「ブリヂストンがある。あ、ヤマハがありますね。エレクトーンと同じマークだ。ヤマハって、他にスポーツ用品作ってるんですか?」
「スキーとか、釣り道具とかだね」
「あー、やっぱり素材系なのかなあ……」
暇。
結局、Y教諭を含む3人で、店外で雑談しながら待っていると、やがて校長先生が
「いやあ、結局探してる物はなかった」
……と言いながら出てきました。
「よし、これで俺がみんなに付き合わせるのは終わり。後はどこへでも行くぞ」
「それじゃ、そこにあったビックカメラに入ってみますか」
「あ、ちょっと待ってくれ。そこに置いてあるボール、ほしかった奴だ。買ってくる」
「はあ」
再び雑談タイム。
「……ボール買うのにやけに時間かかってるな」
「はて?」
のぞいてみると、今度は店員と話し込んでいる校長先生。
…………。
あのフレンドリーっぷりは、隠れ引きこもりの私には真似できませんね。
っていうか、待っている人にもフレンドリーな対応をしていただきたい。
よっぽど、「私、地下鉄の切符買っておかないとならないんで先に行きます」……って言おうかと思ったけどかろうじて我慢。
うちの父、自分の興味のないことにはつきあえない人で。
しかも、待たされるのはほんの少しでも怒るのに、他人を待たせるのは平気。
家族で旅行に行っても、「俺はちょっとあっち行ってみる」「買い物してくるからちょっと待っててくれ」……とか言って、みんなが止めるのも聞かずに単独行動。
デパートに行ってもつくば万博に行ってもそんな具合。
携帯なんかない時代でしたから、家族は大変迷惑を被ったわけです。
どこへ行ったか分からなくなってみんな盛大に待たされる(待たすのは平気な人だから)か、ぶつぶつ言いながらみんな父について行くか。
その都度、「もう父さんは連れてこない」……と誓うわけです。
校長もある種こういうタイプなわけですが。
しかし、ここで「ボク先に行きます」……と言ってしまうのは、それと似たようなことなのではないか?
「自分の興味のないことにも我慢して付き合う」……という態度こそ必要なのでは……。
ああ、父よ。私はあなたのようにはならない。
……と、壮大な決意を固めていたら、いつの間にやら校長と店員の談笑は終わってビックカメラへ移動していました。
で、プラズマテレビに関するクイズに答えてみたり。
店の前で配っている、日本地図と月齢の入ったポスターカレンダーを見て、
「授業に使えるかも!」
とか言ってごっそり取ったり。
「はい、K村先生の分」
「お一人様一枚、って書いてありますよ」
「みんないっぱい取ってるから大丈夫だろ」
「うわ。これ、多すぎて丸めてももらった袋に入りません……」
で、実は同じカレンダーを、ゴルフショップに行かなかった面々も(ごっそり)取っていたことが後で判明。
……授業で使うって……。
全校児童に配ってもおつりがくるぞ。
教員たるもの、たとえそれが休日の旅行でも、子どもたちのこと、授業のことを考えて行動しているのです。
そのわりに子どもには見せられない姿のような気がするのは秘密。
校長先生は、クイズの問題を配っていたおねえさんに、
「そんなかっこじゃ風邪引くぞー。早いとこ中に入れ?」
とか、またフレンドリーっぷりを発揮。
確かに風邪を引きそうなコスチュームでしたね。
お腹を冷やすとよくないですから……。
「っていうか、セクハラすれすれですよあれ」
「離れて歩こう。『校長先生』とか呼ばないように」
で、集合時間が近づいて、集合場所に戻ると、そこにいたのは我々3人だけでした。
……3人?
「あれ、校長先生は?」
「あ、あそこ。まだ信号の向こうだ」
渡り損ねたのではなく、ウインドウをのぞいたりしてのんびりしています。
「…………」
「呼んだら? でかい声で『こうちょうせんせーい!』とか」
「ヤです。恥ずかしいから」
で、携帯が鳴ります。
もう一人の旅行委員、会計を買って出てくれた事務官(ちなみに女性)からでした。
「はい、K村です」
「えーと、K村先生たちどこにいます?」
「今、集合場所なんですが」
「そこからどこに行くんでしたっけ?」
「地下鉄の有楽町駅ですね」
「そうすると、たぶん私たちの方がそこに近いところにいると思うんですよ」
「ははあ」
「待ってますからー」
「はあ」
「……で、校長先生をどうするんです?」
「呼んで来るしかないな」
「……行ってきます」
で、ようやく全員合流すると、先回りしていた女性陣に、校長先生が、
「まったく、集合場所はあそこって言ってたのによ。いつまで待っても来やしないんだからな」
…………。
さすが校長先生。私の言いたいことを代弁して下さってありがとう。
ともあれ、時間調整もすんだのでレストランへ移動。
昨年度と同じ……というか、正確には、昨年度行ったレストランの本店になります。
地理的にはどちらもすぐそばです。
この旅行のメインは演劇鑑賞で、その次がこのレストラン。
なので、この後の二日目はわりとどうでもよいのです。
それでも、あれこれ悩んだ挙げ句、しながわ水族館を見て回った後、汐留らーめんを食べる、というプランになっていました。
しながわ水族館、というのもまた地味な話ですが、
ディズニーシー:子ども連れならともかく。混むし。
小石川後楽園の紅葉祭り:歩くのは嫌だ。それに、紅葉の時期は終わりなんじゃ?
横浜中華街散策:自由行動にするなら、職員旅行である意味がない。
国立美術館:まじめなところは嫌だ。これも混むし。
デックス東京ビーチ:みんなでぞろぞろ行くところではない。そもそも、11時からだから、時間調整にならない。
……というようなええい、どいつもこいつも勝手なことをッ!貴重なご意見をいただいた結果、にっちもさっちもいかなくなり、「みんなまんべんなく楽しめるところ」……ということで、こういう計画に。
……「みんなまんべんなく退屈なところ」になっている気もしたけど。