小規模校における教務主任の任命と、その職務について。

教務主任は、校長の監督を受け、教育計画の立案その他の教務に関する事項について連絡調整及び指導、助言に当たる。
学校教育法施行規則第22条第3項

時間割の編成や年間の行事計画など、学校全体の一年間の活動を見通して計画を立て、スケジュール通り円滑に学校が動けるように連絡・調整を行う……。
 
教務主任と言えば大変な激務でもあり、まあ、感覚的には、校長・教頭に次ぐ立場かと。
 
さて。
私が初めて教員として採用されたのは、北海道紫矢別町(仮名)の小さな小学校でした。
 
そして、採用初年度が終わろうとしていた頃。
 
教頭先生から、アンケート用紙が配られました。
 
「来年は何年生を担任したいか」
「来年は何部を担当したいか」
「それぞれ第三希望まで書いてください」
 
第三希望まで……って。
 
小学校は六学年ありますが、学級で言うと
「1・2年複式学級」(担任・T先生)
「3・4年複式学級」(担任・K村)
「5・6年複式学級」(担任・O先生)
の三クラスしかありませんでしたし。
 
部については、
「教務部」(T先生)
「指導部」(K村)
「研修部」(O先生)
「管理部」(校長・教頭)
「保健部」(養護教諭
……がありますが、管理部は校長教頭、保健部は養護教諭で確定ですから、やっぱり実質三択しかないですよ?
 
と、ベテランのT先生が、
「先生方、後でちょっと相談したいので、うちの教室まで来てください」
 
T先生、O先生、私の三人で相談となりました。
 
T「さて。やっぱり、アンケートを提出する前に、一応こっちで相談しておいた方がいいと思うんです」
私「ははあ」
T「K村先生は、来年何部がいいとかありますか?」
私「いえ。というか、何部がなにをやるのかさっぱり」
 
もちろん、これ以前に産休代替として勤務した学校にも、こういう分掌組織はありました。
しかし、そっちは大規模校で、研修部だけで5人もいたりしますから、正規採用じゃない私はほとんどそっちの仕事はしないで済んでいたわけです。
 
T「K村先生はまだ若いので、いろいろな部を担当したほうがいいと思うんです。しかし、O先生は来年は産休に入られるので、教務は難しいと思います。そこで、O先生は来年も研修部。K村先生は教務部。私は指導部、という形でいいんじゃないかと思うんです」
私「ははあ」
 
と、そこで、黙っていたO先生が
 
O「そういうことなら、私が指導部でK村先生が研修部、T先生が来年も教務部、でもいいんじゃないですか?」
 
T先生むっとして、
 
T「私は指導部がやりたいんです」
O「ははあ」
私「……まあ、私はいいですけど……」
 
よくないんですが。
 
翌日、アンケートを提出すると、教頭先生がなにやら複雑な表情で私の所にやってきました。
 
教頭「K村先生? これ、先生方相談して書いたね?」
K村「え……っと(別に隠すようなことじゃないよな?)……はい」
教頭「この後校長先生と相談して分掌を決めるんだけど、これを見ると先生方の希望がかぶってないから、この通りの配置になると思います」
K村「ははあ」
教頭「でね? 全校で三学級以上ある小学校では、教務主任を置くことが定められてるんだ」
K村「はあ」
教頭「本校は、1・2年、3・4年、5・6年の、ちょうど三学級ある」
K村「そうですね」
教頭「そこで、教務主任を一人置かなきゃならない」
K村「ええ」
教頭「で、教務主任というからには、教務部から出すのが筋なわけだ」
K村「なるほど……。 って、いやでも教頭先生、教務『部』って言っても、私一人しかいないんですが」
教頭「(複雑な表情で)……そうなんだ」
 
だまされたー!
 
というわけで、採用二年目にして教務主任。
 
前代未聞。
 
教務主任が集まる、
「学校運営研修会」
なんて大した名前の研修会に出席させられたりしました。
 
会場を見回すとベテランの方ばっかり。
 
「先生、採用何年目でいらっしゃるんですか?」
「あの……二年目です」
「ははあ……。 よほど人がいない学校なんですねえ……」
 
だまされたー!
 
講話では、
「学校を飛行機にたとえるとしましょう。
 校長を操縦士、教頭を副操縦士とすれば、教務主任は操縦席のようなものです。
 仮に校長教頭二人とも倒れたりしても、操縦席の自動操縦がしっかりしていれば、学校は二週間くらいはなんとかやっていけるんです」
 
なんて話が。
 
あの、私、自分自身の操縦もおぼつかないんですが。
 
でも、会場には、採用三年目、とかいう若い女の先生もいらしたので、お互いの事情を話し合ったりしました。
 
同病相憐れむ。
 
あんまり前代未聞でもないんですかね。
 
ともあれ、結局その一年、教務主任としてふさわしい仕事なんてもちろん全然できなかったわけですが。
 
でも、その年に受け直した教員採用試験で今の土地に採用されたのは、履歴書の経歴欄に「教務主任を担当」って書いたおかげもあるのかもしれないな、と思います。
 
教務が頼りない分しわよせが行った校長先生・教頭先生には、そういった意味でも感謝しています。
 
T先生に感謝するかどうかは微妙。