教育の人件費について。

先日のこと。
 
教頭「K村先生ー」
K村「はい、なんでしょう」
教頭「この資料、今作ってるんだけど、ちょっと聞きたいことがあって……」
K村「ははあ」
教頭「ええと、このところの行頭をきちんとそろえて、2ページ目はグランドデザイン(A3版)をA4サイズに縮小して横向きに入れて、3ページ目はこれだけの文章がページ内に均等に納まるようにして……」
 
DTP、というほど大したものではありませんが、ちょっと手こずりそうです。
口頭で説明するのも、その後教頭先生のマウスがないノートパソコンで作成するのも。
 
K村「……私がやりますか?」
教頭「本当!? いつまでにできる?」
K村「えーと、いつまでにできればいいんですか」
教頭「来週の頭までに170部必要なんだけど」
K村「それなら大丈夫です。明後日くらいには原稿ができると思います。プリンタの調子が良ければ、印刷は一日で終わりますし」
教頭「やったあ! いやー、聞いてみてよかったわ。これにもう2週間もかかっちゃってさあ……」
 
えええええ。
 
教育界の悪いところは、現職教員の人件費を無料だと思っているところではないでしょうか。
文科省上層部から現場に至るまで、おおむね全部。
 
えらい人はえらい人で、
「ちょっとでも子どもに関係あることなら、とりあえず学校にやらせればいいや」
みたいなノリで、大した意味もない仕事を押しつけてきますし。
 
現場は現場で、
「少しでも子どもたちにとってプラスになることなら、とりあえず我々が片付ければいいや」
みたいなノリで、コスト度外視でいろんな仕事を抱えることになります。
 
しかし現実には、私たちの労働力は有限で、しかも税金から給料をもらっているわけですから、労働力を無駄遣いしないことも大切ではないでしょうか。
 
教育予算に限りがあるように、教員も、
「限られた教育資源」
なのですから、本当に教育的に意義のある仕事に注力することが必要だと思います。
 
以前など、行事で使う垂れ幕を、教務主任が模造紙で作って、マジックで字のふちどりをして、中の色を筆で塗っていました。
 
K村「先生、それ、一太郎に“垂れ幕印刷”って機能がありますから。それを使ってカラーで印刷したらあっという間ですよ」
教務「んー、でも、カラートナーがもったいないから。今年度の消耗品費も残り少ないし」
 
手塗り作業が終わるまでの教務主任の人件費に比べたら、トナー代なんて誤差範囲なんですが。
 
そういう、限られた時間と人員で、最大の生産性を発揮する、という意識は教育界には薄いな、と、常々思います。
 
民間企業であれば、生産性を高めることに血道をあげているだろう……と思うのですが、実はそれについても最近思うことがあります。
はてなの注目ブックマークなど見ていると、民間企業(主にIT関連)の人たちのための「〜〜するための5つの方法」みたいなのをよく目にします。
生産性の低いことでは人後に落ちない私なので、時々そういう記事も見てみるのですが。
 
もちろん参考になることも多々あるのですが、時として思うのは、
「これって“自分の”(あるいは、自分とその部下の)生産性を上げる方法だよな」
ということです。
 
自分の関わる部分の生産性を上げることが目的であって、周囲の部局とか、企業全体の生産性を上げることは視野に入っていない……というか、時には
「全体の生産性にとってどうなの?」
と思うこともあります。
 
私が頭が固いからかも知れませんが、
「メールチェックは一日一回にする」
とかって、そういうものの典型に思えます。
 
まあ、学校の場合、職員がメールで連絡を取り合うなんて洒落たシステムはないんでそもそも関係ないですが。
携帯すら、「あ、ごめんマナーモードになってたー」とか。
それ以前に本校一帯は携帯の電波が怪しいという。
 
ともあれ、おそらく一般企業では、企業全体の生産性向上は、企業のトップが考えることであって、部長は部の、係長は係の生産性を上げることだけ考えていれば良いのだろうな、と想像しています。
というか、他の部局のためを思いやっている余裕はない、というか。
もっと言えば、同僚を助けてやる義理はない、というか。
 
しかし、私たち教員は、ありがたいことに、ノルマやら営業成績やらに追われません。
おかげで、私のごとき平教員でも、学校全体の生産性向上を考えることができる、というわけです。
 
例えば、さっきの例で言えば、教頭先生の2週間の人件費を考えたら、私の2日間の人件費なんて、それこそ誤差範囲です。
同じ期間で考えても、教頭先生の方が高い給料をもらってるはずなわけで。
学校全体のことを考えたら、そういう仕事は、当然私がやるべきです。
そしてその間、教頭職にしかできない高度な業務を教頭先生がやるわけです。
 
先日は、同じ考えのもと、にして、教務主任から、パワーポイントの資料作成も引き受けてみました。
……まあ、いつも迷惑かけてばかりなので、たまに役に立てるのがうれしいだけ、って話もあるんですが。
 
公務員は非能率的だ、と言われますが、お互いの足を引っ張り合う必要がない、というのは大きな利点です。
前述のコスト意識を身に付けつつ、この利点を活かすことで、各職員が学校全体を見渡せばもっと優れた組織運営を行っていくことができるのではないか、と考えています。
 
K村「というわけで、この資料は私がやりますから」
教頭「ありがとう。ごめんね、本当は私がやるはずの仕事なのに」
K村「いいですいいです。その間に教頭先生はもっと有意義な仕事をなさってください」
教頭「はーい。じゃあ、ちょっと花壇の草むしりしてくるわね」
K村「……………」
 
…………。
 
ええとですね。
確かに、私が草むしりするより教頭先生がやった方が効率はいいんですけど。
 
人手が足りない? という話はまたいずれ。