職員旅行記3

前回とずいぶん間が空いてしまったものの、放置するのも気分悪いので最後まで。
 
思えば、初日朝の新幹線で教頭先生と隣の席になり、
しながわ水族館は、今イルカショーもアシカショーもやってないんでしょ? だったら、葛西臨海公園の方がいいわよ」
と言われ、
「はあ……。じゃあ、旅行委員で相談します」
と、答えてしまったのがそもそも間違いだったのかも。
 
さて。
 
初日の夕食は、「校長先生の知り合いが経営する」レストラン。
 
昨年は、その支店に行ったのですが、今年は本店の方。
地理的にはすぐ近所です。
 
で、行ったらシェフが迎えてくれました。
 
去年見た、支店のシェフと顔がそっくりです。
 
一瞬、ゲームとかでよくある光景(どこの町でも「宿屋の主人」とか「武器屋の親父」は同じ顔をしている)を思い出しましたがそんなはずはなく。
これは(知り合いである)校長先生が来るということで、わざわざ迎えてくれているわけです。
 
食事の間、シェフはずっと我々のそばにいて、出てくる料理一つ一つについてシェフが説明してくれ、その合間合間に軽妙なトークを披露してくれました。
 
シェフの仕事ってよく知らないんですが、厨房には行かない職業なんですか?
 
しかし思うに、「毎回、職員旅行や修学旅行の食事は、校長の意向で校長の知り合いが経営するレストランでとっている」って、実はよく考えるとまずい状況なのでは。
いや、そのコネで少し安くしてもらっている、とかいうことなのかな、とも思うんですが、なにぶん定価のあるものじゃないから、「一人5000円」というのがどの程度割り引かれているのかはっきりとはわかりませんし。
 
地域に市民オンブズマンとかがあったらまずいことになるんじゃないかなあ。
 
少なくとも、児童集会とかで「今年の修学旅行でも、校長先生の知り合いのレストランに行った」……って言いふらすのはやめたほうがいいと思うな……。
 
あと、事前に学校園で取れた紫芋とかユズとか黒大豆とかを送りつけて、「これを使って料理を作ってくれ」とかいうのも、結構迷惑なんじゃなかろうかね。
有機栽培なのは間違いないけど、素人のやった有機野菜って、スーパーで転がってる野菜以下の品質になるに決まってるわけで。
 
などと思いながら会計。
 
「125000円になります」
「ちょっと待った」
 
一人5000円じゃなかったのか。
 
レシートを見ると、料理の代金が5000円で、酒代がほぼそれと同額つけられています。
 
なんですとー?
俺は一杯も飲んでないのに!
 
……という問題ではなくて、去年は確か料理・酒合わせて5000円だったよ?
 
事前の旅行委員同士の打ち合わせで、
 
「お金、いくら持って行きます?」
「うーんと、10万もあればおつりが来るはずですよね?」
 
……とか言っていたのに、初日にして足が出ました。
 
ていうか、そもそも、旅行予算全体が破綻しかねない大ピンチ。
 
助けて、オンブズマン
 
オンブズレッド「社会正義を守るため、市民戦隊オンブズマン、参上ッ!」
オンブズイエロー「カレーがメニューにないレストランなど、許せんでごわす!」
 
いや、そういう問題では。
 
ふざけすぎましたすみません。
たぶん今の戦隊物はこんなにステレオタイプではないと思います。(そっちか)
 
まー、何しろ飲み食いしてしまったものはしょうがない。
 
レストランの予約を校長先生に頼んで、細かい確認を怠ったこちらが不覚でした。
 
3時間を予定していた校長先生とシェフの歓談も2時間くらいで終わったので、あとはホテルにチェックインすれば初日の予定は終了。
その上で飲みに行きたい人は、フロントで情報を聞くなりしてご自由に。
 
……と、いう予定でした。
 
で、この後一体何が起きたのか、私にもよくわからんのです。
 
気が付くと、レストランの若い衆の一人に案内されて、支店に向けてぞろぞろ歩いていました。
 
あ、あれ?
 
周りの先生に聞くと、支店の方でディナーショーをやっているので、それを見に行くのだとか。
 
どうやら、シェフが
「今日、レストランでディナーショーをやってるんですよ」
……と言ったのに対して、校長先生が
「じゃあ見せてくれよ」
と要求したのか、あるいは、シェフが
「校長先生たちも見ませんか」
……と、(たぶん)社交辞令で言ったのを校長先生が真に受けたか、どっちかだと。
 
支店に着いたら着いたで、「ショーは食事の後から始まりますので、食事が終わったらお入れします」……という話になり、ロビーで待つ展開に。
 
その間、もう一人の旅行委員(事務官。会計担当)と、
「……お金、あといくらあります?」
「個人的に持ってきたのが三万くらいです」
「帰りはシャトル切符で帰れるし、ホテルも手配済みですから、問題は地下鉄運賃ですね……」
お土産代として持ってきたお金で一時立て替えをする相談。
 
校長先生は校長先生で、
「いやあ、だって、この後夜の予定はなんにもないんじゃ寂しいからなあ」
とか上機嫌。
 
……いや、それは……。
去年の教訓を生かしたつもりなんですが。
 
で、まあ、ディナーショーを見たんですけれども。
 
なんというか、照明が暗くなった隙にこっそり入っていって、すでに食事を終えたお客さん達の隣に入るという、何となく昨年の職員旅行(ショーの時間に遅れて、演目の合間に裏口から入れてもらった)を思い出させる展開。
はじめからいたお客さんにとっては、「こいつら何者?」って感じだったんじゃないかと。
 
そしてそこにもシェフがいました。
本店のシェフと顔がそっくり。(違)
 
迷惑な団体だよな、我々……。
 
して、そのショーの内容ですが。
 
主役は、誰とは言わないけど、「〜〜ヒロシと〜〜ガールズ」という……。(言ったも同然だ)
 
一昔前は、違うメンバー・ユニット名で紅白にも出たらしいんですが、私は全然知らず。
まあ、私は昨年の紅白の出場者だってほとんど知らないんですけど。
 
……みのもんたは知ってるよ?(出場者じゃないぞ)
 
それが、今ではこんな小さな(失礼)レストランでドサ回り……。
諸行無常
 
あと、その弟子の人たち。
つまるところ、もう一線を退いて、後進を育成してるんでしょうか。
弟子sが、やたら「師匠」呼ばわりして、話の内容でも持ち上げるのが鬱陶しかったなあ。
 
客の前で内輪の人間を「師匠」扱いするのって、客の前でお互い「先生」呼ばわりする学校関係者以上に変だと思うんですけど(私は、同じ学校の職員は苗字で呼び捨てにしますよ。ちょっとどきどきするけど)。
まあ、落語家とか、類例はありますが。
 
なんというか、歌が上手いのかどうかはよくわかりませんでした。
っていうか、伴奏は録音、どの歌も歌い方が同じなので、どの歌も同じように聞こえました。
 
あと、ホールとかと違って天井が低い普通のレストランに無理矢理スポットライトを据え付けているので、ライトが真横から照射される形に。
〜〜ヒロシさんが客席に握手しに来ると、客席に真横からライトが。
まぶしいんじゃあーっ!
 
バックダンサー(なのか?)の〜〜ガールズの皆さんの熱演が光りましたね。
まあ、手品がへたくそなのはご愛敬として(……あんなにしっかり体に押しつけたら、「鍋ぶたの後ろに何か隠してあります」って言ってるようなもんだぞ)、歌にダンスに。
 
しかしねえ。
にこにこしてるけど、ああいう仕事の人もストレスたまるだろうなあ、と思いました。
 
日本全国あちこち出かけて、あんなヘソ丸出しのかっこで踊って。
それも、あんな小さなステージばかりで。
その上、〜〜ヒロシさんのセクハラ気味のトークにも笑って答えて。
 
プロのダンサー、って仕事は確かにあるし、もっとビッグになる夢もあるのかも知れないけど……。
売り出し中の若手の歌手と一緒にいるならともかく、落ち目の人と一緒じゃあなあ……。
〜〜ヒロシさんは(落ち目とはいえ)もう何十年も歌い続けてるわけだけど、ああいう仕事の人はそうはいかないだろうし……。
 
……で、ショーが終わった後、Y先生から
「どうでした、K村先生」
と聞かれて、思わず
「いや、ああいう仕事の人も大変だなあ、と」
と答えたら、
「いやー……そういうこと言っちゃあ駄目ですって。それだとなんか、水商売のお姉ちゃんに『実家はどこなの?』とか聞いてるおっさんみたいですよ。せっかく見に来た以上は、もっと、こう、盛り上げないと」
 
うむ。
すみません。
 
大人の世界は難しいなあ。
 
小学校教員の世界って、職場の半数以上が女性な上、子どもと関わる関係上、男女差別を許さない意識が否応なしに浸透している、という、たぶん日本で一番セクハラの少ない職場なので。*1
あと、功罪ありますが、人事権のある上司が職場にいない、というのも大きいのかなあ。(各地で人事考課制度が始まるから、今後この点がどうなるかわかりませんが)
だから、どうにもこういうのって違和感が。
 
ともあれ、終了時刻もわからずに飛び込んだディナーショー、終電に間に合わなかったらどうしよう、などとやきもきしましたが、その点は大丈夫だったのでやれやれ。
 
で、ホテルへの途上、旅行委員同士で、明日の予定について話し合いました。
 
「何か、葛西臨海公園がいい、っていう声が出てるんですけど」
「でも、臨海公園、歩くんじゃないですかね」
「そうなんですか?」
「たぶん……。まあ、明日、みんなの意見聞いてみてもいいかもしれませんね」
「……『しながわ水族館』『葛西臨海公園』『もう帰る』の三択で聞きたいなあ」
「あー、あたし、それだったらもう解散にしたいなあ」
 
何このテンションの低い幹事。
 
その後、予想通り校長先生が「飲みに行くぞー」とか言い出して、若い先生たち(私を含む)を連れて居酒屋に行ったりしたわけですが。
 
帰ってくると、携帯が鳴って。
旅行委員(会計)からでした。
「ちょっと、話したいことがあるんで廊下にいいですか?」
「はあ」
 
行ってみるとこんな話。
 
「あのですね。今、女性部屋*2の方で、『しながわ水族館なんかつまらないから、明日はどこに行きたいか』ってことで話が盛り上がってまして」
 
えー?
 
「あと、明日の昼食も、『汐留ラーメンなんかより、もっとおいしいものが食べたい』っていう話で、あそこがいいここがいいっていろいろと意見が出てるんですよ」
 
えー。
 
「それで、明日の朝多数決をとって行き先を決めよう、って話になってるんです」
 
おいおいおい。
 
「いや……。決めよう、って……。旅行委員そっちのけで勝手に話を進められても困るんですが」
「うーん……。まあ、お伝えしておこうと思って」
 
この時点でもう私はやる気が失せました。
もともと乏しかったけど。
 
これまで、老若男女みんなが楽しめるように、ということで、あれこれ旅行計画立案に悩んできたわけで。
それを多数決で決め直す、というのはいかがなものか。
大体、観劇なんて多数決で決めたら絶対選ばれなかったはずで。
 
そもそも、計画の期間は短めだったとはいえ、行きたいところはないか、食事をしたいところはないか、何度となく意見を求めてきたわけで。
意見を言ってくれるのはいいことですが、そんなに色々行きたいところがあるなら計画を立てている間に言ってもらいたいわけです。
 
それを、一日目が終わった時点でそういうことを言い出すのってどうよ?
 
……と、いうような愚痴を、部屋に帰ってから相部屋のH先生に漏らしました。
 
「……うーん。……まあ、多数決なんて事を認めちゃあ駄目だろうな、ここで。旅行委員が一旦こうする、と決めた以上は、みんなそれに従わないと。大人なんだからさ」
「そうですよね……」
 
その後、他の男性陣は校長先生の部屋で飲んだりしたらしいんですが、私は疲れて就寝。
 
翌朝。
 
(多数決! 多数決!)
なにやらせっつく旅行委員(会計)。
 
「えーと。……では、みなさん集まって下さい」
 
円陣。
 
「これまで、旅行委員としては、みなさん全員が、同じように楽しめる職員旅行を、ということで、いろいろ考えた末、今回の計画を立てたわけです。しかしながら、みなさんの方からも、いろいろとご意見があるようなことを伺いました。ですので、もし、『ここに行けば、全員が、今の計画よりも楽しめる』……というようなプランがありましたら、ぜひこの場でおっしゃって頂きたいと思います」
ぼそぼそと。
 
微妙に気まずい間。
 
「いかがですか。……ありませんか。では、当初計画通りということでいきたいと思います」
 
さっさと歩き出す私。
 
K「うえーん」
H「泣くなこんな事で。 まあ、何も言われなかったからいいじゃないか」
 
あの場で多数決をとって他の計画になるようなら、私は帰るつもりでしたけどね。
むしろそうしたかったかも。
 
まあ、正直なところ、旅行のその後の部分はろくでもないもので。
しながわ水族館では、私以外の参加者が予定よりも20分くらい先に出てしまったり。
「K村先生、今どこにいます?」
「えーと、サメ水槽の前ですが」
「みんな、もう、お土産も買い終わって外にいるんですが」
「……でも、送迎バスの時間までだいぶありますよ?」
 
おかげで、寒いのに、そぼ降る雨の中バスを待つ羽目になったり。
 
バスの運転手、乗り場の数m前に駐車してこっちを見ているのに、定刻になるまでドアを開けないという愛想のなさ。
弁当は昼休みに食えよ。
 
汐留ラーメンも、混んではいたけど、正直、高くてまずかったし。
 
だから、ほんとに、もっとマシな計画があるなら言って欲しかったよ。先に。
 
なんというか、少人数の団体だというのが悪い方向に働きましたね。
大きな団体なら、自分の意見で旅行計画(進行中の)を変更できると思う人はいないんでしょうけど。
微妙に意見が通りそうな規模だから。
 
旅行委員なんか二度とやらねえ。
 
……と、言いたいところだけどねえ……。
きっと、またやらされる機会があるんだろうなあ……。

*1:でも、勤続年数は女性の方が短いのです。
結婚して仕事をやめるのは、やっぱり女性が多いので。
共働きの先生も多いけど。

*2:手配の都合で、女性陣は家族用の「コネクテッドツイン(大部屋を中で仕切って二部屋にしてある)」に泊まっていました。