義務教育費国庫負担制度について。

私なりのまじめな素人考察なんで、読んでも面白くないです。
 
中央教育審議会で、義務教育費国庫負担制度の維持を求める内容の答申が出ました。
 
この制度、一体何かと言いますと。
 
要するに、教員の給料の半分を国が出す制度です。
 
公立学校の教員は、市町村立の学校で働いていますから、普通に考えれば市役所職員と一緒で市町村から給与をもらうはずです。
 
しかし、教員については、「全国一律の教育水準の確保」という目的のため、県が半分、国が半分の給与を負担するという制度が取られてきたのです。
「うちの市は財政が苦しいから50人学級にして、教員の人件費を削ろう」といった事態を避けるためですね。*1
 
で、まあ、「この、国が払っている分の半分について、教員の給与に限らず何に使ってもいいことにしてほしい」というのが、地方の要求なわけです。いい加減に言うと。
(正確には、「国が払っている分はいらないから、その分国税を減額してほしい」)
 
要するに我々教員の給料の話なんですね。
 
で、この制度の廃止については、反対する署名が回ってきたりしたんで、私なりにいろいろ考えました。
 
まず、制度が廃止されれば、教員の人件費が減額されるのは明らかです。
そうでなければ地方が制度の廃止を求める必要はないわけですから*2
 
でもまあ、自治体は自治体で、全体を見た上で一番必要だと思うところに金を掛けている、という認識なんでしょうけれど。
 
しかし、教員は教員で、「教育は社会で一番大事な仕事だ」という固い信念を持っています。
 
「明日の社会を支え、よりよい世界を作るのは、次の世代、今の子どもたちである。それゆえ、子どもたちを育てる教育こそ世界で最も重要な仕事なのだ」
 
……くらいのことは、みんな普通に信じています。普通に。*3 
なので、とりあえず教育費を削減しようという動きには教育関係者は反発するわけです。
 
別に、自分の給料が減るから文句を言うわけではなく。
 
実際、

  1. 教員全体の給与を一割増やして、人員を一割削減
  2. 給与を一割減らして、人員を一割増
  3. 現状維持

の3つの中から一つ選べ、と言われたら、私は2を選びますよ。
そういう教員は多いと思います。(ちなみに、1・2案では、人件費は単純計算で1%削減されます)
 
……しかし、どうなんでしょうね。
 
制度が廃止されたら、教員の人減らしが起こって、財政の苦しい地方では公教育の縮小が起こるのは必至だと思います。
 
しかし、思えば近年、私立学校に流れる人も増え、公立学校の社会的役割は軽くなってきています。
 
そもそも公立学校は、貧乏人のための学校です。
かつて、教育が家庭教師を雇える金持ちのためだけのものだった時代、一般市民にも教育を受けられるようにするために考案された制度なのです。
 
しかし、日本が豊かになり、教科書無償とか教育費無償とかがわりとどうでもよくなってきたことを考えると、いっそのこと公立学校なんか全廃して、全部民営化した方が日本のためなんじゃないでしょうか。
 
……いやいや、それはどうか。
 
かつては日本は右肩上がりの成長を続け、しかも「一億総中流」と言われるような、貧富の差の少ない社会を築き上げました。
 
しかし近年では、いわゆる「勝ち組」と「負け組」の二極分化が起きています。
なんだか聞き慣れない言葉ですが、これは終戦直後の日系ブラジル移民の話で、「日本は戦争に勝った」と信じる人々を「勝ち組」と呼んだのとは何の関係もありません。
要するに、「富裕層」と「貧困層」が日本に生まれようとしているのです。
「勝ち負け」と言うとなんだか戦って勝負がついたみたいですが、実際には貧乏人の子どもは生まれながらにして貧乏人決定で、戦う前から勝負が付いている、というのは歴史が証明しています。
これをなんとかするために生まれたのが、アメリカのヘッドスタート計画に代表される就学前教育など、つまり公教育。
 
……してみると、今後日本で貧富の差が拡大するとなれば、公立学校の水準を全国一律に保つことは、重要性を増してくるんじゃないでしょうか。
 
……てなわけで、私は署名運動に協力しました。
 
中教審の答申も、制度維持の方向で出たわけですが……。
 
総理が廃止したがってるんだよな……。
どうなることやら。

*1:これはそう大げさな話ではなくて。
昭和33年の標準法制定以前は、一学級60人なんて珍しくもありませんでした。
戦前は70人が常例で、地域や学校の実態によっては一学級100人まで認める、という制度でしたから、地方では、学校全部の子どもが一つのクラスで一人の教師に教わっている、などということさえあったのです。
風の又三郎」なんかはそんな時代です。(あの学校は全校26人しかいませんが。(又三郎を除く))
「谷川の岸に小さな学校がありました。
教室はたった一つでしたが生徒は三年生がないだけで、あとは一年から六年までみんなありました。」

*2:。「学校図書館図書整備費」というのがありまして。
政府は、学校図書館(いわゆる「図書室」)の本を1.5倍にすることを目的に、2002年度から5年間、年間およそ130億の予算を組んで、これを地方交付税交付金として地方に渡しているのです。
で、どこに消えたんですかそれ。
実際に学校図書館のために使った自治体は全国で30%程度だという話で、残りは橋や道路になってしまったわけです。
……その状況で、「もっと地方を信頼してほしい」とか言われてもなあ……。

*3:でもまあたぶん、ほかの業種の人も、「自分が一番」だと思ってるんでしょうけど。
医療とか金融とか政治とか建築とか運輸とか農業とか国防とか。