お忍びで?

 子どもから来た手紙には、返事を出しました。
「学校で楽しいこと」
 については、
「今の学校ではたまに奥さんが学校に来るのが楽しいです」
 と回答。
 
 せっかく学習発表会にお誘いいただいたのに、返事を出すのに3週間もかかったら発表会が終わっちゃうんじゃないか、と、自分の責任を棚に上げて心配していたのですが。
 
 その後、H先生から電話がかかってきました。
 
H「今度の発表会、子どもたちからK村先生に招待状を出したいんですが、いいですか?」
私「いいですとも喜んで。……あ、この間来た手紙を妻に見せたら、彼女も行きたいと言ってました」
H「じゃあ、お二人を招待しますね」
 
 そして後日、どさどさと招待状が届きました。
 
卒論ちゃん「何これ!? 子どもたち全員から一通ずつ招待状が来るの!?」
私「うん。たぶん、手紙の書き方の勉強を兼ねて、授業時間使って書いたんだと思うし」
 
 大きい学校だと、代表1名とかになるかも知れないですが。
 
卒論ちゃん「読みたい! 読んでいい?」
私「どうぞどうぞ」

K村先生元気ですか。
私は元気です。
運動会には来てくれてありがとうございました。
今度、学習発表会があります。
ぼく/わたしもみんなの前ではっぴょうします。
ぜひ来てください。
卒論さんもいっしょに来てください。
まってます。
*ここまでテンプレ
 
(発表会関係のイラストが余白に描いてある)

卒論ちゃん「……なんかみんな同じ事が書いてあるんだけど」
私「微妙に違うじゃん」
 
 主に、上の文章のうちどれか1・2行がランダムに抜けているという違い。
 あと、進級してからの近況を伝える文が入っていたりとかします。
 
卒論ちゃん「これって、お手本の文があってそれを書くわけ?」
私「まあ、ある程度どんなことを書いたらいいかは指導されてるんじゃないかなあ。
 大人だって、模範文例を見て手紙を書いたりするじゃん。
 小3の子に何を期待してるんですか」
 
 それぞれのトーンやタッチの微妙な違いを見て楽しむという感じ。
 手紙を読むというより紅葉狩りとかに近い世界。
 
私「これが普通だと思うんだけど……」
卒論ちゃん「これで驚かないのは学校の先生だけだよ!」
私「私もH先生も学校の先生だもん」
 
 ……しかしそう考えると、今まで「社会科見学のお礼状」とか、三十枚近い紙束(しかも文面はみんな似たり寄ったり)を消防署やらスーパーマーケットやらに送りつけてたのって、先方にはびっくりされてたんでしょうか。
 
卒論ちゃん「みんな“おくさんと2人で来てください”って書いてあるね」
私「H先生に、2人で行きます、って言ったからな」
 
 ともあれ、思いがけず去年担当した子どもたち全員から手紙をもらって喜んでいたのですが、話はここで終わらず。
 
 実施日前日になってH先生からメール。
 
H「実は、K村先生を招待したと言ったら、教頭から怒られてしまいました」
私「えええええ。じゃあ、行っちゃだめですか?」
H「いえ、子どもたちも楽しみにしているので……ただ、子どもたちが書いた招待状はK村先生には出していないことになっているので、そのことは学校では伏せておいてください」
私「……招待状もらってないなら、なぜ私は来たんでしょう」
H「私が個人的にご連絡した、ということにしますので……」
 
 鱶沢小の学習発表会は、保護者のみならず、地域のお年寄りなども広く招待する行事です。
(といっても僻地だから大した人数ではないけど)
 卒業した中学生も遊びに来たりします。
 
 なので、子どもに招待されてうかうかとその気になっていたわけですが、思い返すと、転出した先生が来たのは見たことがなかった。
 
 で、考えてみたら、地域のお年寄りには学校の名義で招待状を出してるんでした。
 一方、転出職員は、運動会には招待されるけど学習発表会には招待されないのが通例だったんですが、招待状の発送は教頭先生の仕事で私の仕事じゃなかったから、
「学校から正式の招待がないのに行って大丈夫なのか。他の転出教員は招待しないのに、私だけH先生が招待して大丈夫なのか」
 とかいうところまで頭が回りませんでした。
 
 でもまあ、ここで行かないと子どもたちにあまりに申し訳ないし、私も久しぶりに去年の子どもたちの顔を見たかったので、菓子折など持って、夫婦二人で出かけてきました。
 子どもたちとは楽しかったし、保護者や先生方にもあいさつをして、一応歓迎はしていただけたんですが。
 
 ……H先生、去年も上司に叩かれて苦労してたけど、今年も苦労してるんだなあ……、と思いました。
 
 発表会の話はこれで終わり。
 ちょっと続くんですが、それはまた後日。