休職中の過ごし方について。

 医者曰く。
「休み中はどう過ごされますか?」
「まあ、本を読んだり……ゴロゴロして過ごす予定です」
「なるほど。……基本的には、ご自分のしたいように過ごされるのが一番なのですが……」
「が?」
「例えば、パチンコ店に入り浸っているのを知り合いに見られたりするとですね、
うつ病で休職中なのにパチンコに!』
 などと言われてしまう可能性があります。
 これが、足を骨折して仕事を休んでいる、というような場合だと、何をしようと誰も文句は言わないんですが……。
 まあ、心の病気の難しいところですね」
「わかりました気をつけます。まあ、元々パチンコはやらないですが」
 
 パチンコといいますか、私もこれでも教員になってそれなりの年月を過ごしております。
 かつて平清盛は、多数の子どもを市中に放ち、平氏に批判的な言動をする者を見つけて密告させたと言います。
 それは平安時代の話ですが、現代においても、教員というのは、うっかりコンビニでエロ本を立ち読みしたりすると、どこで子どもが見ていて親に言いつけるかわからない平安京エイリアンです。
 とりわけ、今の大規模校に転任してからは、こっちは向こうの顔を知らないのに、向こうはこっちを知っているという情報の非対称性。
 
 ともあれ、元々精神的には引きこもりの私ですから、ここへ行くなあそこへ行くなと言われても大した不足はないわけで。
 不用意に出かけたりせず、だらだらネットをやって過ごしております。
 
 このように、教師というのは社会の上流に位するものですから、単に物質的な快楽ばかり求めるのではなく、高尚な精神的娯楽を求めなくてはならんわけで、蕎麦屋だの団子屋だのへ出入りしてはいかんわけです。ただし笑うべからず。
 
 まあ、最愛の妻・卒論ちゃんのために毎日夕食を作るとか、たまに掃除洗濯をするとかはしていますけれど。
 
卒論ちゃん「いいにゃー、ダーリンが家にいると安心だにゃー」
filinon「それは何より」
卒論ちゃん「はっ! 駄目にゃ! ダーリンが家にいることが快適になっちゃ駄目なんだにゃ!」
filinon「ううむ……」
 
 むしろ私が休みに入って苦労しているのは卒論ちゃんの方かも知れません。
 
 彼女の職場である教育委員会の方々は、私がうつ病で休職中なのは当然知っているわけで、
 
「早く家に帰ってご主人と一緒にいてやりなよ!」
「ごはんとか作らせちゃ駄目だよ!」
「残業禁止!」
「飲み会に出るの禁止!」
「土日も出かけるの禁止!」
 
 とか大変な言われようだそうです。
 
 ……いや……結婚前も、滅多に一緒に出かけたりしないカップルでしたから、そんなに常時一緒にいなくても全然大丈夫なんですけど。
 
 まあ、そんな苦労をかけているわけですから、夕食を作るくらいのことはしないと。
 先日は、彼女が友達や職場で配るというので、ケーキを焼いたりしました。私が。
 
卒論ちゃん「でも、ダーリンに焼かせたっていうとまた色々言われるから、あたしが焼いたことにするにゃ」
filinon「どうなんすかそれ」
 
 翌日の帰宅後。
 
卒論ちゃん「教育委員会で出したら、一瞬でダーリンが焼いたってばれた……」
filinion「今まで、私が作った料理しか持って行ったことないもんな」
 
 豚の角煮が得意料理です。私の。
 なんか結婚式の校長のスピーチでも「お菓子作りが得意」って言われました。私が。
 
 ……教育委員会の人たち、それを聞いてるもんな。
 
filinion「っていうか、学校から“お菓子ごちそうさまでした”ってメールが来たんだけど、学校で配ったんですか」
卒論ちゃん「うん。……でも、ダーリンが作ったとは言わなかったよ?
うつ病で休職中なのにケーキ焼いてる』
 とか思われるとまずいと思ったから」
filinion「いや、卒論ちゃんに頼まれたから焼いたんだけどな」
卒論ちゃん「学校でも教育委員会でも実家でも評判良かったよ」
 
 まあそれは何より。
 
卒論ちゃん「ところで、今度、美術学校のスクーリングがあるんだけど……」
 
 彼女は通信制の美術学校に入っています。
 通信制ではありますが、年に数回、数日間にわたる「スクーリング」なる実習&講義に出かけねばならないのです。
 
filinion「いいよ、行ってくれば?」
卒論ちゃん「でも……ダーリンを置いて泊まりがけで出かけたりしたら、教育委員会の人に何を言われるか……」
filinion「私は全然大丈夫だから! 気にせず行っておいで」
卒論ちゃん「うん……。じゃあ、教育委員会の人には、ダーリンも一緒に行くことにしておくから」
filinon「どうなんすかそれ」
卒論ちゃん「うっかり誰かに目撃されたりしないようにね」
 
 外出禁止令が発令されました。
 いや、元々精神的には引きこもりの私だから、さして苦にはなりませんが……。
 なんか、「20世紀少年」に似たようなエピソードがありませんでしたか。
 
卒論ちゃん「特に、家の近くのコンビニは、よく係長が立ち読みしてるから行かないようにね」
filinion「……それつらいな」
 
 ともあれそんなわけで、わずかな期間ながら一人暮らし生活をしております。
 一人だと全然料理とかしないんですけどね。
 
 と、ここで何の脈絡もなく私が作ったケーキのレシピ。
 
*材料
 りんご 4個
 卵 3〜4個
 薄力粉 430g
 塩 小さじ1
 砂糖 300g
 ベーキングパウダー 小さじ1
 重曹 小さじ1
 油 200cc
 
*作り方
 とにかく全部混ぜて焼く。(170°で45分)
 
 もちろんリンゴは適当なサイズに刻むこと。
(私はいつもニンジンの銀杏切りくらいの大きさにしますがたぶんもっと細かい方がいい)
 卵は混ぜる前にといておいた方が賢明。
 私は粉をふるうとか面倒なことはしませんが、今回は砂糖の塊がなかなか崩れなくて難渋しました。
 
 これは、鱶沢小時代に教頭先生から教わったレシピ。
 自作のケーキを職員会議に振る舞ったりしてたんですよ。
(今思うとほんとに牧歌的な学校だ……)
「油の代わりにバターを使うとより“ケーキ”っぽくなるかも知れない」
 とは教頭先生の弁。
 
 今回、あちこち合わせて8人に配るというので、分量の1.5倍の材料を使ったら、リンゴを入れてないのに一番大きなボウルが一杯になりました。
 

 とりあえず混ぜ始めたところ。
 砂糖とオリーブオイルが空になりました。
 茶色いのは砂糖が甜菜糖だから。
 ここにこれからリンゴが6個入ります。(無理)
 
 ……そうかこれ、レシピ通りに作ると職員会議で配れる量になるんだ。
 レシピに「りんご4個」
 とある時点で気づくべきでしたが混ぜちまったものは仕方ない。
 
 全部混ぜると、生地というより
「りんごの練り小麦粉和え」
 みたいな感じになりますが、焼くと生地が膨らむのでご安心を。
 
 ……この量がさらに膨らむのかよ大変だな。
 どう考えても一回では焼ききれないので、パウンドケーキ型2つを4回に分けて焼きました。
(生地の写真だと全然うまそうに見えませんができあがりの写真はない。撮れば良かったな)
 
 焼くだけで3時間。
 ……まあ、時間はいくらでもあるんですけどね。