今日も元気に生きている。(なんのオチもないです)

暑い日が続きますが、皆様お元気でしょうか。
 
……お元気ですか?
 
祖父が倒れました。
 
いや、暑さ関係ないんですけど。たぶん。
 
祖父は、12年前に祖母が他界して以来、首都近県に一人で住んでいました。
息子夫婦や孫の私が暮らす関東北部からはかなり離れていますが、年齢から考えて著しく元気で、年に一度は息子夫婦の家まで遊びに来ていたものです。
 
祖母が死んだ後の方が元気だった、というのが周囲の一致した見解ですが。
 
ヘルパーさんが家に来た時、灯りがついているのに返事がなく、変に思って家に入った(地区会長さんが鍵の隠し場所を知っていた)ところ、倒れているのを発見したそうです。
 
直ちに救急車で病院に運んだものの、診断は脳内出血。
脳の中心付近で出血が起きているため、手術はできず、自然に出血が止まるのを待つしかない、という判断。
 
連絡先一覧から、息子夫婦に連絡が入り、私の両親は病院に向かいました。
 
私は行かなかったのですが、病院に着くやいなや、
「今後の治療方針をどうされますか?」
 
つまり、延命治療をするかしないか決めてくれ、と。
 
「いや、本人に会う前にそんな……」
 
普通の怪我と異なり、中枢神経は損傷を受けると回復しません。
脳幹が損傷を受けており、出血が止まっても、意識が戻る可能性はほとんどありません。
仮に意識が戻っても、良くて寝たきりです。
車椅子などで動ける可能性はありません。
 
と、聞かされて対面した祖父は、思った以上に「元気そう」だったそうです。
 
酸素マスクと点滴(静脈栄養)はつけられているものの、時々顔をしかめたり、時には足が動いて毛布をはねのけたり。
 
傍らの心電図計に描かれた波形は時々不規則になりますが、看護婦が言うには、「時々止まる」のだとか。
 
止まった時、「K村さーん」と呼びかけて頬をぺたぺたたたくと、また動き出すのだと。
 
「……で、どうされますか?」
 
「治療方針」というのは、今後容態が急変した時に、電気ショックとか人工呼吸器装着とか気管切開とか、経管栄養とかをするのか、それともその時点で「ご臨終です」とするのか、ということだそうです。
 
要は、現状で危うくなった時に救命処置をして延命を続けるのか、そのまま死んでもらうのか決めろと。
 
「いや……そんな。ちょっと考えさせてください」
「では、いつお返事をいただけますか?」
 
結局、今も祖父は入院中です。
 
最終的な決定は父が下すわけですが、父は動揺してしまって、言うことがころころ変わるのだとか。
 
見たところ元気そうなことや、病院から連絡を受けた(祖父の連絡先一覧に入っていた)祖父の海軍時代の同期生たちが
「ぜひK村の奴を元気にしてやってください!」
とか連絡をよこしたのも、動揺のもとなのだとか。
 
……ううん。
 
無理に延命治療を施しても、とは思います。
 
意識が戻る可能性があるならともかく、それがほとんどない、というのでは……。
 
今、祖父にどの程度意識があるのかわかりません。
脳死じゃないのは確かみたいです。
ひょっとすると、「周りで誰か話してるなー」「なんか暑いな」くらい感じてるかも知れない。
 
その状態で体が動かないまま何年も、っていうのはそれはそれでつらいでしょうが……。
 
私も母も、自分がそうなったら延命しないでくれ、と思っていますが、他人のこととなると簡単にはいきません。
 
母の知人の談によると、経管栄養に移行すると、これがまた「元気に」なるのだそうで。
消化もいいし、栄養バランスも万全だから。
 
「長生きするよー、何年でも」
 
病院としてはそれは困るんだそうで。
少なくとも三ヶ月たったら転院して欲しい、と。
 
その一方で、老人医療に対する支援は、今住んでいる北関東より、祖父の住む首都近県の方が充実しており、こっちへ転院したらいくらかかるか知れたものじゃない。
こっちへ転院すれば、お見舞いに行くのは楽になりますが……。
看護は病院が全部やってくれるし……。
 
また、一旦延命したものを、途中で
「やっぱりいいのでスイッチ切ってください」
というわけにはいかない、とも。
 
まあ、今は、病院としても、一刻も早く家族の意思を聞いておかないと、その前に本人の容態が急変して、
「延命してくれたら良かったのに」
または
尊厳死させてくれたら良かったのに」
などと訴訟を起こされるかも知れない、という恐れがあって、せかすのだろうと思います。
 
来年は祖母の十三回忌でした。
祖母の墓は遠く西日本にあるため、滅多に行けないのですが、十三回忌くらいは祖父と両親で一緒に行って、ついでに帰りに観光でもしてこよう、などと話していたのだそうです。
 
私や弟の誕生日には毎年手紙をよこし、今年は
「filinion君も結婚適齢期ですので、一日も早く良い相手を見つけることです。
そのためには、社交ダンスをすると良いでしょう」
なんて書いてよこしていました。
(本人、社交ダンスの先生をやっていたのです)
 
まだ確かな話でもないので、結婚を考えている相手がいる、とは伝えていなかったのですが……。
 
「かつては人は自然に死を迎えたが、医療の進歩によって、家族がそれを決めねばならなくなった」
……なんて、テレビでは良く聞いていましたが、いざこうして身内に降りかかると深刻ですね。
 
いや……難しいことです。