しからずんば死を!

さて、参議院選挙を控え、各候補者同士の論戦にも力が入ってきました。
投票とは、今後の国政を左右する大切なものであり、民主主義体制下における国民の重要な政治行動であることは言うまでもありません。
(あえて「議会制民主主義」とは言わないことにします。直接民主主義体制下でも、古代ギリシャオストラシズム陶片追放)のような投票の例があるからです)
しかし、近年では、投票に行かず、棄権する人も少なくありません。
 
大変残念なことです。
 
私たちは、普段、民主主義・参政権といったものを当たり前のものとして受け止めています。
しかし、それは本当はあまたの先人達の命がけの苦闘の末に打ち立てられたものなのであり、私たちはそれを忘れてはならないと思います。
 
民主主義こそ、私たちの幸福と、よりよい未来を保障してくれるものなのです。

民主主義は最低の政治制度である。
ただ、人類が過去に試したそれ以外の政治制度を除けば、だが。
ウィンストン・チャーチル(イギリス首相)

えーっと。
 
いやつまり、チャーチル
「民主主義は、過去に人類が試した中で最高の政治制度である」
って言いたいんですよ。
 
チャーチルったら、素直じゃないなんだから。
 
……ツンデレ
 
いや、ツンデレって何? って聞かれると私も返答に窮しますが。
http://fla3.gozaru.jp/flash/moe/moe4b.html
↑こんな感じのキャラのことを言うみたいです。
 
「な、なによ……。
え……、み、民主主義が最高!?、ば、バッカじゃないの!?
なんでアタシがそんなこと言わなきゃいけないのよ!?
民主主義なんてサイテーよ!
……そ……そりゃ、その前に試した政治体制の中じゃ一番マシだけどさ……。 わ、笑わないでよ! バカっ!」
 
いいですね、民主主義。
 

(ウィンストン・レナード・スペンサー=チャーチル 1874〜1965。ツンデレ
 
さて、そんな素晴らしい民主主義ですが、前述のごとく、その重要性が充分理解されているとは言えません。
まして、子どもたちに民主主義の仕組みや利点を理解させるのは難しいものです。
ともすれば、民主主義の最も重要な部分である「議論」を無視して、「多数決」こそが民主主義の根幹であるかのように誤解してしまうおそれもあります。
 
そこでご紹介するのが、“Lupus in Tabula(タブラの人狼)”というゲーム。
 

タブラの狼・日本版

タブラの狼・日本版

 
もともとは欧州(ロシア?)のパーティーゲームだとかですが、民主主義の仕組みを学ぶにはうってつけだと思います。
 
ゲームの舞台はとある小さな村。
村人達はごく普通の人間……のようですが、実は、村人の中に恐ろしい人狼が紛れているのです。(2〜3匹。村の人数=プレイヤーの人数による)
 
放っておくと、人狼は夜ごとに人間を襲い、一人ずつ村人を喰い殺していきます。
村が滅びる前に、なんとか人狼を退治しなければ……!
 
要は魔女狩りのゲームですね。
 ……いや、断じてそういう方向性ではありませんが。
(ところでこのゲーム、開発中は「どきどき魔女裁判」ってタイトルじゃなかったですか。当然そうあるべきだと思うんですが)
 
プレイヤーは、各自が村人となります。
ゲームの初めに、人間役か人狼役かが書かれたカードが裏返しで配られ、役が割り振られますが、これは誰にも見せてはいけません。
ですから、「自分は人間だ」と主張する人がいても(普通はみんなそうです)、本当かどうかはわかりません。
誰が人狼なのか、各自が推理を働かせねばならないのです。(人狼同士はお互いがわかる)
 
……で、朝になって村人の死体が発見されたら、村人同士で「この中の誰が人狼なのか」について討議します。
ある程度話し合ったら、最終的には投票で決定します。
 
……何を決めるかって?
 
そりゃあ、誰を縛り首にするかですよ。
 
オストラシズム
 
人狼を全滅させない限り、毎晩一人ずつ犠牲者が出ます。
村人は毎日一人ずつ、怪しい奴を吊していきます。
人狼を全滅させれば村人の勝利(逆に、人狼と人間が同数になったら人狼の勝利)ですが、人狼は複数いますので、一人吊してもゲームは終わりません。
だから、昨日吊したのが本当に人狼だったのかどうか、村人にはわかりません。
 
毎日必死の話し合いと自己弁護、そして投票。
命がけの苦闘。
 
「ヨアヒムだ! 奴が狼にちげえねえ!」
「そうよそうよ! 昨日人狼に襲われたシモンは、ヨアヒムのことを疑ってたわ! だから襲われたのよ!」
「な……何を馬鹿な! 君ら2人こそ、いつもまるで示し合わせたみたいに言ってることが同じじゃないか! 君らこそ人狼じゃないのか!?」

 
民主主義って素晴らしい。
 
ただの村人と人狼の他に、特殊な能力を持った村人もいます。
 
占い師:夜中にこっそり、誰か一人を指名し、それが人間か人狼か判定することができる
霊媒師:昨日処刑されたのが人間だったか人狼だったか知ることができる
ボディーガード:村人の誰か一人を、人狼の襲撃から守ることができる
 
……など。
 
……「ぼくは占い師だよ」って言ったら、たぶんその晩に喰い殺されますが。
占い師を自称する狼かも知れないし。
 
……もっとも、このゲーム、プレイ人数が8人以上、とかいう話なので、実はプレイしたことがないのですが。
 
でも、ネット時代の素晴らしさ、これをネット上でプレイすることができるのです。しかも無料で。
 
その名も人狼BBS
人狼BBSまとめサイト
 
実は先日、ちょっと参加してみました。
実時間の一日が、村の一日に相当します。(つまり、一日に一人ずつ犠牲者が出、一回だけ投票が行われる)
 
決着が付くまでに一週間くらいかかりました。
 
とても楽しかったんですが……。
 
んー、けっこう歴史のあるBBSだけに、かなり戦術研究が進んでいてですね。
 
「自称占い師と自称霊能力者が2人ずついるのは当然。むしろ3人」
「狼かどうか分からない村人は順番に吊られる」
「怪しい人は占わない」
「投票は全員合意の上で。占い先も」

 
など、いきなり初心者が入るととまどうと思います。(とまどいました)
 
過去の記録が保存してありますので、興味のある方は研究してから参加することをお勧めします。
 
私自身は、わりと村のみんなの足をひっぱってしまったし、一週間慢性の寝不足にもなりましたが(その村では、投票先の決定時刻が深夜だったので。これは村によると思いますが)、大変楽しかったです。
 
村のまとめ役を立てて、その人がみんなの意見を集計して結論を出す、という感じでした。
魔女狩り、と言って連想されるような、上記の集団ヒステリー的な混乱ではなく、秩序だった理性的な討議と、各自の合意が尊重される雰囲気でした。
 
民主主義の効用……でしょうか?
 
過去ログを読み込んで戦術を理解した上で、機会があればまた参加したいと思っています。
暇のある人にはお勧め。
 
ちなみに、ルール上、人狼を全員処刑すれば人間側勝利、となります。
その時自分が生きているか死んでいるかは問題になりません。
なので、「疑わしきは吊せ」式に吊されても、みんなあまり文句を言いません。
 
村のために死なねばならないなら、それはやむを得ないことだからです。
 
……それって、民主主義というか全体主義……

1945年イギリス。
第二次大戦終結の直前の総選挙。
イギリスを勝利に導いたにもかかわらず、チャーチルは選挙に破れ、首相の座を退くこととなった。
 
妻が慰めて言った。
「国民は婉曲に貴方への感謝を示しているのよ」
チャーチル「婉曲過ぎて私にはわからんよ」

……イギリス国民もツンデレ