いささか時機を逸した感もありますが、選挙の話。
今回の参議院選挙、自民党が予想外の大敗だ、とかいろいろ騒ぎがあるようですが、私が驚いたのは、
「維新政党・新風、もっといけると思ったのに!」
でした。
議席が取れる……かどうかは疑問でしたが、取っても驚かなかったのに。
まさか女性党より得票率が低いなんて。
いや、
「お前あそこに投票したのか」
……って言われるとむにゃむにゃ……なんですが。
昔読んだこの本。
[rakuten:book:10094535:image]
この中に、選挙の話が載っていました。
(確かこの本。……今、手元にないので)
図示した方がわかりやすいと思うので、先日リンクしたYahoo!の「みんなの選挙」を使うことにします。
まず、国民の政治思想というのが、
「自由経済←→計画経済」
「個人主義←→全体主義」
「タカ派←→ハト派」
といった対立軸のいずれについても、左右対称な釣り鐘型の分布を描くと仮定します。
ここで仮に、
「リベラル←→保守」
「大きな政府←→小さな政府」
の二つの軸だけを取り出して整理すると、下の図のような形になります。
円の大きさは、そのポジションにいる国民の人数を表しています。
……明らかに釣り鐘型じゃない(中央が落ち込んでいる)気がしますが、それはまあ無視。*1
中央が一番人数が多い、と思って下さい。
(そういう風に描き直そうかとも思ったんですが……。めんどくさかったので)
次に、国民は、自分と政治的に近い政党に投票すると仮定します。
(近い政党がない人は、そもそも投票しません)
すると、最初に政党を作る人は、この図の中央、(その国における)中道路線を取れば、最もたくさんの支持者を集められることになります。
☆印はその政党の政治主張がどの辺にあるかを表し、その周りの円は、その政党の支持者の範囲になります。
さて、しかし、政党が一つしかないのは一党独裁体制です。
中国共産党や朝鮮労働党やクメール・ルージュやバース党や国家社会主義ドイツ労働者党や大政翼賛会の体制です。
いずれもあまり民主主義っぽくないので、もう一つ政党を追加します。
第二党がどの辺のポジションを取ればいいかというと、第一党のすぐそばです。
各有権者は、自分に一番近い政党に投票しますから、ほぼ世論は二分されます。
青い☆が第二党の政治主張、青い半円がその支持層を表しています。
中央に陣取っている第一党(黄色)が、少しだけ有利です。
(本当は、中央が一番有権者の数が多いはずなので、この図の見た目よりもっと有利)
これで二大政党制になりました。
さらに第三党を追加。
……ああーっ! 第一党がっ! 自由と民主主義が! 55年体制がーっ!
……と、こんな馬鹿なはずはありません。(でもこれって、連立与党入りした社会党……)
第一党(黄色)がライバルに挟まれているのが良くないわけで、党の方針を変更して、挟まれない位置にずれればよいのです。
……旧社民党かも。
そんなにホイホイ政治主張を変えて良いのか、って話もありますが、ちょっと軌道修正するだけですから。ええ。
ちなみに前掲書では、
「各議員が所属政党を決定する上で、どの党に所属すれば当選しやすいか、という判断は、議員個人の政治的信念より優先される」
とか、さらっと書いてあったりします。(文章うろおぼえ)
ゲーム理論ってのはつまり功利主義ですから。
でも、利益(=当選)を優先しない議員はそもそも当選できないので、存在しないも同然です。
さて、第一党(黄)が立ち位置をずらすと、他の各党もそれに影響されて立ち位置を修正します。
互いに牽制し合った結果、大体こんな感じに落ち着きます。
「各党の政治主張に大きな差がないのは、このような理由による」
と、前掲書では説明しています。
ひでえ、ゲーム理論。
しかし確かに、有権者の傾向が分かっているなら、そこから外れまいとするのは当然でしょう。
大した政治的争点がない選挙とか、こうして生まれるのですね。
結果的に、候補者のスキャンダルとかが得票数に大きな影響を与えたり。
しかし、この調子で政党が増えていくと、各党の支持層はどんどん狭まり、細い扇形になっていきます。
まさにパイの奪い合い。
その一方で、釣り鐘型分布曲線の裾野、図の外側の方にいる人は見捨てられ、
「どの党も言ってること一緒じゃねえか」
「もっと庶民のことを考えた政治を!」
「Noと言える日本を!」
とか言い出すことになります。
そこで、こういう非主流派をターゲットにした政党が誕生します。
ニッチ産業ならぬニッチ政党。
見た目、支持層がかなり広いように見えますが、広い割に人口密度が低いので、実際には第二党(青)より優位にいるわけではありません。
(……この図だと中央が落ち込んでるから、かなり優位に見えるけどなー)
第四党(赤)は、確固たる支持基盤を持っている反面、決して政権を取ることはありません。
いわば確かな野党。
……他意はありません。
と、ここまでくれば、
「新風不振でびっくり」
の理由もおわかりいただけようかと。
この種のニッチ政党は、図の第四党(アカ)の位置以外にも存在し得るわけです。
日本にも、すでに
「強固な支持基盤があるがたぶん政権を取れない党」
はありますが、どの政党もカバーしていない範囲もあると思います。
この図で言うと、図の右下、「保守・小さな政府」方向には、そもそも政党が存在しないわけです。
維新政党・新風は、そんな、既存の政党がカバーしていなかったニッチ(というか裾野)をカバーする政党だ、と勝手に考えていました。
そこが、一口に泡沫政党・泡沫候補とは言っても、
「ユダヤ陰謀組織が世界を支配している」
「宇宙人はすでに地球に来ているのだが、NASAはその事実を隠している」
……とかいう主張を掲げている、
「あんたらどこがターゲットなんですか?」
みたいな政党とは違うところですね。
そういう意味に限って言えば、
「日本の戦後体制(現行占領体制)はバランスを欠いたもの」
……っていう同党の主張は正しいわけです。
そういう意味に限って言えば。
なので、政権を取ることはほとんどありえないにしても、1議席くらいの獲得はあり得るのでは、と予想していたのですが……。
むう。
たぶん、
「みんな一番近い政党に投票する」
というモデルが単純すぎなんでしょうね。
現実には、
「あっちの政党の方が思想的には近いけど、実績のある党に入れよう」
って人がいるわけだし。
宣伝力も影響するだろうし。
実態としては下の図の方が近い?
重なり合った部分では、距離の他に、その政党の影響力の強さが絡んで来るという……
(本当は、もうちょっとわかりやすい図にしたかったんですが、むしろぐちゃぐちゃになって挫折)
ともあれ、某党も2つしか改選議席をとれなかったし、某党は0だったし。
それを思えば、今回新風が0でも不思議ではないのかも知れません。
ともあれ、次の衆院選は無理でも、いずれ、
「日本も核武装を!」
「在日朝鮮人の強制送還を!」
「教育勅語の復活を!」
とかいう発言が、選挙期間以外にも電波に乗ってお茶の間に届いてくる日が来るのでは、と思います。
民主主義は最低の政治制度である。
ただ、人類が過去に試したそれ以外の政治制度を除けば、だが。
ウィンストン・チャーチル(イギリス首相)
*1:テストの不備だと思います。絶対そうだ。