家庭訪問。

先だって書いた、彼女の先輩との面談は、まあ、わりと普通でした。
 

 

私は話すの得意な方ではないので、
「どっちかって言うと彼氏の方が聞き役?」
とか言われたりしましたがその通りです。
 
後日。
 
「〜〜さん(その先輩の名)がね、先輩(彼女が私を指す二人称。ややこしい)とあたし、いいんじゃない、って言ってた」
「へえ」
「あたしには、いかにも今時の男の子、っぽい子は合わないかも知れないけど、先輩ならいいかも、って言ってたよ」
「……まあ、自分が今風じゃないのはよく知ってるよ」
「ちょっと垢抜けないけど、って言ってた」
「それもよーく知ってるよ」
「まあ、〜〜さんはおしゃれな人だし……どうしたの?」
「いや、『ちょっと』垢抜けない、っていうのは、本当に『ちょっと』なのか、それとも『すごく垢抜けない』んだけど、遠慮してそう言ってるのか、気になって」
「んー、あんまりそういう風な気遣いはしない人だと思うよ。 あたしも、『でも、あれで前よりは全然マシになったんですよー』って言った」
「……フォローありがとう」
 
まあ、現状で私のテキストになっているのは、「脱オタクファッションガイド」ですから。
これは、いかにおしゃれっぽい人になるかの本……ではなくて、いかにもオタク系で駄目駄目な人が人並みの水準まで這い上がるための本であって。
 
まあ、私はその内容についてとやかく言える人間ではありませんが、そうですね、ストーリー的にはやや陳腐なところもありますが、「萌え単」よりは実用的で、「萌えよ!戦車学校」よりもイラストが豊富でストーリーもしっかりしています。
購入を検討されている方はご参考に。
 
……なんだストーリーって。
 
えーとまあ、服の選び方のハウツー本を、英単語の本だの戦車知識の本だのと比較して購入を検討するような人のための本ですよ。ええ。
 
さて、それに先だって、彼女が私の実家にやって来ています。
 
「うー、こわいよこわいよー。きっと先輩のお母さんにいじめられるんだー」
「大丈夫だよ。うちの母さんはそんなことしないって」
「先輩はマザコンだ……」
「……」
「会ってなんの話すればいいの?」
「まあ、仕事の話とかすれば?」
「そんなに話すことないもん」
「一応、私が場をつなぐから……。 まあ、母さんもそれほど話し好きな方じゃないし、30分くらいいたら帰ろうか」
「うん……」
「……でも、途中でトイレ行ってもいい?」
「うわーん、やっぱり来るんじゃなかったー」
 
同時期、母も母で大変な緊張ぶり。
 
「ねえ、お菓子何を出したらいいと思う?」
「いや……何でも。 ケーキとか?」
「ケーキ……ケーキね。でもさ、ほら、ケーキって、端から食べていくと最後倒れちゃったりするじゃない。家族同士ならいいけど、緊張してる時は食べにくいかな、とか思って」
「……じゃあ、まんじゅうとか?」
「うん……やっぱり和菓子系かな。 でも、手づかみで食べるものってのもどうかと思って……」
「手づかみじゃない和菓子……ようかん?」
「ようかん。 ようかんか……。 やっぱり、ケーキは危険よね。ケーキの周りのセロハンについたクリームとか、父さんがなめちゃうかも知れないし」
「いや、さすがにそれはしないと思うけども」
「何の話すればいい?」
「いやまあ……仕事の話とか?」
「ほら、私も、『ご職業は? お父様のお仕事は? ご家族は?』とか、根掘り葉掘り聞くタイプじゃないからさあ……。 どれくらいいるの? 30分くらい? 話題に詰まったらあんたしゃべってよ?」
「……こっちは、母さんより場を盛り上げるのは苦手なのに……。 台本でも書く?」
 
なんて状況だったのです。
 
ところが、蓋を開けてみたらなんだかやたら楽しげに話が弾む彼女と母。
 
口を挟む隙がないので、談笑している二人の隣で黙々とお菓子を食べる父と私。
(ちなみにお菓子は、メインがカステラで、テーブル中央の菓子鉢にチョコレートが盛ってありました)
 
一時間半ほどずっと話し続けていて、放っておくと本気で夕食時になってしまいそうだったので、適当なところで「そろそろ帰ろうか?」と促したり。
話が逆。
 
「お母さん、いい人だったね」
「私、ずっとトイレ我慢してたんだけど」
「いなくても大丈夫だったね」
「……。 まあ、いじめられなくて何よりでしたよ」