ほんとは悪役がやりたかった。

学校教育相談基礎研修の話。http://d.hatena.ne.jp/filinion/20050807の続きになります。
 
ESP実習が終わった後、ロールプレイの実習(実際には、そこに至るまでに、「2人組で互いに2分間自己紹介をする」など、その基礎となる実習が延々続いたのですが)。
 
TRPG同好会に所属していて、「TRPGってなに?」と聞かれるたびに(主に面接で)、「心理療法や研修などに使われる、ロールプレイというものがありまして……」とかいう「嘘ではない」レベルの説明*1をしていた私ですが、実際にロールプレイをやるのは初めてでした。
 
「児童・生徒と教師」という役回りで、一方は何らかの問題を抱えた子ども。もう一方はそれに関連した教師として、子どもの話を聞くのが目的です。
 
4人グループで、例によって役柄を交代しながら実施します。
「子ども役の人は、時期、場所、状況、子どもの年齢、主訴、背景情報などを決めて下さい」とのこと。
「悩みのある子というのは、ちょっと聞かれただけでぺらぺら自分の悩みを話したりはしないんです。最初は当たり障りのない話題から入って、だんだん、『この人は大丈夫かな』と探りを入れながら本題に入っていくんです」
ということでしたので、それを踏まえて設定を決めました。
 
私が考えた役柄は、
 
時期:運動会二週間前
場所:教室
状況:放課後、担任と二人。最近落ち着かない様子なので担任から話を聞こうとしている。
年齢:小学5年生
主訴:特になし。(最初は、「悩みはない」と答える。すこしリラックスさせると、運動が苦手で、負けるとみんなに恨まれたり馬鹿にされたりするので運動会に参加したくない、と打ち明ける)
背景:本人が運動が苦手なのは事実。それに加え、実はこの児童の母親が「ものみの搭」の信者で、「運動会には参加するな」と子どもに要求している。
母親はそれに加えてあわよくば子どもを通じてその同級生に布教しようと画策しているが、信仰が原因で夫婦間には諍いが絶えず、子ども自身は両親の板挟みになって悩んでいる。
 
……いや、嘘ですが。*2
 
本当は、
 
時期:夏休み直前
場所:教室
状況:教育相談週間(子どもの悩みを担任が一対一で聞く行事)
年齢:小学5年生
主訴:特になし。(最初は、「悩みはない」と答える。すこしリラックスさせると、運動が苦手で、野球部の練習がきつくてつらい、と打ち明ける)
背景:本人が運動が苦手なのは事実。6年生が抜けて新チームになったものの、卒業までレギュラーになれる見込みがほとんどなく、下級生に追い抜かれたことがコンプレックスになっている。母親は、野球部をやめ、町のスイミングスクールなどに通うことを勧めているが、野球部の友人と離れるのも嫌で、悩んでいる)
 
という設定で。
わりと身近にいる子をモデルに。
 
やってみると、なんかしらんが強引に話を引っ張っていってしまう先生が多いことが判明。
「毎日走れば足は速くなるよ!」とか「野球、がんばってみようよ!」とか。
 
発破をかけて解決する悩みとそうじゃない悩みがあるわけで。
 
中には、部活の話はちょっと聞いただけで、「君はちょっと太りすぎだなあ。先生と一緒に量ってみよう!」なんてあさっての方向に話を持って行ってしまう人も。
私が、「やや肥満傾向の児童です」って事前に言ったのがミスリーディングになったらしく。
その一方で「野球部員」とは言わなかったので。
 
だってそれ言ったら簡単すぎるじゃん。(ゲームマスター的発想)
 
終わってから、記録者の先生が、
「……今の、部活のことで悩んでたんじゃないですか?」
「そうなの? なんでわかるの?」
「部活の話が出た時ちょっと表情が暗くなったんで……」
とかいう岡目八目っぷり。
 
ロジャースの非指示的カウンセリングって、大学時代に言葉だけは習いましたが。
だらだら続く愚痴につきあってやることも大事なんだな、と反省。
 
ただ、実際の所ここまで詳しく背景を考える必要があったのか(ひょっとしたらもっと詳しい方がいいのか)、よくわからないのが難点。
 
医者の卵も、医療面接実習というやっぱり似たようなものを受けるのだそうで。
そこで医者の相手をする「模擬患者」は、あらかじめ作成されたシナリオを元に演技するのだそうです。
(シナリオの一覧:http://www.gifu-u.ac.jp/~medc/sp/sinariowhat.htm
 
そういうシナリオ的なものが事前にあった方がやりやすいな、と感じました。
 
もっとも、他の先生が実際に体験した事例から演じる子ども役も興味深かったのですが。
 
子ども「先生……」
教師役「どうした?(ちなみに私は記録係)」
子ども「やっちゃいました」
教師役「なにを?」
子ども「切っちゃいました(手首を指でスッとなぞる)
 
 リストカットかよ!
 
教師役「そうか」
 
 反応薄いよ!
 
私自身はそこまで重い事例は経験したことがなかったので、いろいろ参考になりました。
 
やっぱり反応薄すぎだ、と、後の意見交換で言われてましたが、その先生。
 
興味深くはありましたが、ただ実習をやってやりっぱなしで、なにに気をつけたらいいか、など、講師から教わることがほとんどなかったので、ちょっともの足りませんでした。(「非指示的カウンセリング」の言葉すら出なかった)
あと、ロールプレイに入るまでの基礎的な実習が長すぎ。(だって、これが2日間の研修の最後の実習ですよ?)
 
授業する時、「これは何の勉強なのか」を、子ども自身がわかるようにしないと、子どもはわけがわからないまま終わってしまう、と言われるんですが、その通りだなあ、と思いました。
 
まあ、あと面白かったのは、3人組で5分間相手が自由に話し合って、終わってから「自分が」しゃべったことを残らず紙に書き出す実習でしょうか。
 
「それじゃあ、今書き出したのを見ながら、さっきの討議を同じ順番で再現してみて下さい」
 
と言われて再現してみると、他の二人はもちろん自分の発言さえ、よく覚えていないのがたくさん。
「ああー。そういえば確かにそんなことを言ったような気が」
 
ものの数分でこの有様。
いかに自分や他人が話したことを人間がすぐわすれてしまうか、というのをまざまざと見せつけられました。
 
決して、私の脳に穴が開いているとかいつも適当なことばかりしゃべってるからすぐ忘れるとかじゃないんですよ?
 
……再現した後、さっき一体自分が何を思い出したのか、数分後にはまた忘れてるんですが……。
 
しかしまあ、本当に「これは役に立った!」という研修は半分もないんだな、というのがよくわかりました。*3
今回の研修は役には立ったけど、期間は半分以下に縮められたと思います。

*1:ロールプレイというものが存在すること自体は嘘ではない。それとTRPGが関係しているかどうかは大いに嘘くさい。

*2: 「ものみの塔協会」の信者(「エホバの証人」と呼ばれる)が、子どもを使って同級生に布教している事実はありません。たぶん。
 伝道活動に子どもを連れて行く人は多いですし、彼らが運動会や柔道・剣道の授業に子どもを参加させることを拒否し、その問題について担任を論駁するための論理を子どもに対しても教え込んでいるのは事実ですが。

 また、母親が信者になり、子どもも信者にしようとするところから夫婦間に争いが起こり、家庭崩壊に至るケースが少なくないことなどから、彼らはフランスではカルトの指定を受けていますが、日本では合法的な宗教法人です。

 進化論を否定し、ノアの箱船などの聖書の記述を文字通り信じるなど、現代科学と相容れない面も多いばかりか、本部が輸血を拒否するよう信者に命じているため、少なからぬ信者とその子どもが命を落としていますし、人類の平等を説いているその本部は全員が白人男性だったりしますが、彼らは日本の公立学校を相手に起こした民事訴訟の多くで勝利しており、公立学校職員である私も彼らの教義に配慮しています。
 
 なお、本文中に登場する「ものみの搭」は架空の宗教であり、「ものみの塔」とは無関係です。

*3:それは無料の研修だからで、参加費を取って運営している研修はもっと中身が濃いんだ、とは「教育技術の法則化」の人たちの主張。あそこは有料だしな。