「天羅万象」シナリオ「生きるため、守るために」

 思うところあって、昔作った「天羅万象」のシナリオをまとめてみる。「零」がつかなかった時代に作ったものですが。
 
 先日、拾郎氏に言われまして。
「K村さん、こう、宗教万歳とか共産主義万歳とかを除くと、基本的に熱血系が好きだと思うんですが。 広井王子とか好きじゃないですか?」
 
 拾郎氏の他人を分析する目には、以前より一目も二目も置いております。
 ……宗教と共産主義は熱血系と両立しないと言うのか。
 
 しないけどな。
 
広井王子は好きじゃないけど。 特にあの人は小説がひどくて。 でも、確かに、結局は王道が好きかも知れない。 小説でもなんでも、最後ハッピーエンドじゃないと損をしたような気がして」

  ……ところが、そう言ったら拾郎氏は絶句してしまい。
 
「そ、そういう事言う人がああいうシナリオを作りますか」
 
 なにか、私が作るシナリオはダークだという評判らしく。
 ……そんなことないはずなんだけどな。
 
 いや、この日やったブルーローズでも、協力者のふりをして終盤で裏切る人がいるけど、それはまあ普通普通。
 
 昔から、「フランダースの犬」とか「人魚姫」とか(あと、「最終兵器彼女」とか)、私は納得がいかなくて。
 「さあ大変だぞ状況は絶望的だぞ、このまま行けば結末は悲劇しかないぞ」と盛り上げておいて、ほんとに悲劇になっちゃうのって、見ててがっかりするんですが。
 「この苦難をどう乗り切るんだろう」みたいなことを期待して見てるのに。
 損した気分ですよ?
 
 拾郎氏が言う「ああいうシナリオ」というのが、以下のシナリオです。
 たぶん、他人にやってもらうために作った最初のシナリオ。
 思い出しながら書いてるので、食い違うところもあると思いますが、本当に私のシナリオがダークかどうか、判断する材料にして頂きたいと思います。
 
天羅万象シナリオ「生きるため、守るために」
 
NPC
 勇吉(男・ 6歳):貧しい山村に生まれた少年。彼が生まれた時に母は死んでおり、母親代わりの姉を慕っている。
 お鶴(女・16歳):勇吉の姉。母親を失った後、暴力をふるう父に耐えながら弟を育ててきた。
 
推奨アーキタイプ
 適当に。
 「僕、金剛機〜」とか言い出す奴が居たら殴って良し。
 <法術>は取らせない方が、ルール的問題が起こらないかも知れない。
 それと、<陰陽術>も、「式で先行偵察」をやられるとシナリオが崩壊する可能性が。(いや、シナリオは崩壊はしないんだが、コンセプトが……)
 
起:焦土
 PCたちが旅の途中立ち寄った村は、すでに村ではなかった。
 家々は焼き払われ、田畑は荒らされている。
 聞けば、数日前に山賊の襲撃を受け、食料やめぼしい金品はすべて持ち去られたのだという。
 生き残った農民たちは、絶望とあきらめの表情を浮かながらも、瓦礫と死骸に囲まれた中で生き延びようとあがいている。
 
 そんな中、PCたちに声をかけてくる少年がいる。
 少年は勇吉と名乗り、PCたちに、山賊討伐を依頼する。
 山賊たちの襲撃の際、彼のたった一人の姉が連れ去られたのだという。
 母は彼を産んだ時に死に、父は山賊の襲撃で殺されており、今や、母代わりに彼を育ててくれた姉がただ一人の肉親である、ということを、子どもなりの口調で話す。
 GMは、絶望し、精神的にも死にかけた村でただ一人熱意に燃える勇吉の姿と、彼が美人で優しい「お鶴姉ちゃん」を深く慕っていることを印象づけること。
 
 義侠心に燃えたPCならこれだけで引き受けてくれるかも知れないが、「金にならないことはしない」などと言い出すPCがいた場合、勇吉は、山賊の根城には財宝が蓄えてあるに違いない、と言う。
(勇吉自身は心底それを信じているのだが、実際にはこれは誤りである。 山賊たちも、貧しいこの地域で食い詰めた連中の集まりに過ぎず、やはり生きていくだけで精一杯の状態だからである)
 
 勇吉は声を潜め、山賊の根城はわかっている、と言い、そこまでの案内を買って出る。
 危険を理由にPCがこれを断っても承服せず、「だって、奴らの根城の場所を知っているのはおいらだけだ」と主張する。
 どうしてもPCが受け入れない場合、あきらめたふりをして後から付いてくる(夜、「今から村に帰すのはかえって危険だ」というあたりで再登場する)。
 
 山奥に、近づいてはならない、と言い伝えられた洞窟があるのだが、勇吉は山菜などを採るためにこっそりその周辺に行くことが時たまあるのだという。
 そして、最近そこへ行った時に、刀を差した妙な連中がうろついていて、逃げてきたのだという。
 掟に触れたことを言い出すのが怖ろしく、誰にも言えなかったのだが……。
 
 他の村人に協力を求めても、当然ながら同行はしない(山賊の根城の場所を言っても言わなくても)。
 食料を提供することさえしない。
 どのみち、略奪し尽くされたこの村に再び山賊が襲来することは当面は考えられず、今は迫り来る次の冬を生き延びることが最優先だからである。
 それに、はっきりと口には出さないが、お鶴はもう死んでいるだろう、というのが村人の気持ちである。
 付け加えるなら、勇吉は働き手としては役に立たず、彼が山賊の根城に向かって死んでくれるなら、良心の痛まない口減らしになるのである。
 
 その他の情報

  • 山奥の洞窟には怖ろしい怪物が潜んでいる、というので、決して近づかない掟になっている。
  • お鶴と勇吉の父、勇吾郎は、かつては働き者だったが、妻を失って以来酒浸りになり、お鶴が母親代わりになって勇吉を育ててきた。
  • この村はもうどうにもならない。当面、山を越えた隣の村に行って助けを求めるしかないが、受け入れてくれるかどうかわはからない。

 
 聞かれない限り語ることはないが、勇吉自身は、酔って自分たち姉弟に暴力をふるうばかりの父を憎んでおり、その死についてはほとんどなんの感慨もない。母については記憶にないので全く思うところがない。
 
 洞窟に妖(あやかし)が住んでいる、という話は、そこに行ったことのある勇吉自身は信じていない。
 洞窟に何があった、と聞かれれば、洞窟の構造と共に、一番奥に小さな社があったことを教えてくれる。さすがにいじるのがおそろしくて近づかなかったが、丸い透き通った石のようなものが納められていた、という。
 
承:山道にて
 適当に。
 狼の襲撃とかを交えつつ、PC間会話・勇吉との会話で気合いを稼がせる。
 勇吉は、優しい姉の思い出について語る。
 そして、こうしている間にも姉がどうなっているか、と焦り、放っておくと夜を徹して洞窟に向かおうとする(勇吉の無謀さを強調すること)。
 
転:妖(あやかし)
 夜、見張りのPCたちが暇をもてあましている(たぶん会話で気合いを稼いでいる)ところに勇吉がごそごそと起きだし、会話に加わる。
 外の世界から来たPCに、あれこれ質問をして因縁を刺激しつつ、姉を思う気持ちをしばしばのぞかせる。
 
 適当なところで、適当な技能でチェック。成功すると、何者かの影がたき火の光の輪の外に立っていたのを見る。
 再度適当な判定に成功すれば、一瞬のことだが、左上半身に奇妙な形の甲冑をつけていたようだった(気づくことは容易)、女の姿のようだった(困難)、と感じる。
 影が立っていた場所には、木の櫛が落ちている。
 鶴と花が彫り込まれ、材質は粗末で技術的には稚拙ではあるが、時間を掛けて丁寧に作られたものであることがわかる。
 これを勇吉に見せれば、それが自分で作って姉に贈ったものであることに気づき、動揺する。そして、また、一刻も早く姉の元へ向かおうと主張する。(狼の襲撃などを通して、夜間の子どもの一人歩きが自殺行為であることを暗示すること)
 
 ここで山賊の根城に向かうにせよ、夜が明けてからにするにせよ、山賊の根城に近づいたところで、山賊らしき男たちの死体を二つ目にすることになる。
 
 最初に発見する死体は、胴を両断されている。よく調べれば、傷は胴の両側から力でねじ切るように切られており、普通の刀傷とは異なるとわかる。(もっとも、天羅世界は、ヨロイやサムライなど、尋常ではない傷をつけるものには事欠かないが)
 二つめの死体は、ミイラのような姿で倒れている。調べれば、全身の血を抜き取られていることがわかる。
 二人とも、足跡を調べれば、この先の根城(洞窟)から逃げ出してきたらしいとわかる。
 
 いずれにせよ、勇吉はパニックに陥り(洞窟の妖の言い伝えは本当だったのかもしれない!)、PCが死体や足跡を調べてもたもたしていると、自分だけ先に行こうとする。
 
結:再会
 山賊の根城であったとおぼしき洞窟は、血にまみれている。
 そこここに、手足をねじ切られ、あるいは血を吸い尽くされた死体が転がっている。
 
 勇吉は、「姉ちゃん!」と叫び、駆けだそうとする。
 
 洞窟の中も惨憺たる有様で、金目のものどころか食料もろくになく、どれも血に染まっている。
 奥の部屋(大きめの空洞)に、小さな白木の社がある。
 
 そこに落ちている、血の付いた布の切れ端は、お鶴が着ていた服の一部であり、それに気づいた勇吉は必死で姉の名を呼びながら他の部屋へと向かおうとする。
 
 社の近くの床を調べると、透明な何かのかけらが落ちているのに気づく。びいどろ(ガラス)のようでもあるが、かすかに弾力がある。元は中空の球形の物体であったろう事が想像できる。
 社の中には、厚めの古文書(読んで概要を把握するには数時間かかる)と、血液らしき茶褐色の文字で経文が記された木の板が納められている。
 
 古文書を読めば、この社が、「血啜虫(けっそうちゅう)」という妖を封じたものであることがわかる。
 
 血啜虫は、人間の腕に寄生し、宿主の意志に従って大きな戦闘力を発揮するが、人間の生き血を吸わねば生きてゆけず、宿主は定期的に人間を殺して血を奪わねばならない。さもなくば自分が血を吸われて死んでしまう。
 これを封じるためには、「山界経(さんがいきょう)」という経文を、宿主本人、または宿主と血のつながった人間の血によって記し、それを血啜虫につきつける必要がある。
 この社には、血啜虫を封じ、卵の姿にしたものと、封じる時に使った経文を納めておくので、誰もその封印を解いてはならない……といったことが、古文書には記されている。
 
 ここまでで、途中で時間をつぶさず、速やかにやって来ていたなら、時間はある。
 真相を把握した時点で、勇吉に事情を話し、その血で経文を書けばよい。(数十分かかる)
 すでにあるものを書き写すだけなので、<法術>技能等は不要である。
 血啜虫とは、山を下りる途中の帰り道で、逃げ出した山賊をその力で掃討(殺戮)をしているところに遭遇する。
 
 しかし、途中で時間のロスがあった場合(つまり、先を急ぐ勇吉を押しとどめていた場合。夜は除く)、時間的な猶予はない。
 
 部屋の入り口から、「勇吉?」と、やさしい若い女の声がする。
 聞いた勇吉は、「姉ちゃん!?」と叫び、そちらを振り向く。
 
 そこに立っているのは、若い娘である。髪は乱れ、着物も泥にまみれているが、美しい娘であることは見て取れる。
 だが、その左肩から先は、キチキチと音を立てて蠢く奇怪な甲冑のようなものに覆われている。
 それは巨大な蟹のはさみのようでもあり、無数の鋭い脚が生えた海老のようでもある。
 
「勇吉……探したよ? こっちへおいで?」
 声を掛けられた勇吉は、ふらふらと姉のもとへと歩いていってしまう。
 
 勇吉を手に入れたお鶴は、そのまま勇吉を(右腕で)抱いて、歩み去ろうとする。
 PCたちが邪魔をするなら、(少なくとも最初は)話し合いで解決しようとする。
 
「その子を渡して下さい。私の、たった一人の家族なんです」
「私、とうとう、この子を守って生きていく力を身につけたんです。二人だけで」
「昔から、わかっていたんです。人間は、誰かを傷つけ……血を啜ることでしか、生きてはいけないんです。あなたたちも、刀を下げているでしょう? 自分が生きるため、人を殺めたことはないのですか? 誰もがやっていることを、私たちはしてはいけないのですか? 百姓だから? 女だから?」
 
 彼女は、必要以上に人を殺したりはしないことは当然のこととして約束するが、妖を封印することは決して受け入れない。
 父の暴虐に耐え、山賊の暴力を目の当たりにした彼女にとって、自分と、心の支えである弟を守るための力は絶対に手放せないからである。
 
 彼女は妖に操られたりしているわけではなく、正気である(……かどうかは怪しいが、すくなくとも知性は保っている)ことに注意すること。
 
 勇吉の血で書いた経文があるなら、それを突きつければ、血啜虫はもがき苦しみながらお鶴から離れ、みるみるうちに縮んで、透明な卵のような姿になってしまう。
 なお、社に納められていた、前回使われた経文は無効である(経文の血の主とお鶴は血がつながっていないから)。
 
 もし、二人が去ることを認めるなら、シナリオはここで終わる。
 旅人が行方知れずになることなど珍しくもない天羅世界である。二人のことが大きな事件になることはない。
 ただ、噂に耳を澄ませていれば、奇怪な甲冑をつけた女の妖や、血を吸われて死んでいた行き倒れの話を聞くこともあるだろう。
 
 もし、二人が去ることを認めず、経文もない場合、戦闘になる。
 血啜虫は、「強いが倒せないことはない」くらいの強さ。はさみで相手を捕らえ、そのまま体を切断したり、鋭い脚(のようなもの)を突き刺して血を吸ったりする。
 なお、「血啜虫だけを殺す」ことはできない。ダメージを受ければ、血啜虫は相手の、それが不可能ならお鶴の血を吸って再生しようとするからである。
 <法術>使いが、これを成仏させようとした場合、「とても強いので無理」という扱いにする。かつての高僧がどうにか封印したに過ぎないものを、成仏させることは難しい。(納得してもらえないと困るので、<法術>使いはいないほうが望ましい)
 
 戦闘になった場合、勇吉はお鶴をかばおうとする。(お鶴は勇吉をかばおうとする)
 お鶴が死んだ場合、お鶴は勇吉の名をつぶやいてこときれる。
 勇吉は絶叫し、懐の小刀(櫛を彫るのにも使ったもの)を抜いてPCに斬りかかる。
 彼をどうするかはPCに任されるが、武器を奪うなどしてあとは放っておくなら、PCに復讐を誓い、そのまま泣きながら山の中へ駆け込み、姿を消す。
 
 そしてシナリオは終わる。