昔々、私が小学生だった頃、学芸会で「ほんとうのたからものは」という劇をやりました。
調べてみると、どうも市販の学校劇の脚本集に載っていたお話のようで、ご存じの方もいるかも知れません。
(「法則化(今のTOSS)」の向山氏の本に出てきたこともあるので、そっちともつながりがあるのかも……)
- 作者: 斎田喬
- 出版社/メーカー: あすなろ書房
- 発売日: 1972/02
- メディア: 単行本
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定価3000円(+税)であるところ、Amazonでは5万円を超える値がついています。
(……でも、定価で買える通販サイトも……)
「世界宝物コンク−ル」なるものの途中からの中継(?)という体で始まる劇で。
世界の様々な国(登場するのはいずれも架空国家ですが)が、自分の国の「宝物」を持ち寄り、それが「本当の宝物」かどうかを審査員が判定する、という話。
……それを今になってブログに書こうと思ったのは、なんかググったら、それを今年度の学芸会で上演してる学校もわりとあるようで驚いたからです。
なぜ驚きかというと(単に「物持ちがいいな!」ということもありますが)本作って、今にして思うと、わりと70年代当時の世相を反映した内容なので……。
以下、私の偏った視点からの解説なのですが、気になる方はYouTubeから映像も見られますし(30分前後)、あらすじを書いてるサイトもあります(http://www.h3.dion.ne.jp/~j-home/songs37_hontou.htm)。
まず、本当の宝物「でない」と見なされる国々について。
「ちきゅうはかいばくだん」(「新型原子爆弾」という表現だったはず)を持ち込んでくる国は……まあ、明らかに、当時、東西冷戦下の核大国を指しているのでしょう。
「イクサマニア“連邦”」って国名からして、特にソビエト連邦を指しているのかも知れません。
そして、「月の水」を持ち込んでくる「アポロン連邦」は(やっぱり「連邦」ですけど)、アメリカ合衆国と、そのアポロ計画を指しているのでしょう。
しかし、本書が出版された1972年といえば、'70大阪万博の直後です。
アメリカが持ち帰った「月の石」を見るために、何万人もが行列を……いや、Wikipediaによれば、アメリカ館の入場者は実に1650万人にも達するとのこと。
しかし作者は、その熱狂と、宇宙開発競争そのものを揶揄しているわけです。
まあ、劇中、「月の水」は偽物なんじゃないか、という話になるわけですが。
しかし、審査員が「月に水はないんじゃないですか?」と疑問を抱くのはともかく、「本物の月の水かどうか」を観客に聞いて、「拍手多数のため失格」にするのって、どうなのかなあ……。
まさか作者が「月の石」も捏造だと思ってる……ってことはないでしょうけど、科学的事実の真偽を多数決に付すのは、ちょっと多数決の濫用のような気がします。
(子どもの頃は、観客を劇に巻き込むのは面白い演出だなあ、と思っていましたし、それは今もそう思うのですけど)
現代科学の視点からすると、月に水、ないわけじゃないですからね……。液体の形ではないにしても。
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%88%E3%81%AE%E6%B0%B4)
そして、「本当の宝物」は何か、というと、お年寄りであり、子どもたちであり、額に汗して働く労働者人民なのである、という……共産圏か!
……あー、いや、学校教育的にはたぶん素晴らしい結論だとは思うのですけど。
宝石(経済的な富)が「本当の宝物」でない、というのも……高度経済成長に浮かれる一方、公害問題への対応が課題となった70年代ならでは、とも言えるでしょうし。
あるいは、その「宝石」が実は盗品である、というのは、資本家による収奪を暗示している……というのはまあさすがに考えすぎでしょうか。
ともあれ、反米・反ソ・反核・反資本主義といった要素をどこまで見出すかはさておき。
本作はあくまでも東西冷戦下で世相への風刺を含んで作られた劇であって。
21世紀の子どもたちに上演させるのは、ちょっと古くさいんじゃないかなあ……などと思うことでした。
ただ、検索していて発見したのですが、基本的な筋立ては同じでも、細かいところを改変して上演している学校もあるようです。
http://www.tym.ed.jp/sc144/old_hp/dai/gyouji/gakushu%20hapyoukai/6nen%20stage.htm
リンク先の記事に載っている小学生たちの感想には、「ネイチャーランド」「ハイテク共和国」といった、原作にはなかったはずの(そしてどうやら現代の世相を反映しているっぽい)国名が登場しています。
そのようにして現代化しながら上演されていくのが、あるいは望ましい……のかも知れません。
……大人の世相批判に子どもを動員すること自体、そもそもどうなんだろう、という思いも、ちょっとあるのですが。
余談。
私が小学生だった当時、指導していた先生が、
「それぞれの国が入場する時、テーマ曲を流すから。適当な曲を先生が探してくる」
と言って、各国にふさわしい曲を流してました。
今にして思えば、カセットテープの時代、ネットから適当な曲を検索&ダウンロードする……とかできない時代、すごい労力ですよねえ……。
どんな曲だったのかほとんど忘れましたが、「アラマア共和国」(空飛ぶ絨毯を持ってくる国)が、「ジェッディン・デデン」だったのは今でも覚えてます。*1
当時、聞いた級友たちは(お客さんも)大爆笑してたけど……。
しかしこれって、トルコの「祖父も父も」という、いたく愛国的な行進曲なのですよね。
お客さんにトルコ系の人がいたら……(いなかった、と思うけど)、怒ってたかも知れんなあ。