子どもの前で喧嘩するな、と言いたい。

 またしてもネット上でよくわからん論争にうっかり首をつっこみますこんにちは。
 
在日特権を許さない市民の会」(以下“在特会”)の方々が、またなんかやらかしたようです。
 
 私の在特会に対する理解は、彼らは「在日朝鮮韓国人は不当な特権を享受している」という前提に立っており、愛国心を錦の御旗にして活動している……いわばどこの国にもよくある排外主義者の団体、といったところです。
 
今月4日、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の旗を持った男性約10人が抗議行動と称して校門に押しかけ、拡声器を使って「スパイの子ども」などと騒いでいた
(朝鮮学校で「スパイの子」 “抗議行動”を告訴へ)47NEWS
 のだそうです。
 
 同校に子どもを通わせている保護者のメールによれば、
自由使用の公園なのにも関わらず“不法占拠”とののしり、地域の方々も使っているゴールポストを動かしたり、利用する子どもの安全のために設置されたスピーカーの線を切り、朝礼台と一緒に校門前に投げつける暴挙。
(小学校襲撃事件について)猿虎日記
 
 このスピーカーとか朝礼台が争点のようです。
 つまり、問題の朝鮮学校には校庭がないため、近隣の公園を校庭代わりに利用し、朝礼台やスピーカーを設置していたのだそうです。
 
 在特会側は、

現場で聞き込み調査を行うと「児童公園を朝鮮学校が自分たち専用の運動場のようにして使用している」「公園内ではボール遊びが禁止されているはずなのに、朝鮮学校の子供がサッカーを行ってボールがあちこちに飛んで危険だ」などの証言が得られました。また電気工事の専門家の話では「配線がめちゃくちゃで素人仕事。いつ漏電が起きてもおかしくない。」という危険な状況であったことが確認されたのです。関西支部では改めて京都市役所に、児童公園内の設置物が京都市役所が許可したものではなく「危険」と判断されることの確認を取り、児童公園内の不法占拠物(または不法投棄されたゴミ)の撤去を行うことを決定しました。

http://www.zaitokukai.com/modules/wordpress/index.php?p=127

 ……と説明しています。
 
 公共の公園に無許可で設置された設備であり、不法占拠にあたる、という論理ですね。
(スピーカーだの朝礼台だのを「不法投棄されたゴミ」と表現するのが、在特会のスタンスを端的に表していると思います)
 
 さて。
 
 この状況に関して、前述の猿虎日記(さるとらにっき)さんでは、別なブログの
京都朝鮮第一初級学校を、グラウンドがない現況に追い込んできたのは、在特会ではありません。自分たちはグラウンドがあることを、当たり前に享受してきた「日本人」です。
 ……という文章を引用した上で、

 つまりここには二重の暴力があるわけです。地面に小さな丸を勝手に描いて「ここから出るな」と言う。まずこれ自体が暴力です。ところが、その丸から出ると「丸から出たな」といって殴る。これが第二の暴力です。したがって、「在特会」の「暴力」だけが問題なのではなく、日本社会がこれまでずっと在日朝鮮人・韓国人に行使してきた「暴力」も問題にしなければならないわけです。しかし、とくに後者の「暴力」に対しては日本社会はまったく無関心です。

 ……とします。
 
 さて、ここで私がうっかり口を挟みました。
 ブックマークしただけなんですけど。
http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/sarutora/20091218/p1
 
 ブックマークコメントに、
 
…一般の学校は、校庭を含む設備、人員、教育内容等に厳しい規定があり、それを満たさないと学校として認められない。基準を満たしてない朝鮮学校が「学校」扱いされてるのはむしろ優遇措置だと思うんだけど…。
 
 するとその後にCarnot1824氏が
 
↓filinions氏にどれだけスターが付くか注目。
 
 なんか注目されてるよ!
 それも嫌な意味で!
 
 いや、別に私は、在特会に同情的ではないんです。全然。
 
 ちなみに私、さっきの47ニュースの方には、
 
 がんばれ。これで在特会が大人しくなるとは全然思わないけど、彼らの愚行を繰り返し批判することで、自分たちが「日本人の代表」じゃなくてただの鼻つまみ者だってことをなんとか認識させてやるしかない。
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.47news.jp/CN/200912/CN2009121801001139.html
 
 というコメントを書きましたので、スターの数を比べてみましょう。
 この記事を書いている現在、
 
朝鮮学校は優遇されている→16個
在特会は鼻つまみ者→9個

 
 という状況です。
 ただ、そもそも前者の記事はブックマーク数227人、後者は52人と、記事そのものの注目度が4倍以上違うようなので、単純に数だけ比較はできません。
 その上、前者の「16個」の中には、一人で7個もスターつけてくれた人がいますしね!
 
 ……うかつに関わらず、見て見ぬ振りをして通り過ぎるべき問題だったことをひしひしと感じますね。
(日本人的態度)
 
 ともあれ、はてな世論的には後者のコメントの方が賛同を得ているように思いますし、私も在特会を擁護する気は毛頭ありません。
 
 たとえ朝鮮学校が公園に朝礼台等を設置したのが不法だとしても、それを独断で撤去してよい、という話にはなりません。
 
 例えば、自分の家の庭に無断で自転車を停める人がいたら困りますよね。
 しかし、だからと言ってその自転車をバラバラに破壊して相手の家の庭に投げ込んだら、かなりイタい人と見なされるのは明白です。
 
 まして、問題の公園は在特会の私有地ではなく、公共の場所です。
 いわば、公道の放置自転車が邪魔だからバラバラにしました、というレベル。
 ちょっと危ない人みたいだから近づかない方がいいよ。(日本人的態度)
 
 公園の状態に問題がある、ということであれば、まず朝鮮学校側に撤去を申し入れ、それが受け入れられなければ地元の役所に対応を要請し、さらに地元民として裁判所に訴え……というのが、当然あるべき手順でしょう。
 在特会の行動は常軌を逸したものです。
 
 あるいは本人達は「公園のゴミ掃除をしただけだ」とか言いたいのかも知れませんが、件の設備類を「ゴミ」扱いするなら、そのまま捨てればよいわけで(良くないけど)、わざわざ朝鮮学校に投げ込むのは筋が通りません。
 
 ちなみに、「警察は何をやってるんだ」的コメントも散見されますが、猿虎日記さんの記事には、
警察の人は在日特会の人に止めるよう説得してましたよ。
在日特会の人は公園での集会の許可を得ているといっていましたが、警察の人は「こんないやがらせみたいなことやったらあかん」などと諭していました。

 というコメントがついています。
 
 在特会側が警察の制止を無視した、ということのようですね。
 もちろん、そこで公務執行妨害とか軽犯罪法違反とか適当な理由を付けて、彼らを「合法的に」逮捕することも可能だったでしょうが、私としては警察はその分を守ったと思います。
 警察があまりアグレッシブに人を逮捕するのは、好ましいことだとは思わないので。
 ……被害にあった子どもたちにとっては残念なことですが。
 
 そう考えると、在特会を告訴することにした朝鮮学校側の対応は理にかなっています。
 
 ……というわけで、とにかく在特会が悪いのは自明なのですが、そこへ日本社会全体の「暴力」の話を持ち込んでくる論者にはちょっと疑念もあったわけです。
 
 ブックマークコメントにも書いたとおり、学校の設置には設備や人員に厳格な基準があります。
 国公立学校では、国や地方公共団体がその基準を満たすように学校を作ります。
 たとえ私立学校であっても、この基準を満たすことが要求されます。
 
 仮にどこかの企業とかが
「ウチでも小学校を作りたいんだけど。
 すぐそばに系列の病院があるから保健室は作りません。
 教師は教員免許は持ってないけど、社内の博士号持ちにやらせるから、そこらの教員よりずっと専門知識が豊富だよ!」
 とか言っても、文科省に門前払いを食わされます。
 
 しかし、もしもその企業に超人的なタフ・ネゴシエーターがいて、設置基準を満たしていないにもかかわらず「学校」としての認可を取り付けたとしたら?
 私たちはそれをどう受け止めるべきでしょうか。
 
 そして、子どもたちや保護者から
「この学校には保健室がない。“すぐそばの系列病院”はいつも混雑していて、ちょっとした怪我や体調不良には対応してくれない」
 といった苦情が出始めたら、その責任は誰が負うべきでしょうか。
 子どもたちを「保健室がない」状況に追い込んだのは誰なのでしょうか?
 
 この学校の支持者が、
「この学校に保健室がないのは差別だ」
「それを許している日本社会に問題がある」
 といったことを主張し始めたら、私たちはどうすべきでしょうか。
 
 ……ところで、「京都朝鮮第一初級学校」には校庭がないそうです。
 誤解を招かないように言っておくと、朝鮮学校は法的には「各種学校」であって、一般の国公私立小学校とは位置づけが違います。
 
 これら朝鮮学校は、
「民族教育のために在日一世が血のにじむ思いで奔走して確立」
 したもので、設置基準は……謎です。
 
 教員は「朝鮮大学校」の卒業者に限られ、一般の教員免許状は有していません。
 その教育内容の質は一般の小学校と比べて遜色がない……と主張されていますが、文科省の定める基準を満たしてはいない模様です。
 
 在特会
「こんなものは学校ではない」
 と叫ぶのはそのあたりに理由があるのでしょう。
 
 もちろん、朝鮮学校は「各種学校」という、法的根拠のあるれっきとした「学校」ですから、「学校ではない」という在特会の表現は明らかに誤りです。
 
 ただ、猿虎日記さんが
「12月4日、京都のある小学校の校門の前に大勢の男たちがおしかけ」
 と書いたのも、微妙に誤読を誘う表現ではあります。
「朝鮮初級学校」はあくまで「各種学校」であり、学校教育法に定める「小学校」ではないからです。
 防衛大学校を「ある大学」と表現するのとほぼ同じですね。*1
 
 さて、日本国憲法は、
「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」(第89条)
 としています。
 
 私立学校は、文科省の定める基準に従うことによって、間接的に「公の支配」に属している、と見なされるわけです。*2
 
 一方、朝鮮学校が公の支配に属していないことは明らかであり、にもかかわらず「学校」として処遇され、一部では大学受験資格も認められている、というのは、私としては「優遇措置」であるように思います。
 
 繰り返しになりますが、本件における最大の加害者は在特会であり、被害者は子どもたちだと思います。
 
 しかし、教育を受けるのは子どもの権利である、という前提に立つならば、校庭もなければ教育内容も不確かな「学校」が存在していること自体が、子どもの権利の侵害であるとも言えます。
 
 朝鮮学校をつぶせ、と言いたいわけではありません。
 しかし、朝鮮学校に校庭がないのは日本社会の暴力だ、という意見にも賛同できません。
 
 韓国系の民族学校の中には、文科省の基準を満たし、「小学校」としての認可を得た学校もあります。
 朝鮮学校もそうすれば、政府の助成金の対象になるわけで、子どもたちの教育の質も保障されるでしょう。
 
 あるいは、政府が「民族学校」の設置基準を新設し、それを満たす学校を支援するのでも良いとは思います。
 
 いずれにせよ、教育内容や設備、教員等について、政府の指導に従うべきだと思うのです。
 
 なんというか……今回の事件は、非常にいろんなレベルの政治的問題が絡んでいるわけですが。
 
 大人が政治闘争をするのは勝手だけど、どのレベルであれそれに子どもを巻き込むと子どもが迷惑するのでやめろバカども、というのが正直な感想です。
 

余談

 
「朝鮮に帰れ」とか「帰化しろ」とかいう人もいるわけですが。
 在日朝鮮人の「祖国」は韓国でも北朝鮮でもなく、チェコスロバキア大コロンビア同様、もはや歴史の向こうにしか存在しない国である、と私は理解しているんですが違うんでしょうか?
 
 そういう意味では、彼らは「亡国の民」であり、(かつての)ユダヤ人と同様なのではないかな、と思います。
 
 在特会やその支持者の言動って、ユダヤ人に対して
「我が国から出て行け」
キリスト教に改宗すればいい」
 とか言ってた反ユダヤ主義者と重なるように思うのですがどうでしょう?
 
 日本政府は、かつて在日朝鮮人に対して、「帰国事業」を行いました。
 これは、「地上の楽園」である北朝鮮への帰国を支援する、という「人道的」なものでした。
 マスコミの好意的な論調も手伝って、日本人家族を含む9万人以上が北朝鮮に送り出されたわけです。
 
 韓国はこの「北送事業」を、
「日本政府の朝鮮人追放政策に北朝鮮が便乗したもの」
 と非難しましたが、軍事政権の話に耳を傾ける日本人なんかいなかったわけです。
 
 ……そして、北朝鮮で「動揺階層」扱いされた彼らのその後の悲惨な運命は、今ではよく知られています。
 今も韓国では、「帰国事業」は日本の差別性を表すものと見なされているようです。
 
 そして今、まさに「朝鮮人を追放したい」という意図をもって(「人道」の仮面すらかぶらずに!)、「日本から出て行け」と主張する人々がいる、というのは、なんとも興味深いことではあります。
 

余談2

 
 さっきの在特会のブログ記事によると、
在特会の調査では、12月8日に朝鮮総連京都国際部が支配下朝鮮人や支援者である反日犯罪極左などにメールで今回の件を報告し、救援を求めたとのことです。それを受ける形で昨日より、いっせいにネット上で在特会非難キャンペーンが巻き起こっているようです。
 だそうで、どうやらついに
「我々を非難するのは朝鮮総連の手先である」
 という陰謀論の世界に陥ったようです。
 
 すると私も、「反日犯罪極左」に分類されるんでしょうか。
 ……さりとて、朝鮮総連朝鮮学校側がこの記事を支持するとも思えないわけで、黙って傍観者を決め込んでいるのが一番「賢明」だったなあ、と思うことしきりです。
 
 ……「日本人的態度」をとってない、という意味では、私は非国民なのかしら。
 

*1:……もっとも、世間では「アメリカの小学校」といった表現もごく一般的になされるわけで、猿虎日記さんの表現は批判するには及ばないとは思いますが。
 件の記事を最後まで読めば、一般の小学校ではなく朝鮮学校の話だと誰でもわかるでしょうし。

*2:これには異論もあり、私学助成金そのものが違憲だ、という主張もあります。