昨日の記事の補足とか。

 前回の記事、多数のご批判を受けてしまいました。
 確かに自分の考えが浅はかだったな、と思う内容もあれば、ちゃんと記事読んでよ、と思ったものもあるのですが、自分も「読まずに批判」のクチなので、そのあたりは全然文句言えた立場ではないですね。
 
 一番言いたいことが通じてなかった点。
 
 「滅ぼすべき」とかいうタイトルをつけましたが、「日本語が滅びるのは不可避だよ」というのが記事の前提でした。*1
 
 万能翻訳機ができてどの言語も滅びなかったり、ブレイン・マシン・インターフェースができて全部の言語が滅びたりする可能性もありますが、記事中では考慮していません。
 
 人類の歴史の中では、すでに多数の言語が失われています。その過程は現在も進行中です。
 
 「日本国内でさえ方言があるのだから、世界統一言語なんて不可能」というご意見もありましたが、日本各地の方言が続々と失われているのが現実です。
 
 情報通信技術が発達して世界を結べば、これまでにも増して言語が失われるのは速くなるでしょう。
 
 一方、軍事的・経済的な侵略が影響して失われた言語も多く、言語が失われていく事への悲しみ、憤りは、当然のものだと思います。
 
 私も、南太平洋諸国で英語が話されていたり、北アメリカで英語が話されていたり、南アメリカスペイン語およびポルトガル語が話されていたり、北海道で日本語が話されていたりするのに悲しみは覚えます。
 
 そういう感情のもと、伝統的な言語・方言を保存しよう、とする人はネイティブの中にも非ネイティブの中にもいますし、それはそれで素晴らしいことだと思います。
 日本語も、いつかそうして「保護」される対象になるでしょうし、そういう形で何百年も生き延びさえするかも知れません。
 
 でも、保護対象になった言語が日常語として復権するのはほとんどない(ヘブライ語が例外なんですかね)ことだし、これからもそうでしょう。
 好むと好まざるとに関わらず、言語が使い手の便利な方に変化するのは避けられないからです。
 
 だとすればどうすれば良いのか。
 
 「滅びる」とは言っても、英語の中にもすでに他の言語由来の単語・概念がたくさん取り込まれています。
 
 同様に、「日本人が数千年かけて作り上げてきた」「日本語にしかできない表現」を、可能な限り英語にねじ込んでおくべきだ、そのために我々が英語を話せるようになるべきだ……というのが趣旨だったのですが、どうも
 
「日本語は放っておいても永久に存続するけど早く滅ぼすべき」
 
 という趣旨に理解して憤っている方もいるようで残念です。*2
 
 そんな趣旨なら私だって反対しますがな……。
 
 まあタイトルが悪いんですが。
 滅びるのが避けられないなら計画的にその時を迎えるべき、という話です。
 
(以下、コメント欄とブックマークコメントに一緒に返信しますがご理解ください。また、上記の文章ですでに答えたつもりの方などに対しては触れていません)
 
id:Mukkeさん
>むしろそこで「日本語を世界共通語に!」ぐらいの気概が欲しい。

 
 私も、英語が共通語になるのと日本語がなるのとどっちがうれしいか、と言われればもちろん日本語です。
 また、世界各地の言語がその土地の第一言語として残って、誰もが第二言語としての英語を理解できるようになるなら、それが最高だとも思います。
 
 でもたぶんそんなの無理だろうとも思うので……。
 
 バブル期ならそれも多少現実味のある展望だったかも知れませんが、世界で英語人口が増え続け、日本語はそれほど、という現状では、その機会はもはや失われたのでは、と思います。
 
>フランス人でさえキャラクターに愛を囁く時は「moe」と言わねばならない。
 
 それがたぶん、英語の中に日本の文化が持ち込まれた最近の例だと思います。
 
 でも、“萌え”がいつまでも日本語圏の専売特許だとは言えません。
 アニメーションがディズニーの専売特許でなかったように、もっと質が高く、最初から英語で作られた萌え作品が英語圏で量産される日が来るかも知れません。
 
id:y_arimさん
>現状認識を現状追認に摩り替える言説はいい加減にしてほしいよね!
 
 おそれいります。
 
 そういう意味では、私は敗北主義者です。
 
 ただ、「最近の日本語は乱れている!」と主張する勢力が常に(知る限りでは平安時代ぐらいから)破れ続けてきたのが日本語の歴史なんじゃないでしょうか。
 たぶんそれは日本語に限らないのでしょうが。
 
 言語の変化というのはいわば自然現象のようなもので、どんなにがんばっても唇音が退化するのは逆行させられないし、絶滅しようとする言語が絶滅するのも避けられないと思っています。残念ながら(特に後者は)。
 
 もちろん、失われそうな言語を一種の文化財として保護する、ということは必要なことでしょうが、それが日常語として存続できるかどうかは変えられないと思います。
 
>「日本」の話と「日本語」の話無自覚に結びつけてるだろ?アイヌ語の立場はどこに?
 
 アイヌと和人の歴史についてはかじったことがありますし、日本語を「国語」と称することにも疑問を覚えます。(教科名は「日本語」であるべきだよな、と思います。「“日本”語」という名称もどうかと思うんですが)
 
 ……でも、なんというか、ここでアイヌ語を持ち出すのは
「どうすれば夕張市財政再建できるか」
 って議論してるところで
「全部の土地をアイヌに返還すべき」
 と主張する以上の場違い感を感じます。
 
 言語の変化は議論で決まるものですらないですから。
 なるほどまったく「いい面の皮」ですが。
 
 敗北主義です。
 
 もちろん、さっき書いた、
「全部の言語が日常語として使われ続ける(しかも第二言語として共通語がある)」
 という理想の未来につながる道があるのでしたら、喜んでそちらを選びたいと思っていますが。
 
 何か良い方策があればご教示ください。
 
>敢えて問う。我々が知的エリートだとして、なんで「まともに日本語が使えない」(=過去の日本文化を理解する必要に迫られない)ような愚民ども(そうでなければ何だと言いたいのか、この文脈で?)の都合にわざわざ合わせてやらなければならないというのか。
 
 別に合わせなくてもいいと思います。
 
 それが可能な方は、2カ国語でも3カ国語でも学ばれれば良いわけで。
 
 ……ただ、私も、つい無意識に、初等教育での言語教育をどうするか、という前提で書いていた面はあったかも知れません。
(「日本語を計画的に滅ぼす=義務教育での日本語の時間を計画的に減らす」みたいな認識が)
 
 「まともな日本語が使えない奴は愚民」というより、これだけ莫大な時間を国語教育に投じ、しかも日常語が日本語であるにもかかわらず、その日本語すらおぼつかない人がいるのが実状、ということです。
 そこへバイリンガル養成とか言い出したら、言語教育だけにどれだけ時間をつっこむ気なんだ、という。
 
id:mobanamaさん
>本筋はどうでもいい。

 
 狙い通り。
 でも日本語が使われなくなったら、こういうトリビアはほとんど価値がなくなるので、私としては残念です。
 
id:A-xtuさん
>何いちびったこと言うてんねん。←この関西弁を標準語に直せるならきいてやる
 
 
 私は関西弁を解しませんので無理です。
 関西の方がそのニュアンス(どんなものだか存じませんが)を共通語に持ち込めるよう努力すべきなのであって。
 でなければ、「いちびったこと」が表していたニュアンスは関西弁と運命を共にします。
 関西弁の運命がどんなものかについては推測を控えますが。
 
id:asonasさん
>日本語の影響を残さないままに英語が公用語になったら、エロゲ声優が英語発音で「RAMEEEEEEEEEE」とかいうのかな。うわぁ。

 
 えーと、それは楽観的すぎると思います。
 
・日本文化の影響が残らない場合
 →児童ポルノを連想させる表現は許されない(またはエロゲ全般が規制の対象)。
・日本文化の影響が残る場合
 →“The people who appear in this work are all 18 years old or more. ”(エキサイト翻訳)
 
・日本語の影響が残らない場合
 →「com'on... oh, yeah....ah...ah.ARGH!!..HAA OH...yeah...YES!!...Huuu...」(顔は日本のアニメ風のキャラでもこんな感じ)
・日本語の影響が残る場合
 →「RAMEEEEEEEEEE」(ほぼ英語発音)
 
 ……で、
「あの“RAMEE”ってどういう意味なんだぜ?」
「語源は日本語。元々エロゲを発明したのは日本人で……」
 とかいう蘊蓄垂れが現れる。
 
*参考資料→http://suiseisekisuisui.blog107.fc2.com/blog-entry-767.html
 
id:ruiccさん
> 「(もちろん近い遠いの差はあるでしょうけど)」程度の差は大事。

 
 でも、現代アメリカ文化と、中世日本文化、私たちにとってどちらの方が「近い」んでしょうか?
 
 どっちも「知ってるつもり」でいる部分がかなり大きいと思うし、個人差も(たぶん)大きいと思いますが。
 
>計画的に移行は難しいと思う。言語の変容は不可避でそのベクトルは簡単に変えられるものではない、と自身で述べられているではないですか。
 
 押しとどめたり逆行させたりは無理でも、ベクトルをある程度変えるくらいはできるのではないかな、と。
 日本語が戦後変化したのは、当用漢字・常用漢字などの政策的な原因もかなり大きいと思いますから。
 もちろんその結果、予期せぬ影響も現れてきた(「世論→せろん」とか)わけですが。
 
 何もしないで流れに任せるとか、英語が世界に普及していく中でひたすら現状を維持しようとするとかが問題だと思っています。
 
id:joseph30さん
>問題点が書いてないな。言葉がスムーズに通じるようになると科学の進歩も進むかもしれないが争いも加速するはずだ。

 
 仲直りも加速するはずだ、と信じます。
 まあ理想主義的かも知れませんが。
 
 でもやはり、意思疎通が容易ならやはり無意味な争いは起きにくくなると思います。きっと。
 
id:doramaoさん
>同じ時代、同じ土地に暮らしている人同士で、言語による意思疎通が困難になることが問題。そこらへんの事も書いてね。「私は困るんですけど」じゃなくて、ネットで意志を表明できない人のことですよ。

 
 すみません、大事なことが書いてありそうだと思ったんですが趣旨がつかみきれませんでした。
 
 充分な移行期間を設ければ(20〜30年というのは確かに短いかなー、とは自分でも思います)、意思疎通が困難にはならないのでは?
 というか、身近な人同士で意思疎通が困難になるような変化は、政府がどんなに力んでも起こせないと思います。不便だから。(川の流れを素手でせき止めるようなもの。)
 
id:yoshiyocさん
公用語を英語にするメリットはあったが、「世界共通英語」のメリットが書いてなかった。というか、ない。政府主導のOS開発なんかと同じで、「共通英語」を作っても誰も使わない。

 
 「共通英語」ができるとすれば(できると思うのですが)、それは誰かが主導して作るのではなく、自然とできあがっていくのだと思っています。
 政府主導の世界共通語なんて、確かに普及しないでしょうね。
 
id:Rion778さん
>>世界共通英語/昔々エスペラントというものが…

 
 エスペラントの理想には共感するものを感じますので、「昔々」で片付けてしまうにはちょっと抵抗を覚えますが(「昔々アイヌ語というものが…」)、共通語を人工的に作ろうという発想にやはり無理があったのだと思います。
 
id:bizarre_sproutさん
公用語に痕跡程度を残す意義が不明

 
 「日本の伝統的な文化を保護すべき」という以上の意義はありません。
 
>知的中間層以上は第二言語で異なる概念世界を知るべき
 
 であれば、英語が第一言語で日本語が第二言語であってはいけないのでしょうか?
 
>"話せば分かる"は具体的な国際情勢から否(cf. http://tinyurl.com/cu59so)
 
 ひととおり目を通したのですが、どの部分を参考資料として示されたいのかわかりかねましたのでご教示ください。
「諸君」と「皆さん」の話とかは興味深く読みましたし、二項対立の図式で物事を捉えるのが粗雑な議論だというのはまったくだと思いますが……。
 
id:wens31さん
>どっちかというと英語浸透推進派だけど自分としては日本語大好きだし小説は縦読みに限る。

 
 そうだ! 中国と手を組んで、縦書き英語をグローバルスタンダードに!
 
 ……たぶん無理でしょうが。
 
 「縦読み」って……。
 
id:iflancyさん
>私はリア充とかワロスみたいな日本語単語の新しい可能性をむしろおもしろいと思う

 
 私もそう思います。
「〜〜ですが、何か?」
「〜〜と言ってみるテスト」
 などといった言い回しは、初めて見た時、感心した記憶さえあります。(2ちゃんねる外の掲示板でした。今以上に2ちゃんねるに偏見があったので、2ちゃん語だと知ってがっかりした)
 
 新しい可能性は、どの言語にもありますよ、きっと。
 
id:muddyさん
>外国人から見ると変態的に難しい日本語が参入障壁になって日本が富を保持してる一面もある。英語圏の世界に投げ込まれると食っていけなくなる日本人がかなり出ると思うけどね。

 
 いわば日本語が「非関税障壁」になってる、って議論だと思うんですが。
 でも、保護主義的な政策は長期的にはろくな結果を招かないと思います。
 
 少子高齢化で日本語話者の絶対数が減っていく中で、今後も日本語だけで末永く富を保持できる、と前提するのは楽観的に過ぎると思うのです。
 
タツヤさん
http://d.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20081110
>私はそのブログと同じような考えです。
>filinion さんもきっと同じような考えではないでしょうか。

 
 ごめんなさいそれ読んでました。(最初の方の「はてな界隈では」云々、というのはそれが元になっています)
 
 経済競争力(知的生産性、と言った方が適切なんでしょうか?)に偏りすぎた意見だな、と感じましたが、まあ基本的に賛成でした。
 
>むむさん
>>アメリカを始めとする連合国が5年にわたって占領下においた日本でも、英語をしゃべれる人は少数ですね。いや、残念です。
アメリカが占領時に英語教育を強化していたとは寡聞にして知らないのですが。冗談にしても質が悪いですね。

 
 そもそもの、
「日本が日本語教育を推進した朝鮮・台湾では、今や日本語を喋れる人は高齢者のみ」
 というTTさんのコメントが質の悪い冗談としか思えなかったのでこんな感じになりました。
 
>ばかな話が多いなさん
>中国がますます存在感を増す中で、china-characterを捨てるのは間抜けな話です。
>もちろん、中国が、中国語を捨てて、英語に走った時は日本も、英語にするべきですが。

 
 なんという臨機応変
 
 いやまあ私も、英語が世界共通語になるなら英語を、中国語が共通語になるなら中国語、エスペラントが勝利するならエスペラントを使うべきだと思いますが。
 
 「文明の衝突」を思い出しますね。
 いや、そういう日和見スティックなところが日本の素敵なところだと思いますが。
 
id:stonifさん
>日本語じゃないと落語がおもしろくなくなるだろうからなぁ、それがやだな

 
 ヒント→「英語落語」。
 
 ……ところで、中学時代に「目黒のさんま」を読んでオチが分からなかった私。
(土地勘がないので、目黒でさんまがとれないことを知らなかった)
 
id:KoshianXさん
>水村本を読んでらっしゃらないとのことですが、かの本にはfilinionさんのおっしゃる「知的エリート」にのみ英語教育を施し、他の人は国語教育をもっと時間をかけてやるべきだ、という主張がされています。
>私はこの主張をそのまま支持するわけではないですが、英語を公用語にするくらいならそのような方法があってもいいのではないでしょうか?
>「差別的な公教育」の是非ということになるので非常に難しいでしょうけれども。

 
 ご教示ありがとうございます。
 
 ご意見もっともかも知れません。
 小学校での英語教育はすでに始まっていますが、成人も含め、英語を学ぶ必要がある人への支援を充実させることが必要なのかも知れません。
 
 「日本語は日本国内で通じる。英語は日本国内と国外で通じる」
 という状況になったら、日本語をあえて学ぶのはむしろ趣味になるのではないかな、と思うのですが、最初の段階としてはおっしゃるような穏当な措置があるべきなのだろうと思います。
 

*1:だから、
「いや、英語が世界共通語化するなんてあり得ないよ!日本語(およびその他地域言語)の未来は安泰だよ!」
 という説得力ある議論が聞ければ、それはそれでうれしく思います。

*2:正直、
「タイトルだけ読んだ」
 みたいな人が私以外にこんなにたくさんいるとは……。
 はてなユーザーでさえこうなのか……と思わされました。
 
 まあ無駄に長い文章だけどもさ。