なんか最近、「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」の問題点を指摘する記事を散見するのでつらつら考えました。
確かに一理!「報連相なんてムダ!」という外国人ビジネスマンの言い分(モチベーションは楽しさ創造から)
“ホウレンソウ”は第二の“カロウシ”になるか(Joe's Labo)
下の方の記事の
「日本企業では従業員に『権限と責任』が与えられていない」
という部分を読んで、
「ドイツ企業だって、各従業員に無制限の権限・責任があるわけじゃないだろう!」
とか脊髄反射ブックマークしそうになりましたが(上の方記事にはすでにした)、よく考えると
「権限と責任がない」
のが問題なんじゃなくて、
「権限と責任の範囲が明確でない」
のが問題なんじゃないかと。
どこまで自分の判断でやっていいかわからないから上司に相談する
↓
上司もそのまた上司に相談する
……という。
で、さらに思い出したのが、マキャベリが同じこと言ってたじゃん?ということ。
ちょっと長いんですが引用。(強調引用者)
リヴィウスの「ローマ史」を読んで、そこからなんらかの教訓を得ようと思うならば、ローマの市民と元老院のとったすべての行動をじっくりと検討する必要があるだろう。
検討の価値ある事柄は数多いが、その中でもとくに次のことは重要だと思う。それは、軍隊を率いる執政官(コンスル)や臨時独裁執政官(ディクタトール)や軍司令官たちに、どの程度の権限を与えて送り出したか、ということである。
答えは、はっきりしている。
古代ローマ人は、この人々を、絶大な権限を与えて送り出したのであった。
元老院は、新たに戦争をはじめるときと、和平を講ずる場合の決定権しか、もっていなかった。その他のことはすべて、現場の指揮官たちの意志と判断にまかされていたのである。
このことは、元老院の深い思慮の結果であったと言えよう。
なぜなら、もしも元老院が指揮官たちに対し、元老院の決めたようになにもかも行うよう求めれば、指揮官たちとて、全力を投入することなどしなくなってしまう。なぜなら、たとえ輝かしい戦果をあげても、作戦の指示を与えるのが元老院である以上、指揮官個人の栄誉にはならなくなるからだ。
この他に、元老院は、自分たちの熟知しない事柄に対しても指示を与えるという、危険も犯さねばならない。
もちろん、元老院議員の中には、戦争経験豊かな人物は多かった。だが、現場にいないことと、それゆえ作戦実施に際して必要な種々の小さな、しかし生きた情報に接しられない立場にあっては、危険はやはりまぬがれない。
それゆえに、古代ローマでは、軍を率いる指揮官は自らの考えるままに行動し、勝利の栄誉も、彼個人のものであるようにしたのであった。
これと反対の例は、ヴェネツィアやフィレンツェでのやり方である。
この二つの共和国の指揮官は、大砲を置く位置からなにから、いちいち本国政府に指示をあおがねばならない。戦争開始後をのぞけばなにもかもがこの式で、官僚主義一色に染まっているのが現状だ。
つまり、個人の栄誉はなく、栄誉は全員のものであるべきという立派な理由によるのだが、実際にはこれが、現在の惨状の原因になったのであった。
―『政略論』―
要するに、マキャベリも
「ホウレンソウは無駄」
と主張してるわけです。
(マキャベリはフィレンツェ共和国の人。念のため)
しかし、
「過去の偉人も同じ事言ってるじゃん!」
と言って喜ぶのはちょっと早い気がします。
欧米企業がローマ軍方式だからと言って、「それが最善」と言って良いのか。
「現場司令官が臨機応変に判断せよ」
というのは、情報通信コストが高い(主に時間的な意味で)場合の解なんじゃないでしょうか。
現在では、ローマ軍・フィレンツェ軍の時代に比べて情報通信コストは下がっているし、これからも下がるはずと思います。*1
そこで、ここは未来志向で、米軍を見ることにします。*2
アメリカ軍では、FBCB2(フォース21:旅団以下レベル指揮統制システム)と呼ばれる装備のデジタル化を推進しています。
たとえば、戦車内でモニタを見ると、今自分がいる場所が地図のどの辺りで、味方はどこにいて、敵はどこにいるか、が(自軍の偵察兵や偵察衛星などが把握してる範囲で)表示されます。
そして、それらの情報は司令部が把握し、各部隊に指示を出すわけです。
現場の兵士から偵察衛星までの情報を、ネットワークによって統合し、陸海空軍が緊密に連携して作戦にあたれるようにする……。
……これって要するに「コンピューターほうれんそう軍隊」ですよね?
「ホウレンソウ」って言うといたく古典的な感じですが、
「組織内の情報の共有を推進することで、末端の構成員までが大局的な判断に沿って連携して行動できるようにする」
とかなんとか言えばちょっと聞こえがいいんじゃないですか。ダメですか。
……というわけで、日本式未来のビジネスマンは、ローマ軍を目指すんじゃなくてフォース21を目指すべき。
ローマ軍よりアメリカ軍の方がぜったいつよいよ!*3
フォース21的ビジネス。
具体的にはよくわかんないですが、以下のような感じですか?
・業者と打ち合わせ
業者「しかじかの件なのですが、こういった内容に変更可能でしょうか?」
企業戦士「そうですねえ……(メモをとる)」
↓
企業戦士が見聞きした内容は、装着したマイクとカメラによって本社に送信されている。
アラートキーを押すと、所属課オフィスで注意を喚起するBeep音が流れ、
「〜〜に関して業者より要請:納期変更」
など、メモ(電子ペーパー)の内容とともに指揮所モニタに表示される。*4
ざわつく課員たち。*5
↓
課長・部長は、自分で判断できる範囲の内容を直ちに返信。
必要に応じ、「工数〜〜程度」など、情報を補足した上で「報告:事業部長」などを選択。
その場合、同じ内容が上位の管理職指揮所と共有される。
(あるいは、「質問:人員抽出」など、部下に情報の提出を求めることもできる)*6
↓
各管理職の判断は、企業戦士のメモの上にプロットされる。
または、指示がイヤホン型端末を通して伝達される。
↓
企業戦士「わかりました。通常であればお受けできないのですが、現在、たまたま他のプロジェクトに余裕がありますので……」
コンピューターほうれんそう企業。
現場が決定権を握っている企業に比べると、意志決定が数十秒〜数分遅れますが、現場が独断専行して詰め腹切らされるローマ軍方式なんかに負けはしません……と思うんだけどな。
それでも対抗するローマ式企業には必殺の空地直協作戦。
オフィスにいながらにして、UCAV(無人攻撃機)で敵企業幹部をマンハント。
非対称の経済戦争における、敵対的TOB(Tax One's babyishly)。
“「消耗戦」から「麻痺戦」へ”ですよ!
……いやまあ、私自身は民間のやり方なんか知らない……というか、いたく官僚主義的な職場にいるんですけど。
文書を起案
↓
教務主任の修正が入る
↓
再提出
↓
教頭の修正が入る
↓
再提出
↓
校長の修正が入る
↓
印刷して配布
……というのがデフォルトの流れだからなあ……。*7
うん、負けてますね、すみません。
*1:本当は、問題になるのは通信速度じゃなくて意志決定速度だとは思いますが。
そして、そっち(人間の情報処理速度)は、ローマ時代から大して変わってない。
*2:アメリカを見れば未来が見える、という発想自体すでに古典的ではある。
*3:でも、書店でビジネス書を(タイトルだけ)見ると、ローマどころか孫子だの兵法三十六計だの参考にするらしいのでなんとも……。
*4:電子ペーパーじゃなくて、PDAとかノートパソコンとかでたくさんなんだけど、客先でキーボード叩くのって許容されないように想像するので。
*5:必要だと思えば上長に具申する。
*6:まあ、その場で口頭で聞いた方が早い場合も多いとは思いますが。
*7:途中、校長・教頭が出張のこともある。
職員数が20人に満たない組織なのに、よほど緊急の文書でない限り、起案当日の配布は不可能。
「外部に出す文書は3日前に起案すること」
……って言われる。