小学生で賞を取るための絵の描き方(高学年編)

 夏休みということで、絵画など描いている/描く予定の子もいるんじゃないでしょうか。
 
 そんな子のために、コンクール向けのメソッドのご紹介。
 
 インスパイア元→http://b.hatena.ne.jp/entry/http://alfalfa.livedoor.biz/archives/51287856.html
 上の記事は明らかに低学年向けなので、高学年向けのものを考えてみたいと思います。
 
 ただ、「楽に入賞する」メソッドじゃないので注意。(後述します)
 
*入賞する作品の傾向は、地域ごと、コンクールごとに大きな差があります。
 この記事の内容が常に有効なわけではありません。

 
 ちなみに、以前受けた研修の、講師の余談がネタ元。
 

傾向と対策

 
 入賞を狙うために。
 
 まず、審査員について考えてみましょう。
 
 審査するのはどんな人か?
 
 もちろん、美術について専門的な知識のある審査員……なわけないじゃないですか?
 
 小学生絵画コンクール、とかで審査するのは、各学校から呼ばれた教員です。
 
 件の講師は言いました。
「そういうコンクールで、発言力を持っているのは誰か?
 若い先生でしょうか?
 いやあとんでもない。
 入選作を決めるのは、年配の先生なんです」
 
 これはたぶん事実です。
 私は、絵画コンクールの審査に出たことはないのですが、書道コンクールの審査はやったことがあります。
 学年部門ごとに分かれて審査を行い、基本的に、年配の先生が
「これがいいんじゃないかなあ」
 とか言って選んでいきます。
 
 若いのは、脇で
「はあ」
「なるほど」
 とか言う役。*1
 
 どうしても決めかねる時は、「権威」とされている先生が呼ばれて、
「どっちがいいでしょう」
「これですね(即答)」
 という形式です。*2
 
 ともあれ、入賞を狙うのであれば、
「年配の先生に受ける絵が入賞する」
 と考えて描くと良いでしょう。
 
 審査員が教員じゃないコンクールも多い(企業主催とか)とは思うんですが、
「美術の専門家じゃない年寄り」
 が審査するコンクールはきっと多いと思いますよ。
 

画題

 
 年配の先生に受けそうなのはどっちでしょう。
 
・京都四条河原町の新しいランドマーク、コトクロス阪急河原町
・古都京都を代表する世界遺産清水寺
 
 これはまあ、言うまでもないと思うんですが。
 
・CMでおなじみ、若い女性に人気の室内犬、チワワ。
・民話そのほかでおなじみ、農耕民族に人気の役畜、ウシ。
 
 とかどうですか。
 
 そんなわけで、画題としては
「神社仏閣」
「伝統行事」
「田園」
「海岸」
「河原」

 などをチョイスすると吉。
 
 「校舎」とか「公民館」とかもよくありますね。
 
 人物を入れるにあたっても、明るくさわやかな、昭和的若さを感じさせる服装・題材等を選びましょう。
 

構図

 
表情をつけるのが大事ですよ。
 
・手を入れろ。
 人物がいるなら手(正確には指)は必須。
 
・動きのあるポーズ
 さすがに高学年になると、酒井式的な「変なストレッチみたいなポーズ」は評価されません。
 しかし、「立ってるだけ」「座ってるだけ」「寝てるだけ」みたいなのはやはり受け入れられないので、何か作業をしているところなどを書きましょう。
 
・写実的に。
 イメージを描くような抽象的な絵は、年配の審査員に理解されませんので注意。
 基本は写生です。
 大ドイツ芸術展です。
 
・数は力。
 まあ場合によるんですが。
 
 たとえば、
「公園の鳩を描こう」
 とか決めた場合、一羽だけだと、それを描くのに失敗したらすべて終わりです。
 
 でも、画面内に3・4羽入れれば、一羽失敗してもなんとかなりますし、それぞれ違う動きをしてる鳩にすれば動きも出るわけです。
 
・近景・中景・遠景
 絵に奥行きを与えるためです。
「手前に木が生えていて、その向こうで田植えをやっていて、ずっと向こうには山がある」
 みたいな構図。
 
 市役所や校舎を描くのに、意味もなく金網越しに描いた絵なんかありますが、それは別に現代社会を風刺する意図とかではなく、「近景」を作るための小技です。
 
・嘘でもいい
 たとえば、書きたい風景の中に、「近景」にあたるものがない場合、花壇の花(何本も)を手前に描いてしまうとか。
 
 講師曰く、花はおすすめだそうです。
「デッサンが狂っていてもばれないから」
 だそう。
 
 あと、講師が見せてくれた絵に、夕日をバックに、差し上げた指にトンボがとまろうとしている、という作品(子どもの描いた自画像)がありました。
 
 見事に賞を取った作品で、「作者の郷土を愛する心がにじみでるうんたらかんたら」という審査員評までついてたんですが、講師(その絵の指導者)によると、
 
「なんかポーズを決めなよ」 →「これ(斜め上を指さしたポーズ)にします」
「変なポーズだな……」   →「じゃあ、トンボをとまらせることにします」
「そうすると、屋外の絵だね」→「うちの近くの田んぼにします」
「時間帯は?」       →「トンボがいるから夕焼けにします」
 
 ……という流れで構図が決まったそうです。
 
 全然テーマが先行してないという。
 

彩色

 
「手間をかけろ」
 これに尽きます。
 
 講師曰く、
「年配の先生であれば、絵画の指導というのが大変なのは身にしみているわけです。
 だから、『がんばった子を評価してあげたい』と考えています。
 なので、一生懸命塗った絵が評価される
わけです」
 
 教師でなくとも、審査員が年配の人だとすると、
「努力は報われるべき」
 という思いがあるはずです。
 
「努力・友情・勝利」
 というやつですね。
 
 ちょっと前の少年ジャンプ的発想。
 
 逆に、
「天性の美的センス」
 とか、嫌われがちです。
 天才の99%は努力でできていなければならないのです。
 
 ↓教員がそういうのを嫌っている例
幼児期の「個性尊重」こそが子どもを押しつぶす。」(小学校笑いぐさ日記)
 ……おや、よく見たら自分の文章だ。
 
 審査員はじっくり作品を見て、時間をかけて描いたとおぼしき絵を評価する、と考えましょう。
 
 酒井式の、
「木の葉は一枚ずつ違う色に」
「屋根瓦は一枚ずつ形を描いて一枚ずつ塗ること」
 とかはこれに答えるものですね。
 
 空をべったり一色で塗るとか、海をべったり一色で塗るとか、人間の肌をべったり一色で塗るとか、もちろん論外です。(これはたぶん普通にアウトだと思いますが。絵として)
 
 最初に書いた
「楽なメソッドではない」
 というのはこれが理由です。
 
 上述の過去記事のブックマークで、id:aozora21さんが、
「小中学校での図画工作の評価って根気よく丁寧に制作された、わりと当たり前にまとまってる作品が高いように感じている。」
 と書いてますが、まさにその通りなのです。
 
 いわさきちひろとか、絶対入選しません。*3
 
 なので、ちょっと下絵の話になりますが、
「よく観察して描いたっぽい絵」
 も高評価です。
 
 たとえば、
「無意味に金網越しの校舎」
 を描くような場合には、金網の錆や破れ目などもきちんと描くとよいでしょう。
 
 金網に破れ目がない?
 だから、嘘を描いてもいいって言ったじゃないですか?
 

おわりに

 
 とはいえ、この種のコンクールの傾向というのは地域差が大きいようです。
(この記事から地域を特定されないといいけど……)
 
 また、「写生」が重んじられたのは本来は過去の話で、実は近年の文部科学省は、抽象的なテーマ、ひらめきを重んじる方向性にあります。
 3月に告示された新しい学習指導要領でも、「表現」の内容として挙げられているのが
「感じたこと、想像したこと、見たこと」
 という感じです。*4
 
 だから、本当はここで書いたようなメソッドがいつまでも生きていてはいけない(し、専門家が審査する全国的なコンクールなどではすでに通用しなくなりつつある)んですが、まあ、小さなコンクールでは当分このままの状態が続くんじゃないかな、と思います。*5 *6 
 ともあれ、このメソッドどおりにやるなら、8月31日に描き始めたんでは間に合いません。
 小学生とその保護者のみなさん、がんばってくださいね。

*1:じゃあ若いのは何しに来たんだ、という話になりますが、これはたぶん「書道作品の見方」を学ぶ研修の意味合いがあるのだと思います。
私を含めほとんどの先生は、書道作品の鑑賞ポイントなんて大学で習ってません。
「なんか上手そうに見えるのが上手」
という素人レベル。
 
だから、年配の先生や「権威」が審査してるのを脇で見てるのも一つの勉強なんです。
非常に前時代的な教育システムではありますが。

*2:読書感想文コンクールは全然違う方式(部門の作品を全員が読み、点数をつけて集計する)でしたが。

*3:いわさきちひろが絵に情熱と時間と労力をかけてない、と言うんじゃありませんが。
でも、一枚描き始めてから描き終わるまでの時間が少ないのは事実だったそうです。
下手すると30秒とか。

*4:第7節「図画工作」の「各学年の目標及び内容」、「2内容 A表現1(2)」を参照。
おお、教育関係者向けの記事みたい。

*5:全国規模のコンクールでも、「全国審査」の前に「県」「市町村」とかの予選的な審査会があることも多いですし。
そういうところまで専門家が来ることは普通ないでしょう。

*6:講師に言わせると、
「どのコンクールにどんな傾向の作品が入選しやすいかを把握して、子どもが持ってきた作品をそれに合ったコンクールに出品してやるのも教師の力量」
だそうです。
ううむ。