政治の季節 〜同盟編〜

虚実市の辺境に位置する鱶沢地区。
鱶沢小学校の野球部として発足し、長年活動してきた鱶沢バースト。
しかし、保護者からなるバースト指導部は、監督の強力な指導力と、県大会出場の快挙を追い風に、学校指導体制からの脱却と、運営の自由を獲得すべく、活動を続けていた。
 
しかし、2006年4月。
隣接する卯崎小学校との統合により誕生した、新・鱶沢小学校の校長は、
「バーストは部活動であり、その活動は部活動としての範囲を超えるものであってはならない」
との強硬路線を展開。
野球部保護者との軋轢が高まっていた。
 
同月、バースト指導部は、隣町の壁掛小学校の選手を、本人の希望により入部させる予定であることを表明。
「バーストは本校の団体であり、本校以外の児童を入部させることは認められない」
とする校長は激しく反発した。
 
この対立は、虚実市学童野球連盟が、
「市内の選手以外が参加するチームの登録は認められない」
との見解を示したことにより、バースト指導部がその方針を撤回し、収束する。
 
2006年5月時点では、
・野球部は、週に一度、学校職員の指導と監督の下、放課後に校庭で練習する
・加えて、週に三日、学校外で夜間練習を行うが、これは自由参加とし、学校職員は関知しない
との方針の下、部活動としての活動と、任意団体としての活動のバランスが取れているかに見えた。
 
5月。
「鱶沢バーストと赤田小学校野球部が合併する話が進んでいる」
との情報が、赤田小学校校長よりもたらされる。
 
蚊帳の外に置かれた格好となった鱶沢小校長は強い不快感を表明。
鱶沢小職員の誰一人としてその事実を把握しておらず、バースト保護者への問い合わせの結果、以下の事実が判明する。
・赤田小学校野球部は、5年生以下の人数が少なく、夏以降活動が困難になる
・このため、バーストと合併して活動できないか、との話が、赤田小側から持ち込まれた
・25日には、赤田小で、赤田小職員・赤田小保護者・バースト指導部を交えた説明会が開催される
 
鱶沢小校長は、
「鱶沢バーストは、鱶沢小スポーツ後援会から予算を受けて活動する鱶沢小の団体であり、他校の児童を受け入れることは認められず、受け入れるのであればそれは部活動としては認められない」
との姿勢を強調。
その旨を明文化し、資料としてバースト指導部に手交。
 
だが、実際にバースト側と接触している職員には、今後の成り行きへの不安が募っていた……
 
……みたいな状況ですかね。
 
あの行け行けの保護者たちが、
「校長の言うことを聞かなければ後援会費を引き上げる」
って言われたくらいであきらめるとは思えません。
 
25日の話し合い、
「赤田小野球部は赤田小の団体であり、母体である赤田小の態度が決まっていない以上、本校職員が出向く状況ではない」
という判断の下、我々の誰一人として出席しないのですが。
 
先日、赤田小の先生と話す機会があって。
その話によると、
・保護者から持ち込まれた話であり、職員もよく状況を把握していない
・25日は、合併に向けた具体的な話し合いをすると聞いている
・合併は、バースト側から持ちかけれたと聞いている
 
……なんか、鱶沢小職員が知らないところで、クーデター計画が進行中ではありませんか?
 
人数が増えれば優秀な選手も増えますから、チームとしては強くなります。
それは、指導部の願いではあるわけです。
 
しかし、指導者が同数なのに人数だけ増えれば、底辺の子たちは目が届かなくなるのが道理。
っていうか、今の時点ですでに、球拾いしかやっていない子とか、それが嫌で週に一度の放課後練習にしか来ない子とか、それすら来たがらない子とかがいるんですが。
 
そうして、先日久しぶりに出向いた練習試合で、なんか、見慣れない子がいるのを発見。
「……あれは?」
「ああ、あれは、虚実小学校の子」
「……!」
 
「学校に言うといろいろうるさいから」
という判断の下、勝手に他校の子を参加させているのです。
 
しかし、知らないところでそういう事態が進んで、
「本校の児童がお世話になってます」
みたいな話を向こうの学校から知らされるのは、一番校長の神経を逆なでする状況なわけで。
 
それに、当然ながら、バーストとして加入している保険の対象にもなりません。
「保護者の判断と責任の下に参加させています」
……というのが、指導部の回答でしたが……。
 
本人が怪我をするぶんには、それでもいいでしょう。
しかし、その子が、鱶沢の子に怪我をさせてしまった場合、保険会社がそれを「バーストの練習中の事故」と判断するかどうか、かなり怪しくなります。
 
本人だけの問題ではないのです。
 
このままでは、どこかで校長の忍耐力が切れて
「バーストはもはや野球部ではないので、保護者の好きにしてもらいます。ただし、学校からはいかなる支援も行いません」
……ということになりかねず。
 
しかし、それは、本当にバースト保護者全体の意向なのか。
そもそも、そういう事情を、どこまで保護者たちが知っているのか。
寡頭体制のバースト指導部が独走して、保護者全体が被害を被ることになるのではないか……。
 
明日、24日には、指導部の保護者が学校に呼ばれ、話し合いをすることになっています。
 
一体いかなる展開が待っているのやら……。