政治の季節〜完結編〜

完結してくれ。
 
鱶沢小学校野球部「鱶沢バースト(仮)」は、度重なる校長の警告・恫喝を無視し、他校の児童を受け入れてクラブチームとして独立することを宣言しました。
 
それを容認せざるを得ないのは、校長としては相当苦渋の選択だった様子なのですが、学校の行事等には配慮すること、つまり、運動会の日に野球大会に出たりしない、ということを条件に、これを認めました。
 
なんというか、監督・コーチをやっている保護者連中が、
「これは新しく野球クラブを立ち上げるだけの話だから、学校の許可はいらない」
とか抜かすので、もはや打つ手がなかったわけですが。
 
だってあんたら、保護者会・後援会の組織とか児童連絡網とか、全部学校が作った組織を持ってくんだろうが。
それは「立ち上げ」とは言わないぞ。
 
しかもその挙げ句、
「それで、学校からはどんな協力をしてもらえるのか」
とか言い出す始末。
 
……ハア?
 
だってあんたら、校長から、
「クラブチームになれば民間の団体扱いだから、学校からは資金面でも人員面でも協力できなくなるんですよ? それでいいんですか?」
ってさんざん言われてたじゃん。
 
それを、
「構いません。先日保護者会で決めました」
って言ったんじゃん。
 
寝言は寝て言えよ。
 
なのに、
「バースト側としては、運動会の日には大会を入れないとか、学校側に協力するわけだから、その点はギブアンドテイクだと思う」
とか言ってるわけですよ。
 
…………お前ら…………。
 
確かに、運動会の実施に当たっては、保護者の方から多大なご協力を頂いていますし、それは感謝しています。
しかし、「ウチの子どもを運動会に出す」ことまで、「協力」に含まれているとは思わなんだ。
 
それはそれは、今まで毎年ご子息・ご令息様をご出場させて頂きましてまことにありがとうございました。
 
なにか? 運動会は学校のためにやってるとでも?
 
話は逆です。あんなめんどくさいもの、やらないですめば学校だってありがたいわけですよ。
 
しかし、それをなんでやるかと言えば、それが子どもたちの成長のためになると思うからじゃないですか。
 
今年の運動会、私は全校リレーの担当だったんですが、練習の時、整列から何から私が仕切って進めていたら、6年担任(体育主任)が、
「6年生の中で、種目ごとに係を決めてあるから、リレー係の子にも仕事を振ってやって欲しい」
とか言うわけです。
 
教師が全部仕切った方が練習の効率はずっといいけれど、それをあえて子どもにやらせるわけですよ。
子どもの成長のために。
 
運動会にせよその他の行事にせよ同じことで、みんな子どものためにやってるわけじゃないですか。
学校のためじゃなくて。
 
学校のために保護者とお子様がご協力下さってるんじゃなくて、おたくのお子さんたちを育てるために、学校と保護者が協力してやっていきましょう、って話じゃないんですか。
 
もう……。
いいよあんたらの子どもなんか運動会出なくったって。
 
……とは言えないのが学校の弱みで。
 
学校は、全ての子どもに責任を負わなきゃならない。
それは別に保護者のためじゃないんです。
 
だから、たとえ親が
「いいんですうちの子は勉強ができなくても」
って言っても勉強を教えなきゃならない。
 
昔は、「親は学校に子どもを人質に取られてるようなもの」とか言いましたけど、現状では立場が逆。
学校が子どもを人質に取られてる。
「言うことを聞かなきゃ、こいつらを学童野球以外に能のない人間にするぞ」
って感じ。
 
だって、近隣の学校では、
「なんで体育でバスケなんかやるんだ。ピッチャーなのに突き指でもしたらどうしてくれる」
とかいう苦情が現実にあって。
 
本校でも、似たような理由で、現に陸上大会にも子ども相撲大会にも人が集まらない。
 
それで、野球部のピッチャーは連投しすぎで肘を剥離骨折したわけですよ。
 
偏ったトレーニングは偏った発達をもたらします。
学校体育の目的は、子どもたちにスポーツの楽しさを教え、身体の健全な発育を促すこと。
 
肘の筋肉がぼろぼろになっても投げ続けるプロのピッチャーや、完走した後に血尿が出るプロのマラソンランナーとはわけが違うんです。
 
学校体育は、10年後、20年後を考えて取り組みます。
プロは10年経ったら引退してるんだから、そんな先の健康より、「今年勝つこと」が大事なんです。
 
今度、教育委員会主催の野球大会があるわけです。
 
このあたりでは、野球連盟主催の大会と、教育委員会主催の大会の二系列があって。
 
連盟の大会は、市町村大会に勝てば県大会がある。
 
でも、教育委員会の方は、市町村大会に勝っても地区大会どまり。
 
そんなの存在意義がない、と私も思うけど、教育委員会主催となると嫌でも出なきゃならない。
 
ところが、バースト指導部の連中、監督もコーチも、「平日で仕事が忙しく、出ることができない」とか言ってきやがりました。
 
あんたらなあ……。
 
この間、連盟の県大会の時は、平日なのにバス仕立てて行ったろ?
監督・コーチはおろか、それ以外の保護者も。
 
3回戦まで進んだ上に雨で順延になったのに、みんな休み取って行ったんだろ?
 
保護者懇談さえすっぽかして。
 
その上、初日の開会式の時は、目立つところに横断幕を張るために前日から場所取りに出かけたんだろ?
 
それなのに、教委の大会には仕事で一人も来られねえってか。
 
非協力的もいいところ。
 
H教諭「たぶん、俺ら教員の監督で他のチームに負けるのを期待してるんだろうね。『やっぱり自分らがいなきゃ何もできねえんだ』って言いたいんだろうな」
 
………………。
 
「学校は協力してくれない」って言うけど、学校のグランドで、学校の機材使って練習して、それのどこが独立チームなんだよ。
 
いや……、保護者とケンカしても始まらないのはよく知ってるけど……。
 
でも、あの人らに、ちょっと立ち止まって考えさせる方法はないものかね……。