陰謀論チェッカー。

 陰謀論的なんだけど変な説得力がある話を聞いたり読んだりした時、うっかり信じる前に
「やべえこれ陰謀論かも」
 と気付くための覚え書き。
 

きょうふの陰謀パワー!

 一般に、陰謀論に陥った人は、ささいな事実を持ち出して、巨大な謀略の存在を示す根拠であると主張します。
 ……まあ、そもそも存在しない陰謀の場合、そもそも大きな証拠があるはずはないですが。
 
 それが行き着くところまで行くと、
「証拠が存在しないのは隠蔽されている証拠だ」
 とか言い出すわけですが、そこまで行くとまともな人は聞いても取り合わないでしょう。たぶん。
 
 しかし、その一歩手前の状態の陰謀論者の話は、なぜか人を引き込むパワーを持っていたりします。
 
 人間は、正しいことを信じるのではなく、正しいと思いたいことを信じる生き物です。
 
 で、陰謀論
「私が気に入らない〜〜は、私が嫌いな“奴ら”の陰謀だ!」
 が基本形なので、陰謀論者と「嫌いなもの」が一致していると、ついその話を信じたくなってしまうのです。
 
 しかも、陰謀論というのはあらゆる否定的証拠を「隠蔽工作だ」「捏造だ」で退けてしまえる無敵の論理であるため、たとえ間違っていても誰にも否定することができません。
 そして、この「どんな批判に晒されても淘汰されない」という特性ゆえに、陰謀論は大抵間違っているのです。
 
 つまり、陰謀論は大抵間違っているのにしばしば魅力的で、しかもうっかり信じてしまうとそこから抜け出すのは難しい、というおそろしい罠のような存在なのです。
 
 ですから、巷間流布する様々な“納得力”のある解説(主に政治関連)を聞く時には、うっかり陰謀説にはまらないよう警戒が必要です。
 

これが陰謀(論)だ!

 陰謀論を検出する手がかりは色々ありますが、例えば「ハンロンの剃刀」。
(元々はコンピュータ関連の警句だそうですが)
 
“無能で説明できる現象に悪意を見出すな”
 
 1941年12月8日、対米宣戦布告の通告は予定より遅延し、真珠湾攻撃は奇襲となり、アメリカ国民の憤激を招きました。
 この結果、緒戦で大勝利を収めてアメリカの戦意を挫き、有利な条件で早期に講和する……という大日本帝国の意図は潰え、その後の展開は誰もが知るとおりです。
 
 さて、遅延の原因は、本当に大使館の無能なのでしょうか?
 それとも、我が国に打撃を加えようとする何者かの陰謀だったのでしょうか?
 
「エリートである大使館員が、それもそろってミスを犯すはずがない! これは陰謀だ!」
 いやいや。それはせいぜい
「無能以外の理由があったかも知れない」
 というだけのことで、陰謀が存在した証拠にはなりません。
 
 その他、陰謀論によくある論法を挙げると、
 
「これによって〜〜は利益を受けている」→「これは〜〜の陰謀である」
(ガンは製薬メーカーの陰謀である。路面電車が廃止されたのはゼネラルモーターズの陰謀である)
 
 ここでは、しばしば
「利益を受けている」
 こと自体が証拠として提出され、実際に利益を誘導するために行動した、という証拠は提出されません(それは隠蔽されているのです!)。
 
「彼らは結託して嘘をついている」
(宇宙人は存在するが世界中の政治家たちは嘘をついている。地球温暖化は嘘だが気象学者たちは嘘をついている。常温核融合は完成しているが物理学者たちは嘘をついている。テレビも新聞も嘘をついている)
 
「真実」が明らかにならない理由として最も頻繁に持ち出される論法です。
 各国政府など、他の問題では意見が一致しないどころかしばしば利害が対立しているのに、「真実」の隠蔽に関してのみ驚くべき団結力を見せるのは不可解な話ですが。
 しかし、それが逆に「真実」の重要性を示す証拠だと主張されたりします。
 
 かの有名な「UFO墜落事件」、ロズウェル事件を後に調査した空軍チームはこう述べています。

 指示や警報、通告が出されたり、あわただしく作戦が立てられたことを示唆するものは何もなかった。
 もしも、目的不明の宇宙船が一機でもアメリカ領空に侵入すれば、必然的にそうした行動がとられるはずである。
 記録を見るかぎり、そのような形跡はない。
(仮にあったとすれば、よほど強力かつ厳重な機密保持システムの下で管理されたのだろう。
 アメリカであれ他国であれ、そんな立派な情報管理ができたためしはない。
 当時それほどのシステムがあったならば、原爆の機密をソ連に盗まれたりはしなかったはずだ。
 あいにくそうでなかったことは歴史が示す通りである)

 UFOは……あるいはその他の陰謀は、核兵器の独占よりもアメリカにとって重要な機密なのでしょうか。
 ……もちろん、陰謀論者からは、この報告自体が「陰謀」の証拠扱いされるわけですが。
 
 それともう一つ、
「AはBの影響を受けている」→「AはBに操られている」
 も典型的な論法だな、と思います。
 
「テレビに出てる政治評論家の連中が小沢擁護ばっかりな理由が判明しました。」
 http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1136103956
 
「政治評論家は小沢一郎に操られている(小沢一郎政経研究会から講演料をもらって講演しているから)」
 するとなにか、朝日新聞産経新聞両方に原稿を書いて原稿料をもらっている人がいたら、朝日と産経両方に操られていることになるのかね。
 
 類例に、
「マスコミは創価学会に操られている(聖教新聞の印刷を通じて新聞社に経済的影響を与えているから)」
厚労省タミフル副作用研究班は製薬会社に操られている(研究資金の寄付を受けているから)」
 などなどなどなど。
 
「影響を受けている」こと自体はどうやら明らかだったりするのでうっかり信じてしまいがちですが、その影響がどの程度の強さなのか、他の(対立する)勢力からは影響を受けていないのか、などを考える必要があります。
 
 さもないと、
アメリカ政府はユダヤ人に操られている(政府高官にもユダヤ人がいるから)」
アメリカ政府はナチス残党に操られている(CIAに元ゲシュタポがいたから)」
 など、相反する陰謀説が同時に成立してしまうことになります。
 

それでも陰謀は存在する!

 もちろん存在します。
 
 今も昔もたぶん将来も、陰謀が存在しない時代なんてないでしょうし、そこには悪意や利益の誘導や箝口令や影響力の行使がつきものでしょう。
 また、陰謀の存在を主張するいわゆる「怪文書」がきっかけとなって調査が始まり、真相が明らかになる、なんてことも、ジャーナリズムの世界にはあるのかも知れません。
 
 しかしいずれにせよ、「真実」を主張するのには常に根拠が必要なのは科学も政治も同じであって、十分な根拠なしに「陰謀」の実在を確信するのは思考の陥穽にはまることだ、と思うのです。
 
 まあ、自然は人間に対して意図的に何かを隠したりはしませんが(宇宙検閲官?知らんがな)、陰謀は「隠された謀」です。
 
 ゆえに、
「十分な証拠が無くてもしかたないよね!当然だよね!」
 という一種の甘えに陥りやすいのだと思いますが、他人の意見に影響される前に、頭の中でチェックする程度のことは必要だな、と思います。