小学校で誤った進化観が教えられている件について。

 進化論と教育、というのは、スコープス裁判とかインテリジェント・デザイン論とか色々因縁のある話題です。
 しかし、珍妙な進化論が教えられているのは別にアメリカに限りません。
 実は我が日本でも、主に小学校で(時として中学校以降でも)重大な誤りを含んだ内容が「進化」として教えられている、という事実を告発したいと思います!
 
 あ、言い忘れてたけどタイトルは釣り。
 
 「グループ・エンカウンター」「アイスブレーキング」……とかってわかりますかね?
 要するにレクリエーションの一種だと考えていただければ。
 
 そのひとつ、「進化じゃんけん」
 体育館などで実施するゲームです。
(なので、教師が子どもたちにルールを説明してゲームを進行させることが多い)
 
 ルールは変種がいくつもあるのですが、基本は一緒。
 ググって最初に出てきたルールで言うと、
 
・最初は全員が「アメーバ」になる。
(這いつくばって、からだをぐにゃぐにゃさせながら動き回る)
・ゲームが始まったら、手当たり次第手近な人とじゃんけんをする。
・勝ったら、カエル→ゴリラ→人間の順に進化することができる。
(それぞれ、その動物のまねをしながら歩き回る)
・じゃんけんできるのは、同じ段階の相手とだけ。(たとえば、カエルはカエルとしかじゃんけんできない)
・負けたら、一つ前の段階に戻ってしまう。
(アメーバは負けてもアメーバのまま)
・「人間」になった人は「あがり」。並んで他の人を応援する。
 
 ……という感じ。
 
 これはひどい
 
 ……どこがひどいのか言うまでもないと思いますが念のため書いておくと、ゴリラは(カエルも)進化論的にはヒトの祖先ではありません。
 
*1
 ゴリラは同世代の親戚であって祖先ではない。
 
 「人間の先祖はサル」というのはよく言われることですが、それはゴリラやチンパンジーから人間が進化したという意味ではなく、ヒトと他の霊長類が祖先を一にしている*2ということなわけで。
(いやまあ、共通祖先も一種の「サル」ではありますが)
 
 しかし実はここに挙げたのはまだマシな方で、バリエーションの中にはもっと間違ってるのも。
 
「ゴキブリ→アヒル→サル→人間」
 
 ゴキ……節足動物脊椎動物の祖先じゃないし、鳥類も哺乳類の祖先じゃありません。
 
「ゴキブリ→恐竜→ゴリラ→人間」
 
 途中で絶滅します。
 
「たまご→ヒヨコ→ニワトリ→(あがり)」
 
 あがったチキンはスタッフがおいしくいただきました。
 間違ってないけどこれは「進化」じゃない。
 
「ヘビ→アヒル→人間→神様」
 
 なんだ神様って。
 
 神が存在するかどうかはさておき、人類進化の延長上に「神」がいる、って発想はなんなんだ。「幼年期の終わり」か?*3
 たぶん、人間が「進化の階梯」の最上段=もっとも神に近いポジションにいる(主は自らの姿に似せて人を創りたまえり)、という古い進化観を暗示してるのかしら。
 
 ちなみに「神様」バージョンだと、神様まで進化したプレイヤーは体育館のステージの上にあがってフロアを見下ろしたりします。*4
 ふははははいまだ解脱できぬ愚民どもが下界であがいておるわ。
 
 あえてこのルールでより正しい順序を考えるとしたら、
 
ピカイア(体をくねらせて進む)*5 *6
 ↓
「イクチオステガ」(お腹を床につけて四つん這い)*7
 ↓
「アデロバシレウス」(四つん這い)*8
 ↓
「ダーウィニウス」(かがんだまま歩く)*9
 ↓
ホモ・サピエンス(あがり)
 
 とかでしょうか。
 たぶんどれ一つとして子どもたちがイメージできないけどな。
 
 ともあれ、もっと基本的なルールについて考察すると、「同じ進化段階の相手としかじゃんけんできない」というのは、まあ、いろいろな相手とじゃんけんさせるためのルール的工夫です。
 いろいろな人とじゃんけんさせて、初対面の相手とも打ち解けた雰囲気を作り出すのがこのゲームの目的ですから。
(このルールがないと、プレイヤーがよく見知った同じ相手とばかり延々じゃんけんし続けたりすることが予想される)
 
 でもあえてこのルールを進化論的に解釈すると、
「生物圏の同じ領域で暮らす相手としか種間競争はできない」
 ってことになるでしょうか。
 アメーバとカエルが生存競争を繰り広げるのは想像しがたいですからね。
 
 「進化」というテーマから考えて、進化じゃんけんのプレイヤーはひとつの個体を表しているのではなく、ひとつの種……というか進化系統樹の枝を表しているのでしょう。
 
 勝つと一段階進めるのは、そのプレイヤーの種がそのエリアでの生存競争に勝って十分な個体数を確保し、その中から新たに進化した集団が発生した(「枝」のより先へ進んだ)、ということを意味するのでしょう。
 負けると一段階下がるのは、当然ながら、生存競争に敗れた種が絶滅した(その「枝」は行き止まりになった)ことを意味します。
 

左:実際のゲーム展開例 右:それが表す進化系統樹
 
 そのように考えてくると、やはりこのゲームの問題点は、いずれのルールにおいても進化の道筋が固定していることにあります。
 これは、進化……evolutionが、「高等生物」を目指して「進化の階梯」を上っていく営みだ……という古い誤解を体現していると言って良いでしょう。 さっきの「ピカイアじゃんけん」もその枠から抜け出すものではありません。
 
 そこで、科学的により正しい進化じゃんけんを考えてみました。
 
1:中立進化じゃんけん
・全員が紅白帽をかぶる。(帽子の色は互いに対立する中立な遺伝子を表す)
・違う色の人としかじゃんけんできない。
・勝った方が相手の帽子を自分の色に変える。
・どちらかの色が全体をまたは占めたら、ゲームは終了。または、一定時間後にゲームを終了し、その時多数を占めていた方が勝利。
・赤、白、帽子なしの3チームとかでもいいかも知れない。
 
2:化学進化じゃんけん
・プレイヤーは無機分子。
・じゃんけんをして、負けた方が勝った方の肩をつかむなどして後ろにつながる(より複雑な分子の誕生)
・じゃんけんの時、あいこが3回続いたら、列が長い方は全員ばらばらにならなければならない。(紫外線等による分解)
・全員つながることができたら生命が誕生してゲームは終了。(生命誕生が奇跡だった、という事実を体験できる)
 
3:突然変異じゃんけん
・プレイヤーは画用紙とペンを持っている。全員の画用紙に、同じ絵(何かの生き物の簡単な線画)が書いてある。
・じゃんけんをしたら、お互いに相手の画用紙に自分の名前を書き、相手の絵に何か書き足す(手足とか目とか角とか羽とかしっぽとか)
・じゃんけんをして勝った方は、画用紙の表側に相手の名前を書いてもらう(有利な突然変異)。負けた方は裏側に名前を書いてもらう(不利な突然変異)
・一定時間経ったらゲームは終了。「たくさんの名前を集められた人」「有利な突然変異が多い人」「(有利な突然変異−不利な突然変異)が多い人」が勝利。
・できあがった謎の生き物に好きな名前をつけて、お互いに見せ合っても良い。
 
 ……しまったネタのつもりが割とまじめに考えてしまった。
 
 まあこの記事ネタなんですけど、いわゆる「進化じゃんけん」から、古い進化観*10のにおいがするのも事実なんですよねー。誰が考えたのか知りませんが。
 
 授業じゃなくてレクリエーションなんだしそこまで目くじらたてなくても、という話かも知れませんが、レクリエーションだからこそ(授業よりも真剣に子どもたちが説明を聞くからこそ)気になる、ということもあるのでした。
 
蛇足補足
 「熱心な読者の方」から、
 
>するとポケモンの進化は、進化に関する他の理論(フィクションやトンデモや宗教的なものも含めて)のうち、どれに近いんでしょう。
 
 という質問を頂きました。
 
 えー、実は「ポケモンのあれは進化なのか」というのは理科教育関連で時々取り上げられる話題でして。
 
 まず、進化というのは、世代交代の中で徐々に種が変化していくもので、どう進化するかは事前に決まっていません。
 一方、ポケモンは一個体が生涯の間にどんどん姿を変えていきますし、どういう姿になるかも事前に決まっている(どの個体も同じように変化する)わけで、明らかに「進化」とは異なります。
 
 じゃあ何なのか、と言うと、昆虫が、幼虫→さなぎ→成虫……と姿を変える「変態」と同様である、と考えて良いでしょう。*11
 
 ポケモンの進化は変態です。
 
 ……ここに「pokemon hentai」とか書いておくと、なんか海外から間違って検索してくる人がいそうですがまあいいや。
 
 で、変態のうち、さなぎになるものを「完全変態」、トンボやカマキリのように、さなぎにならないものを「不完全変態」と呼びます。
 
 ポケモンが変態する時は
「おや、〜〜のようすが……」
 程度ですので、さなぎにはなってない=不完全変態なんだろうと思います。たぶん。
 
 「キャタピー」→「トランセル」→「バタフリー」……? 
 ……トランセルってさなぎなのかしら。あれずいぶん元気だけど。
 
*まめちしき
 さなぎは激しく振動させると死ぬ。
 
 さなぎになった後、外殻の中の体はいったん液状になって、それから再度成虫の形に固まるから。
(オタマジャクシが徐々にカエルになるのとは根本的に異なる)
 
 どうやって液状になった体を再構成しているのかはいまだ解明されていない。
 

*1:画像はhttp://www.asyura.com/07/nature2/msg/380.htmlから。

*2:というか、地上の全生物はおそらく祖先を一にしているわけですが、その中でも近縁である。

*3:菅原道真が進化して天神様になった、という話もある。

*4: ……なんかこの文脈で「ステージに上がる」ってそこはかとなく嫌な表現だな。スピリチュアル風味。

*5: カンブリア紀(5億年以上前)にいた脊索動物。
 脊椎動物全体の祖先にあたる。
 今の生物だと、ナメクジウオに近い。

*6: ……と思ったら、ピカイアより古い脊索動物が見つかったので、ピカイア脊椎動物全体の祖先かどうかはわからなくなっている、とブックマークで教えてもらいました。
 科学の進歩には勝てないな……。

*7: デボン紀末期(3億6千万年以上前)にいた原始両生類。
 陸生四肢動物全体の祖先にあたる。(異説あり)
 今の生物だと……尻尾が残ったままのカエルに近い、かも。もうちょい胴長で、体長が1mくらいあるけど。

*8: 三畳紀後期(2億2千万年以上前)にいた原始哺乳類。
 哺乳類全体の祖先にあたる。
 今のトガリネズミに似ている。
 ちなみに学名は「目立たない王」の意、らしい。

*9: 4700万年前(新生代)に誕生した原始霊長類。
 霊長類全体の祖先にあたる、らしい。
 キツネザルっぽい。

*10:単に間違った進化観だという話もある。

*11:変態するのは昆虫ばかりではありませんが。