久郷晴彦氏の代替医療研究がすごすぎる件について。

 わけあって、久郷晴彦氏の本を読んでいます。
 
 ある知人から
「たぶん科学的におかしなところがあるんだと思うんだけど、自分にはわからないから読んで指摘して欲しい」
 と。*1
 
 “知人”が誰かは秘密ですが、その本はこれ。
 
 

「アロエベラ」徹底健康術―見てわかる図解版

「アロエベラ」徹底健康術―見てわかる図解版

 
 ……さて。
 
 表紙に、
「薬学博士 久郷晴彦」
 とあるんですが、どんな人かよく知りませんでした。
 
 とりあえず、肩書きが「博士」ってことは、どこかの教授ではないんですね?
 ……いや、教授じゃない博士なんて昔からいっぱいいるし、最近はもっと多いわけですけど。
 
 よく考えたら身内にも一人いるくらいで。
 
 裏表紙見返しを見ると、

1926年岐阜県に生まれる。1953年京都大学薬学科卒業。薬学博士。
 現在、健康科学研究所所長、健康ペンクラブ会長。
 1971年から数年間、ヘルスサイエンスドクターとして、旧ソ連ほか10カ国を訪ね、成人病予防、免疫や保健食品について研究をする。そのほかに講演、執筆、テレビ各局の健康番組に出演するなど、日本人の健康向上に幅広く活躍している。
 栄養保健食品開発の権威者であり、免疫や薬害の研究者としても有名である。
 著書には『よく効くアロエベラ』『目に効く「超速効食」』『あきらめるな!ひざ痛・関節痛は消える!』『植物マルチミネラル』『超健康法』(以上コスモトゥーワン刊)『骨粗鬆症』『活性酸素の害』『木炭の薬学』『短命化』『雑穀の健康学』『アルミ食器の害』『メラトニンの驚異』『ローズヒップのビタミンC』『アルツハイマー病』など多数。

 ……健康ペンクラブ? ヘルスサイエンスドクター?
 
 浅学にして耳慣れない言葉も多いのですが、ともあれえらい人なんですね?
 
 で、いったいどんな人なのか、ちょっとネットで調べたら、やっぱりすごい人らしいのでまとめてみました。
 

久郷晴彦、その驚くべき業績

 
とりあえず名前でググると、出版社関係が上位に来ます。*2
 
 で、その数と内容がすごい。
 
 さっきの著者紹介にもいい加減多数の著作がリストアップされていましたが、あんなのごく一部。
 
 紀伊國屋書店BookWebでは62冊、オンライン書店ビーケーワンでは67冊、Amazonでは71冊の本がヒットします。
 
 共著も多いとはいえ、そのタイトルがまたすごい。
 
「気がつけばメシマコブでガンが消えていた!」
アトピー、花粉症が消えた!「超吸収アガリクス」の治癒力─アレルギーを克服するスーパーパワーの秘密」
「ガン、ボケはヤマブシタケが治す─肝機能障害、脳梗塞、糖尿病、生活習慣病などを撲滅す」
「不思議な波動の石で、もう病など怖くない―ゲルマニウム含有石で、がん、肝硬変、糖尿病が治った!」
「奇跡の鎮痛即効フルーツ―南洋の果実「モリンダ、シトリフォリア」」
「サメの軟骨がガンを撲滅する─なぜ、サメはガンにならないのか?FDA(アメリカ食品医薬品局)がついに認可」
「ノニ・ハンドブック ― からだを変える健康ジュ−ス」
「デ−タで見る「沖縄サンゴカルシウム」の驚くべきパワ−」
「花粉症甜茶がこんなに効くなんて!」

...etc.
 
 ……多彩すぎる。
 
 あまりにすごすぎるので、氏の著作に出てくる健康食品とその効果について調べてみることにしました。
 
 前述のネット書店で確認できる本の表紙と内容紹介*3を元に、表にしてみました。*4
 なにしろ量が多いので、ひょっとすると抜けてるところがあるかも知れませんが。
(五十音順)

成分等 効果 書籍名
1・2・3免疫療法 ガン、生活習慣病、糖尿病の予防・改善 糖尿病を斬る!(1・2・3免疫療法から生まれた「基礎健康食品」)、健康食品でガンの治る人、治らない人
α-リポ酸 ダイエットや老化防止 α-リポ酸が効く!
アイザメ生肝油 抗ガン作用、糖尿病、血液サラサラ生活習慣病、高血圧、高脂血症、糖尿病、心臓病、心筋梗塞、脳血管疾患、肝臓病など アイザメ生肝油でガンに克つ
アガリクス 抗ガン作用、免疫力を高める、花粉症、アトピー(などアレルギー疾患) ガンにはやっぱりこれが効く!「腸」免疫力を高める乳酸発酵アガリクス(同書に出てくるのは「乳酸発酵アガリクス」)、ガンは治せる!「腸」免疫力が決め手!!(「乳酸発酵アガリクス」)、ガンは“自分”で治す!!(同書はケフィアとの併用を主張)、乳酸発酵アガリクスの「腸」免疫力でガンは治せる!!(「乳酸発酵アガリクス」)、超抗ガン剤低分子高吸収アガリクス(末期ガン)“この効果”で治る!助かる!(“健康食品の雄であるアガリクスをさらに進歩させた「超抗ガン剤低分子高吸収アガリクス」”)、アトピー、花粉症が消えた!「超吸収アガリクス」の治癒力(超吸収アガリクス)、アガリクス茸でガンに克つ
アロエベラ 内臓脂肪低減、アンチエイジング、腸を健康に、サラサラ血液、ガン予防、糖尿病、ガン予防、抗ガン作用、肝臓病、リウマチ、老化、便秘、美容、尿結石、ぜんそく、脳溢血 「メタボ」になりやすい人なりにくい人、「アロエベラ」でアンチエイジングアロエベラ徹底健康術、よく効くアロエベラ
エゾウコギ 成人病、抵抗力増強 エゾウコギ(刺五加)成人病の悩みはこれで解決
カイジ 抗ガン作用 漢方抗がん剤カイジ」の秘密
カヴァ 不眠症・ストレス・自律神経失調症 からだに優しい眠れるハーブ「カヴァ」
キトサン 抗ガン作用 抗ガン「キトサン」でなぜガンが治るのか!?(同書に出てくるのは「水溶性キトサン」)
クマ笹 アレルギー症状緩和、コレステロールが下がる 血行改善、体臭除去など・ クマ笹パワーの秘密
グルコサミン 関節症 あきらめるな!ひざ痛関節痛は消える!、『ひざ痛』が治る!
ゲルマニウム含有石 がん、肝硬変、糖尿病、血圧異常を正常に戻し、体の抵抗力を強める 不思議な波動の石で、もう病など怖くない
サメ軟骨 抗ガン作用、免疫機能を向上、リウマチ、関節炎 サメの軟骨がガンを撲滅する!、さらば!リウマチ・関節症(同書に出てくるのは「強化型・サメ軟骨エキス」)、30年、悩まされた関節の激痛から解放された!(同書に出てくるのは「濃縮サメ軟骨エキスと高純度キャッツクローを高度な技術で組み合わせた天然製剤」)、薬では治らなかった関節の激痛がピタリと消えた!(「薬を超えた天然製剤強化型・複合サメ軟骨エキス」)、ガンコな関節の痛みもこうすればとれる!(「強化型・複合サメ軟骨エキス」)
シールオイル 動脈硬化冷え性、糖尿病、高血圧、リウマチ、関節痛などのあらゆる難病や私たちの健康維持・疾病予防など リウマチ・関節痛はシールオイルで治る!
デーツ 便秘、自然治癒力の向上 やせたかったらやせるフルーツを飲みなさい!!
ノニ (詳細不明) ノニ・ハンドブック
フランス海岸松エキス 高血圧、脳梗塞クモ膜下出血動脈瘤、生理不順 驚異の成分フランス海岸松エキス
プルーン 抗酸化作用、老化を防ぎ、美と健康をもたらす ラクルフルーツプルーン
プロポリス ガン、生活習慣病自然治癒力の活性化 超吸収「生プロポリス」でガンに勝つ!!(同書に出てくるのは「生プロポリス」)、ガンは生プロポリスで治る!(「生プロポリス」)、高濃度プロポリスの免疫療法(「高濃度プロポリス」)、生プロポリスでガンは治る!(生プロポリス)
マンゴスチン(含有成分キサントン) 抗酸化作用、驚くほど総合的な健康効果(潰瘍性大腸炎がよくなり、夫の四肢麻痺やめまいも改善;アトピー性皮膚炎が改善し、体重も一カ月半で五キロ減;血液循環がよくなり、足のむくみや腰痛、睡眠不足も解消) 奇跡の健康フルーツ「マンゴスチン
メシマコブ 抗酸化作用、免疫賦活作用、抗ガン作用、糖尿病・血栓症、リウマチ、アトピー性皮膚炎、生活習慣病C型肝炎、花粉症 ガンにこのメシマコブが効いた!!、気がつけばメシマコブでガンが消えていた!、酵素処理メシマコブでガンに克つ(同書に出てくるのは「酵素処理メシマコブ」)、耐えられないアトピー・花粉症がウソのように消えた!(同書に出てくるのは「〈メシマコブ+ヤマブシタケ〉複合菌糸体エキス」)
モリンダ・シトリフォリア 免疫力向上、体重・体脂肪の減量、鎮痛、消化・吸収・排泄促進、感染症、血圧、ガン、糖尿病、高血圧 、アトピー、ゼンソク、腰痛etc 奇跡の「フルーツダイエット」、神様からのフルーツ驚異の体験集、奇跡の鎮痛即効フルーツ
ヤマブシタケ アトピー性皮膚炎、ガン、ボケ、花粉症、肝機能障害、脳梗塞、糖尿病、生活習慣病など 耐えられないアトピー・花粉症がウソのように消えた!(同書に出てくるのは「〈メシマコブ+ヤマブシタケ〉複合菌糸体エキス」)、ガン、ボケはヤマブシタケが治す
ルテイン 抗酸化作用、目の疾患の予防・改善(近視や遠視、白内障黄斑変性症、糖尿病網膜症、飛蚊症、ドライアイ、網膜剥離等) 目に効く「ルテイン」 、これが目に効く超「即効食」(同書では「ルテイン+カシス+ブルーベリー」を主張)
ローヤルゼリー ガン、生活習慣病、婦人病、アトピー、リウマチ、心臓病、糖尿病 “効く”ローヤルゼリーにはワケがある!
沖縄サンゴカルシウム 糖尿病はもちろんその他の生活習慣病(高血圧症、高脂血症骨粗鬆症など)や不安、イライラ、情緒不安 データで見る「沖縄サンゴカルシウム」の驚くべきパワー
甜茶 花粉症 花粉症 甜茶がこんなに効くなんて!
植物マルチミネラル 糖尿病からガンまで 「植物マルチミネラル」超健康法
赤ワイン 動脈硬化予防や活性酸素の抑制 赤ワインでらくらくダイエット
大豆(含有成分ソイナーゼ) 重度血流障害はもとより糖尿病、肝機能障害、そして末期ガンまで全ての病気 90分で血栓が溶けた!治った!
大粒無臭性ニンニク 自然治癒力を高める、活性酸素環境ホルモンの害からからだを守り、脳卒中・心臓病・ガンを防ぐ 新発見!健康無限パワー(同書は生紅?との併用を主張)、自然治癒力を高める驚異の大粒無臭性ニンニク
投入 美容 豆乳でキレイを手に入れる ?
糖鎖 健康と長寿 「糖鎖」の健康学
豆乳 豆乳でキレイを手に入れる(「豆乳ローション」など、飲む以外の利用法も)
粉ミルク ダイエット、便秘、精神も安定し成人病も予防、免疫力を高め腸を丈夫にする 赤ちゃんの粉ミルクでやせる、きれいになる、便秘は粉ミルクを飲めばすぐ治る、Dr.クゴーの粉ミルクでやせて健康になる、粉ミルクで美しくやせる
野草(天然ハーブ) 便秘改善 便秘には野草が凄くいい!
 
……すげー。
 
「ガンは生プロポリスで治る!」
 と
「生プロポリスでガンは治る!」
 とか、どのくらい内容が違う本なんだろう。
 
 とりあえず、ガンにはアガリクスカイジ*5メシマコブとキトサンとヤマブシタケとゲルマニウム含有石とサメ軟骨とプロポリスとアイザメ生肝油と大粒無臭ニンニクとアロエベラとモリンダ・シトリフォリアとローヤルゼリーと植物マルチミネラルと大豆が効きますよ!
 
 ガンやら糖尿病やらに効く「奇跡の」健康食品がこんなに山ほどあるなら、人類の未来は明るいですね!びっくりですね!
 全部自分で発見したのではないにせよ、こんなにたくさんの治療法(ここにあるだけで36種)の研究に功績がある久郷晴彦氏には、ぜひノーベル代替医学賞*6が贈られるべきですね!
 一つの治療法の研究に平均1年くらいしかかかってないなんて天才ですね!
 
……久郷氏、ほんとにこれ全部自分で信じてるのかなあ……。
 

日本が(代替的な意味で)誇る医学者久郷晴彦氏の地位について

 
氏は「健康科学研究所」の所長です。
 
……で、そこって何をしてるんでしょうか。
 
「健康科学研究所」でググると、「徳島文理大学 健康科学研究所」(というか、その移転前のURL)がトップに来ます。
 
 あれ? やっぱり大学の人だったんですか?
 
 違います。そこの所長は安藝謙嗣氏です。
 
 サントリーの健康科学研究所も上位に来ますがこれも無関係。(所長・木曽良信氏)
 
 「健康科学研究所+久郷晴彦」ググると、例によって書籍紹介がごろごろひっかかってきます。
 
 同名の「研究所」が多いからか、最近では「IHS健康科学研究所」と改名したようなのですが、そっちで検索しても、やっぱり書籍紹介がメイン。
 
 所在地とか他の所員とか全然不明です。
 
 どうやらこの研究所の主な仕事は「著者紹介の中で久郷氏の肩書きに登場すること」のようです。
 
 もう一つの肩書き「健康ペンクラブ会長」ですが、これはちゃんとホームページも持っており、更新履歴を見る限り、ちゃんと活動している団体のようです。
 ちなみに「日本ペンクラブ」とは別の団体です。
http://www.pen-club.jp/
 
 ……まぎらわしいURLですが。(日本ペンクラブは「http://www.japanpen.or.jp/」)
 
 ちなみに、久郷氏以下の役員は、
理事長:小林晃大(健康科学情報センター理事長)
理事:佐々田新樹(TVディレクター)
理事:小林恵実(事務局長)
 
 ……この人たちも、よく素性がわからないのですが。(健康科学研究所も、ググってもまともな情報がひっかかってこない)
 

補足

 
 いくつか注意。
 
 まず、私はこれらの本を読んだわけではなくて、表紙やタイトル、ネット書店の書籍紹介文から読み取れる範囲でまとめたものです。
 
 全部の本で「著者」なのではなく、「監修」となっている本も多々あります。
(が、「監修:久郷晴彦」とだけあって、著者名が明記されていない本も多数)
 
 表中、効果に「免疫力向上」とか「抵抗力増強」とか書かれてますが、これは、書籍紹介等に明記されてるものだけです。
 
 久郷氏は、免疫力の向上によってあらゆる病気が治る、と考えているようなので、この表に「免疫力向上」とか出ていない本でも、免疫関係の話が出てくる可能性は多分にあります。*7
「抗酸化作用」についてもほぼ同様のことが言えるでしょう。
 
 また、しばしば「生活習慣病、成人病、糖尿病」とか併記されてますが、どうも久郷氏の「生活習慣病」の定義は、一般に知られたものと若干違うらしいので、それぞれ別の用語としてあります。
 
 「〜〜との併用を主張」といった付記もしてありますが、これも確認できる範囲だけです。
 
 たとえば、手元にある『「アロエベラ」徹底健康術』では、第一章の後半で、プロポリスとポーレン*8との併用も効果的、と書いてあるのですが、各サイトの書籍紹介にはそういう記述はありませんでした。
 
「高濃度プロポリス」と「生プロポリス」とか、どう違うんだかよくわからないものもあるのですが、とりあえずそのまま載せました。
 

っていうか。

 
アロエには副作用がないとか書いてあるけど、ちゃんとありますから。
「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所)
 死亡例もありますから。
 
「ミツバチの巣を調べてみると、細菌やウイルスがまったくといっていいほど見つからない」
「プロポリスは天然の抗生物質
 とか書いてあるけど、ミツバチにも腸内細菌は居ますから。
 っていうか、ハチミツにはボツリヌス菌がいますから。*9もやしもん」にも出てたけど。
 ミツバチにも「腐蛆病」とか法定伝染病がありますから。*10
 
 あと、「アロエベラ徹底健康術」の著者紹介に載ってる著書リストって、アロエベラ以外の健康食品名がタイトルに含まれるのは意図的に避けてるよね?

*1:でも、本当におかしなところを全部リストアップして教えたら、向こうは泣くんじゃないかと思う。

*2:有名な研究者だと、学会のプログラムとかWikipediaとか論文(pdf)とか研究室HPとかが上位に来たりするものかと思うんですが。
ウチの弟だって、名前で検索すると論文誌が上位に来るよ?
……最上位に来るのは、全然無関係の業種の別人ですけど。
でもまあ、名前でググって、自分に関係ある内容が10位以内にランクインするだけでもすごいかと。

*3:参照できるもののみ。絶版の本とか、紹介がないことも多い。

*4:あと、さっきの『木炭の薬学』とか『ローズヒップのビタミンC』とかは、紀伊國屋ビーケーワンAmazonのいずれにもひっかからなかった。

*5:賭博黙示録とは無関係。
ある種のキノコを原料にした漢方薬らしい。
命がけの博打の一種だとは思うけど。

*6:存在しません。

*7:っていうか、これは「代替医療」全般に共通する主張なのかも知れませんが。

*8:ミツバチが集めた花粉のことらしい。
単独で扱った書籍がないので、表の項目にはない。

*9:一般には、胃酸で殺菌されるので安全とされるが、乳児に与えるのは危険。

*10:一匹でも感染したら巣箱ごと焼き捨てねばならない、というかなりアレな病気。