ラドンの意味はわかるけど……。

またしても「PSJ渋谷研究所X」様が話のとっかかりだったりするんですが許して下さい。
 
ちょっと前の記事、
「【未消化】これはなんなのだろう2:リンパマッサージ」
http://shibuken.seesaa.net/article/101244832.html

どこで放射線が入り込んで来たのか? 悪性リンパ腫の治療に放射線療法も行われるためか?
なにがなんだかわからない。

という記述があるんですが。
放射線が体に良い、という信仰は、「ラドン温泉」「ラジウム温泉」など、むしろ定番ではないかなー、などと感じました。
 
我が国の「温泉法」でも、ラジウム塩・ラドンは、温泉を温泉と認定するための溶存物質の一つに挙げられています。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO125.html
 
ラドン希ガス元素の一種で、放射性を持っています。
 
繰り返しますが放射能です。
 
で、それが「体に良い」という謎の信仰が日本にはあるわけです。
 
そのあたりがどうも謎だったので、ちょっと調べてみました。*1 
 
まず、微量放射線が体によい、という説を「ホルミシス効果」と言うらしいです。
(正確には「放射線ホルミシス効果」。放射線以外にも同様の性質を持つと称される有害物質がある)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%9F%E3%82%B7%E3%82%B9%E5%8A%B9%E6%9E%9C
ホメオパシーっぽいですが、ホメオパシーほど極端に希釈しないわけで、作用機序の説明もどうにか筋が通っているような。
 
……再現性が疑われているらしく、希釈しない分逆に危険だとも言えますけど。
 
ホルミシス効果ラドン温泉を関連づけて論じているのはこの辺り。
http://www.iips.co.jp/rah/kangae/kangae.htm
 
しかし、同効果が提唱されたのは1978年。
 
ラドン温泉の効能が喧伝されたのはもっと昔だったはず。
 
確か、志賀直哉の「城の崎にて」でも、ラドン放射能が自分の病魔を薄紙をはぐように云々、という表現があったように記憶します。(うろおぼえ)
 
……で、色々調べたんですが、ラドン温泉が喧伝されるようになった時期は判然としませんでした。
 
とはいえ、下の記事などを見ると、戦前から「ラジウム温泉」「北投石」など、温泉と放射能が関連づけられていたのは事実のようです。
http://www.geocities.jp/gauss0jp/osensno1.htm
http://onsen1.net/003/
 
温泉法の制定も昭和23年ですから、ラドンラジウムが有効成分だ、という考え方はそれより以前からあったと考えるべきでしょう。
 
日本人は放射線アレルギー体質ですが、これは原爆投下に起源を持つものです。
 
それよりずっと昔、放射能というのがまだ庶民にとってはわりと「よくわからないけどすごそう」なものであった時代にラドン信仰が根付き、それが「ホルミシス効果」によって理論的に補強されつつ現在にも継承されている、ということなのかな、と想像します。
起源としてはホルモン焼きとかマイナスイオンとかに似た構図ではあります。
 
ところで、調べている最中に
ラドン開発事業団」
http://www.u-u.co.jp/users/radonkaihatu/index.html
とかいう団体も発見しました。
 
……医学的説明を見ているとツッコミどころ満載です。
http://www.u-u.co.jp/users/radonkaihatu/igaku.html

ラドンおよびトロンのこれらの元素群はα線を出して崩壊し、ともに化合物をほとんど作らない安定した元素で入浴または飲用して、容易に皮膚および粘膜から吸収され、(略)病変化あるいは老衰化による各種疾病に対して原因療法が得られるのであります。

希ガスだから化合物を作らないのは本当だけど、だから「容易に吸収される」っていうのは謎。
ていうか、ラドン希ガスだけど、崩壊すると他の元素に変わるですよ。
ポロニウムとか。
 

常温ではガス体で体内に吸収された元素は数時間内にして、呼吸器を通じてタン酸ガスとともに休外に排泄されきわめて少量が体内に残存しますが、これらの元素はいずれも半減期が短かく、(ラドンは3.8日トロンは55秒)なんら生体に対して有害となりません。

半減期が短い≒短期間に多量の放射線を出す、ということなんですが。
(「トロン」というのはラドン220の別名)
 
ちなみにポロニウムは体内に残留しますよ?
 

今までのラジウム療法はその大量を開いて組織破壊性を利用して、癌、肉腫などの最難疾患にのみに行なわれ、ごく少数の大病院の奥深く金庫内に厳重に保存され、わずかに特殊な富豪階級にまれに利用されていたので、一般大衆はラジウムの恩恵にあずかることができなかったのです。

おお、こんなところにも格差社会の弊害が!?
 
……まあなんというか、科学教育は単なる教養ではなくて、一般大衆が身の安全を守るためにも必須だな、と思いました。
 
WHOに言わせると、ラドン吸入は肺ガンの原因になるそうです。
どうか皆様お気を付けください。
(いやまあ、煙草に比べたら問題にならないのも事実らしいですが)

*1:元記事の議論の中心は、
「そもそもリンパマッサージって何だ」
「野口医学研究所とは?」
といった話なので、これは脇道ではあります。
 
謎の「野口医学研究所」が気になる方は、元記事を御覧ください。