幼音便。

本校には「音読集会」というものがあります。
 
月に一度、どれかのクラスの児童みんなが、全校生の前で詩や文学作品を語って聞かせるのです。
ちなみに前回やった3年生は、詩と、「寿限無」でした。
 
ちなみに原稿は暗記。
 
それは「音読」ですか?
 
そして、次回が1年生の発表です。
 
校長先生の肝煎りですので、力を入れないわけにもいきません。
 
たぶん、「声に出して読みたい日本語」とかを想定しているんだと思うんですが……。
 
「暗唱」の教育効果については、実はまだ定量的に証明した実験はありません。
しかし、教育における暗唱、というのは必ずしも日本で最近発明された技術ではなく、ヨーロッパでは古くから実践されてきた、実績のある教育方法です。
 
ルターの時代には、聖書を子どもに丸暗記させるのが「教育」だったそうですから。
 
それはいつの時代の教育ですか?
マルティン・ルター:1483〜1546)
 
……子ども自身に理解できないテキストを暗記させて、何か益があるんですかね?
大人に聞かせた時に
「すげー」
って感心される程度じゃないかと思うんですが。
 
昨年度(=学校統合初年度)は、まだ校長先生の意図がよく職員に伝わっていませんでした(名前も「児童発表」だった)。
しかも私が担当する3年生が一番最初の発表。
 
担任はみんな、
「学級で、学習発表的なことをやらないといけないらしい」
というレベルの認識だったので、私も何をやったらよいのか考えあぐねた末、「漢字クイズ」をやりました。
 
「“生・峠・丸”の中で、音読み、つまり中国から伝わった読み方がない漢字はどれでしょう」
とかいうやつ。*1
 
それはそれで盛り上がって、他の先生から、
「ああいう風にやればいいのか。なるほど」
などと言われたんですが、次の朝の打ち合わせで校長先生が、
「どうも私の意図が正しく伝わっていなかったようなんですが……」
とか言い出してアウト。
 
いいんだ、子どもたち。
君たちは悪くない。
 
さて、そんなわけで今年は暗唱です。ええ。
まず、テキストの選定。
一つは、教科書にも載っている「大きなかぶ」を劇化したもので決定。
 
「教科書だけじゃダメだって校長先生が言ってたよなあ……何にしよう」
 
詩はどうか。
 
「自分、詩にはうといからなあ……。
“先生けらいになれ”みたいな児童詩が好きなんだけど、たぶん校長先生的にだめだろうし。
プロの詩人の詩集も図書室にあるけど……うあー、何この鬱空間」
 
詩人は嫌いです。(問題発言)
結局、一年生が全校生の前で暗唱してふさわしい、と思えるような詩は発見できず。
 
「うーん、なにかいい本は……おお、これだ!」
 
で、選んだのが「論語」。(しかも、子ども版「声に出して読みたい日本語」)
 
子どもに理解できないテキストの筆頭では。
 
まあ、件の本は、右側ページが論語の引用で、左側ページが現代語訳なので、理解できないことはありません。*2
(同じシリーズの俳句も候補だったんですが、後述する児童指導上の理由で論語に決定)
 
A児「じぶんがのぞまないことは、ひとにしむけないことじゃ」
K村「……みんな、意味分かる?」
B児「人にゆびをむけない?」
K村「“し”は“指”では? という推測に敬意を表するが違う」
 
すみません理解できませんでした。
(子ども向けにしては訳の言葉が難しいと思います……)
 
やさしい言葉で言い換えて説明しました。
ちなみに選んだのは
 
・それ恕か。己の欲せざる所は人に施す事なかれ
・過ちて改めざる、これを過ちという
・義を見て為さざるは勇なきなり
*3
 
の3つ。
覚えさせて、今後児童指導に使うのですよ。
 
K村「過ちて改めざる……」
X児「これを過ちという!」
K村「うん、だから、やってはいけないとわかったことは、もうやらないようにね」
X児「はーい」

 
みたいな感じ。
 
いつの時代だ。孔子:紀元前551年〜紀元前479年)
 
さて練習。
 
K村「過ちて改めざる、これを過ちという」
C児「あやまってあややめざる」
D児「あらまちて」
E児「あららめらる」
K村「あらららら」
 
ここまで発音が困難とは。
 
K村「“あやまちて”→“あやまって”という促音便の発生を目の当たりにしたな……」
 
えーと、“あらまちて”は何音便と言うんでしょうか(ヒント:「噛んでるだけ」)。
 
それはそうと、おかげで国語の授業が全然進まないのは勘弁して欲しいな……。*4

*1:ちなみに正解は「峠」。
日本で作られた字なので、音読みはない。

*2:ただ、この本の訳、微妙なところもあって。
例えば、
「それ恕か。己の欲せざる所は人に施す事なかれ」
の訳が、
「先生、死ぬまで大切にしなければならないことを、一つあげるとすればなんですか?」
「まあ思いやりだね。自分がされて嫌なことは、他人にもしむけないことじゃ」
になってるんですが、前半部分はどこから来たんですか。
(「一言にして、もって終身これを行うべきものありや」が省略されている)
まあ、やむを得ない面もありますが、註を入れるとかしないと、子どもに誤解を与えると思います。

*3:なんで「不為」の訳が「せざるは」じゃないんですかね?
そっちの方が一般的だし、「声に出」すなら、語呂もいいんじゃないかと……。

*4:道徳の時間も充当しています。
児童指導に使うから。