子どもたちの生活経験の水準と、それをふまえた教材研究(小学2年国語「スイミー」)の進捗状況

 国語で「スイミー」という単元があります(光村:2年)。
 レオ=レオニ作の絵本を元にした作品です。
 
 しかし、作中には、海の中の様々な美しいもの、素晴らしいものが登場するのですが、いせえびやくらげ、さんごなど、本校の子どもはおよそ見たことがないのです。山奥なので。
 低学年に限らず、小学生は生活経験に乏しいので、時々困ります。
(以下の事例は、複数の学校のものです)
 
 事例1
 小学3年。
 理科の先生が嘆きます。
「本校の子どもたち、太陽が動くと影が動く、ってことがどうしても飲み込めないんだよ」
「なんでですかね?」
「普通は、時間帯によって影の長さが変わったりするのは体験的に理解していて、それが太陽の動きに関係している、ということに気づけばいいわけだ」
「ははあ」
「ところが、本校の子どもたち、夕方になると自分の影が長く地面に伸びる、という経験をしたことがないんだな。
 だからまずそこから教えないとならない」
「……なんでですかね?」
「ほら、ここら一帯は山奥だから。東西南北山に囲まれるせいで、影が長く伸びる前に日が沈んじまうのさ」
「ああー……」
 
 事例2
 国語。「やい、とかげ」。
 冒頭、主人公がとかげに石を投げつけると、しっぽだけ残してとかげは姿を消します。
 
 が、授業をしていて、子どもたちの反応がなんだかおかしいことに気づきました。
「……待て。君たち?
 どうして、とかげがしっぽだけ残していなくなったかわかる?」
「わかんない」
「……とかげがどんな生き物だか知ってる?」
「知らない」
 
 詳しく聞いていくと、彼らは生きている両生類・は虫類を何一つ見たことがないのでした。
 確かに私も、学校周辺でヘビやトカゲやカエルを見たことがありませんでした。
 寒いところだからでしょうか? 夏になっても蚊がわかず、大人でもゴキブリを見たことがない、というところですから。
 
 事例3
 社会。「ごみはどこへ」。
 自分たちの出したゴミは、一体どこへいくのだろう、という疑問から、ゴミ処理の仕組みへとつなげていきます。
「みんなの家でも、毎日ゴミが出るよね」
「うん」
「そのゴミはどうしてるかな?」
「家の裏で焼いてる」「うちも」「うちもー」
 
ごみステーションに出す」>「ごみステーションから、ゴミはどこへ行くのかな?」>「それは……」>「では、みんなで調べてみよう」……っていう流れを想定してたんですが?
 
「……プラスチックは?」
「焼いちゃう」
 
 待てコラ。
 
「……でも、燃えないゴミもあるでしょ?」
「そういうのは、沼に入れちゃう」
「うちは、家の裏に穴があってー」
 
 とほほ。
 田舎は自然がいっぱいですが、だからってエコロジーに関心があるとは限らないんですよ。
 
 ていうか、過疎地なのでゴミ収集所の数が少なく、最寄りのゴミステーションまで2kmもある、という状況のせいも多分にあるんですが。
 
 あとはまあ、電車を見たことがないとか(国鉄時代にすでに廃線に)、飛行機は自衛隊駐屯地のヘリコプターしか見たことがないとか(主要航空路線は遙かに遠く)、駐車場を見たことがないとか(土地が余ってるんです。すごく)。
 それを思えば、海を見たことがないくらい普通普通。
 しかし、レオ=レオニ氏の書いた挿絵は、美しくはありますが、実物を見たことのない子にはちょっとイメージが湧かないかも知れません。
 
 そこで、担任がネット検索。
 googleイメージ検索で実物を探します。
 
 ええい遅いよ! 今時ISDNかよ!
 
 まず、「にじ色の ゼリーのような くらげ」。OK。最近、くらげってけっこう飼ってる人がいますからね。 ここは一つ虹色にライトアップされてきれいなやつを……(いいのかそれで)。
 きくらげとか、うまそうですね。
 ……あ、エロ絵発見。
 
 続いて「水中ブルドーザーみたいな いせえび」。 うまそうですねーっていうか、いせえびの皿の前でピースしてる写真がごろごろ。ちくしょうブルジョアめ。 あとは図鑑的な構図の写真とか。
 「いせえび」ってひらがなで書くと、「スイミー」の指導事例がひっかかってきますね。
 ……あと、なんかしらんアニメ絵もあるな。
 
 「こんぶや わかめの林」。 水揚げされたのばっかりだよ……。 「わかめ」+「林」だと……スイミーの指導事例しかヒットしないよ?
 
 「うなぎ」。……腹へったな……。もう帰る。
 
 そもそも、「おそろしいまぐろ」ってイメージからして日本人にはピンとこないんですが。
 
 しかし、日本語ってどの単語で検索してもアニメ絵がひっかかってくるんですか?
 あとエロ絵(ていうか、エロ絵はほとんど全てアニメ絵の中に含まれてるんですが)。
 そんな言語日本語だけじゃないか知らん。
 
 ……待てよ?
 
 そこではた、と気づいて、“kelp”でイメージ検索すると。
 
 出るわ出るわ美しいコンブの林。
 “tuna”で検索すると、ダイバーと一緒に写った水揚げされてないマグロとか。(……おそろしいツナが襲ってくるのか……)
 “ell”で検索すると……ウツボもウミヘビもellの仲間かよ、英語人。
 
 やっぱり、欧米の人々は日本人ほど海産物を食べ物として見てないのがわかります。
 
 ……“lobster”だけは英語サイトでもうまそうな写真ばかりだけど。
 
 教訓:調べ学習で子どもにイメージ検索をさせてはいけない。 なんであれ日本語では。