耐性。

 異動して2ヶ月が過ぎようとしているわけですが。
 
 こうしてみると、鱶沢小学校にいた5年間、本当に楽をさせてもらったんだなあ、と思います。
 
 ……今まで、時には偉そうに教育について書いたりしておいて、今更こんなこと言うのは恥ずかしいですが。
 
 昨年までは、
「静かにしろ!」
 とか
「黙って並べ!ふらふらするな!」
 とか、怒鳴ったことはほとんどありませんでした。
 
 もちろん、「しーっ!」とかやったことはしばしばでしたが、大声を出すのに限ると、年に何度かあったかな、くらい。
 
 増して、
「さっきの集会の時の並び方はなんだ!」
 みたいなお説教タイムとか、ありえなーい。
 
 ……それが、このところほとんど毎日みたいな有様で……。
 
 怒るのって疲れます。
 精神的に。かなり。
 
 こっちもいらいらするし、子どもたちだって嫌な気分なのが手に取るようにわかりますし、お陰でその後の授業もギクシャクするし……。
 
 何もいいことないんですよな……。
 
 まあ……愚痴はこのくらいに。
 
 思うのは、「大きな学校の子ほど怒られるんだな」ということ。
 
 去年はほとんど叱らないで済んだのに、今年は怒鳴ってばかり、というのは、静音沢小の5年生が鱶沢小の2年生以下だから、では決してありません。
 
 単に人数が多いからです。
 
 例えば、1クラス12名とかの学級で、全体の1/3、4人の子がぺちゃくちゃ話をしているとします。
 そこで教師が
「はい、話をするから聞いてください」
 と言えば、まあ指示は通るし、たとえ万一4人の子が話し続けたとしても、少なくとも他の8人には話が伝わります。
 
 ……でも、1クラス36名とかの場合。
 全体の1/3、12名の子が教室内で話していたら……。
 
 教師の話なんてほとんど聞こえません。
 
 まして、(本校がそうであるように)給食はランチルームで食べます、なんてことになっていて、一つの部屋に70名以上の子どもがいたりしたら……。
 
 近くにいる人の話もよく聞き取れないし、聞き取れないからお互い大声で話すことになり……。
 
 日直が「静かにしてください!」とか絶叫しても、全然聞こえないありさまです。
 
 だから、小さな学校では、全体の1/3の私語くらいはまあ見過ごすことができても(しませんけど)、大きな学校ではそれは絶対許されないのです。
 
 要するに、
「みんなが君と同じ事をしたら大変なことになる」
 という閾値が低い。

 
 その結果、
「体育館に入ったら、集会の前から一言も話してはならない」
 とか、
「清掃は無言で行わなければならない」
 といった妙に厳格なルールが必要になり、何かというと
「今しゃべった人がいたからやり直し」
「みんなが静かになるまでn分かかりました」

 的な状況が発生するのです。
 
 こういう「連帯責任」というのは、要するに教師が私語を一人一人相手にしていたら力尽きてしまうからで、教師が個別に指導しなくても子ども同士で注意し合うのを期待してのことだと思います。
 
 なんか、「分割して統治せよ」とかいう言葉が脳裏をよぎるんですが。
 
 ともあれ、このようにして、大きな学校の子どもほど、比較的些細なことで怒られ、自分の責任でないことで怒られ……ということになるわけです。
 
 逆に言うと、小さい学校の子どもは、怒られる経験の少ないまま社会人になるわけで、それはそれで心配ですけど。
 でもまあ、勤務するにはストレスが少ないのは事実だよな……と思います。
 
 ……で、こっちは毎日怒り続けて頭痛がするような状況なのに、家庭訪問に行ったら保護者からは
「うちの子がK村先生は優しいって言ってました」
 とか言われるわけですよ。
 
 ……喜んでいいのやら悲しんでいいのやら……。