2年担任のN先生から聞かれました。
「“はあはあ”って音ですかね?」
「はあ?」
N先生は、国語のテストの採点中でした。
問題は、絵を見て、その様子を表す擬音語・擬態語を書きなさい、というもの。
絵は、かんかん照りの太陽の下で、麦藁帽子に捕虫網、という姿の子どもが汗だくで息をついている、というもの。
「くたくた」とか「ぎらぎら」とか色んな回答があった中に、「はあはあ」があったようです。
「……なんでそんなこと聞くんですか?」
「だって、音だったらカタカナで書かないといけないですから」
「あー……」
教科書に従うと、カタカナは、外来語や擬音語を表すために使う物です。
で、音を表す時にはカタカナを使わねばならないんだそうです。
ハアハア。
……自分、2年生も担任したことがあるけど、そんなの気にしたことなかったな。
結局の所、「はあはあ」は、呼吸音を表す擬声語であろう、という結論になり、その回答は部分点扱いに。
……でも、そうかなあ?
「おお」とか「ああ」とか「ううん」とか、声とも音ともつかぬものは多数ありますし、「はあはあ」が擬声語、というのも、必ずしも確実ではないような。
「窓ががたがたいう」は擬声語かもしれませんが、「がたつく」はどうか。「がたがくる」では?
「岩がごろごろ転がる」は?
「ズボン」の語源は、「ずぼっと足を入れる」からだ、という説がありますが、だとしたら「ずぼん」と平仮名表記にしなければならないのか?
そもそも、「ずぼっ」は擬声語なのか擬態語なのか?
「でも、なんで、こういうきまりがあるのに、現実にはあんまり守られてないんでしょうね?」
「うーん。だって、例えば、“ぎらぎら”と“ギラギラ”とか、ひらがなで書くかカタカナで書くかで印象の違う語って、いくらでもあるじゃないですか? だから、書く人の、どういう印象を読者に与えたいか、ということで、違う表記が選ばれるんでしょうね。
簡単に言えば、両方の表記を認めた方が、表現の幅が広がる、ということです」
……って言ったら妙に感心されました。
うむう。
だってさ、寺島尚彦の「さとうきび畑」が、「ザワワ ザワワ」だったらおかしかろ?
教科書でも、既習の漢字で書ける語でも平仮名で表記する、ということもあるので。
仮名についても柔軟性は持って欲しいな、と思う次第。
「擬音語と外来語はカタカナ」というのは別に古くからある決まりではなく。
平仮名の起源が万葉仮名であることはよく知られていますが、片仮名も同じように万葉仮名を起源としています。
例えば、「ほ」は、「保」が崩されてできたものですが、「ホ」もまた、「保」の「木」部分が略されたものです。
同じ万葉仮名を起源に別々に作られたおかげで、「ヘ」とか「リ」とか、平仮名と片仮名でほとんど同じ、というようなややこしい事態が起きたりもしています。
で、片仮名というのは、漢文に読み仮名を付す目的で発達したものなのです。
だから、「外来語はカタカナ」というのは、まあ根拠が無くもない。
「擬声語はカタカナ」というのも、片仮名がいわば発音記号的な側面を持っているために、擬声語が一般の「ことば」ではないことを示すために使われているんでしょうけれど……。
応用の前に基本を教えるのはもちろん大事ですけど。
でも、
「擬声語はカタカナで書かなければだめだ!」
と限定してしまうのも、表現力を殺してしまうような気がするんですが。
どんなものでしょうね。