ムシキングダム。(クイーンダムか?)

女王国であっても「kingdom」を用いるのが正しいそうです。
 
さて。
 
教室で飼っていたモンシロチョウの幼虫は、次々とさなぎになり、無事、すべてのさなぎが成虫になりました。
 
全部、誰も見ていない間に。
 
く、くそう!
 
やっぱり、冷蔵庫で冷やすのを試すべきだったか……。
 
それと、なんか、その時期、家に帰ったら、締め切った家の中にモンシロチョウがいたことがあったんですが……。
 
…………深く考えるのはよそう。
 
さて、そんな活動をしていたら、子どものお父さんの一人が、学校に電話してきて、
 
「先生、カブトムシの幼虫いりませんか?」
「え? えーと、育ててるんですか?」
「いやあ、仕事場にいるんですよ、いっぱい」
 
聞けば、ゴルフ場に勤務しており、積み重なった腐葉土をショベルカーで持ち上げたら、その中からカブトムシの幼虫が出てきたのだとか。
 
「そうですか。 じゃあ、せっかくだからお願いしていいですか?」
 
教科書ではモンシロチョウ以外の昆虫にも触れており、実際育ててみるのもいいかも知れません。
 
数日後、水槽に腐葉土をどっさり入れて、届けてくれました。
大きな水槽で、私とそのお父さん二人がかりでようやく運びました。
 
「この中に、十何匹か入ってますから」
「そんなにですか!」
「ほんと、ちょっと掘るとごろごろごろごろ出てくるんですよね。 この間、小学校の先生が『カブトムシの幼虫が欲しいんですけど』って言ってウチに来て、百匹くらい持って行きましたよ」
「百匹!」
 
しかし、つくづく思うんですが、小学校教師って、いろんなとこに顔を出してへんなお願いをする人々ですよね……。
 
写真館でフィルムケースもらったり、魚屋で発泡スチロールケースもらったり……。
 
かく言う私も、モンシロチョウの餌にするために、近所のスーパーに、
「キャベツの外側の、捨ててしまう部分の葉っぱをください」
とか頼みに行ったわけですが。
 
そんなわけで、カブトムシが羽化するのを待つ日々。
 
今、「ムシキング」とかの影響で、昆虫好きの子が増えているわけですが。
でも、ホームセンターでアトラスオオカブトだのヘラクレスオオカブトだの売っている、ってのはやっぱり疑問です。
 
子どもが昆虫に興味を持つのが悪いことだとは言いませんが、身近な昆虫でもなんでもない、高価な海外産の昆虫にばかり目が向く、というのもいかがなものか。
 
ろくに知識もない子どもが、原産地から遠く離れたところで生き物を飼う、というのもどうかと思いますし。
逆に、不用意に逃がされたそういう外来種が日本で繁殖を始めれば、生態系を乱すことにもなります。(実際、すでにそういう事例もあるわけで)
 
……と、かく言う私ですが、実は、昔から飼ってみたい昆虫がいまして。
 
いや、もちろん日本原産の、誰でも見たことがある身近な昆虫……アリです。
 
アリが巣穴から出たり入ったりし、掘り出した砂を穴の外に捨ててまたあわてて穴の中に入っていったり、大きな餌を大勢で苦労しながら運んでいったりする様子に、幼い頃心引かれ、時間を忘れて見入ったものです。
 
小学校に入ってから、昆虫図鑑で、「1〜2cmくらいの薄さのガラス箱を作って、中に土を入れ、アリを入れると、巣穴の中の様子を観察することができる(観察しない時は、ガラスに黒い紙をかぶせておくこと)」
……とか書いてあるのを読みました。
そこには「食糧倉庫」「幼虫の世話をする部屋」「女王の部屋」だのという図解までついていて、心躍らせました。
 
でも、そんなガラス箱を自作するのは当時の私には無理でしたし、そもそも、その図鑑には、
 
「働きアリは卵を産まない。卵を産むのは女王だけなので、女王をつかまえないと、アリのくらしを見ることはできない」
「女王アリは、巣の一番奥に住んでいる。その深さは、地下2〜4mほどにもなる」
 
……なんて書いてあったのです。
 
それで、そういうアリの巣の観察、というのは、憧れつつも夢であり続けてきました。
 
さて。
 
件のお父さんが持ってきた腐葉土槽。
 
ホームセンターとかでビニル袋入りで売っているのと違って、外の土をそのまま持ってきたものですから、よく見ると、ダンゴムシだのダニだの、清掃生物が這い回っています。
そのうち、紛れ込んでいた植物の種が芽を出して、にょきにょき伸び始めました。
 
……たくましいなあ。
 
と、その時、土の上をアリが這い回っているのを発見。
 
見ると、水槽の片隅の土に穴が開いて、そこから数匹のアリが出入りしています。
 
「なんと!?」
 
あわてて横から見ると、巣の出入り口の部分だけですが、ガラスごしに観察することができました。
 
まさか、シャベルカーで掘り起こした時に、女王アリごと!?
 
……しかし、その後、砂糖だの砕いたペットフードだのを与えてみたのですが、今ひとつ餌取りに熱心さがなく。
 
ネットで調べてみたところ、国内にも、個人でアリを飼っている人がたくさんいることを知りました。
それでわかったこと。
 
アリというのは、女王アリがいなくても、勝手に巣穴を掘ったり餌集めをしたりする、ということ。
ただし、女王や幼虫といった「非生産人口」がなくなるので、餌集めをする頻度が低くなること。
働きアリもおよそ2年くらいの寿命を持っており、女王アリがいなくとも、捕まえたアリたちがそうすぐに死に絶えるものではないこと。(ただし、外に餌取りに出るのは、生後一歳以上の個体が多い)
 
だからやっぱり、教室の水槽にいるのは、運悪く捕まった働きアリのグループであるようです。
 
女王アリも、関東ローム層を4mも掘り起こすような真似をしなくとも、捕まえる方法はあるのだそうです。
 
結婚飛行後に地上をうろうろしているところを捕まえれば良いのだとか。
 
……でも、午後2時ごろに外でアリを探すのは、普通の勤め人には無理だけどな。
 
しかし、ネットの時代の素晴らしさ、なんと、女王アリを通販で購入することもできるのを知りました。
 
3000〜5000円くらい。
 
高ッ!
 
オオクワガタ並みじゃん。
 
第一、オオクワガタが2・3日で死ぬなんてことはないけれど、飼っている人の日記とか見ると、アリってかなり死にやすい生き物ですよ。
 
・集めた餌にカビが生えて死ぬ
・乾燥して死ぬ
・湿度が高いと結露しておぼれ死ぬ
 
……「虫けらのように死ぬ」って言葉の意味がわかった気がしますね。
 
そんなか弱い生き物に、名前を付けて(時には働きアリにまで)かわいがっている人は、逆に精神的に強いなあ、とも思いました。
 
そもそも、あえて女王アリを買わなくても、働きアリだけでも、巣作りや餌集めを観察することはできるんじゃないでしょうか。
 
……と、そんな人にぴったりの観察セットがあります。
 
アントクアリウム
http://globus.lunarembassy.jp/ants/
 
小さな水槽に入った、水色のゼリー状のもの。
NASAが、無重量空間でのアリの巣作りを観察するために開発したもので、ここにアリを数匹入れると、それを掘って巣を作ります。
これ自体が餌になるので、餌やりの必要もありません。
 
巣の立体的構造を見られる飼育キットは、これしかありません。
 
価格は3000円+税。
 
高ッ!
 
だったら、やっぱり土の入った飼育箱をアクリル板か何かで自作して、そこらの働きアリを入れた方がいいんじゃないか。
(ちなみに、飼育サイトを見ると、普通の土はカビ発生のおそれがあるので、ハムスター用遊び砂(殺菌してある)とか、園芸用保湿剤とかを使った方がいいらしい。 そして、砂に巣を作らせて飼うより、タッパとか弁当箱みたいなプラスチックケースで飼う方が、中の掃除のしやすさとかを考えると合理的らしい)
 
でも、女王アリのコロニー、ってのも、やっぱり憧れるよなあ……。
 
なお、通販サイトを見ると、
 
シリアゲアリ(アフリカ産)14000円
アメリカカギバラハリアリ(アメリカ産)18000円
 
正気か!
 
……まあ、どうせ子どもは飼わないし、いいか。(そういう問題か)