読んだ本:ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス

ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス
 異常な理事長・理事会によって30年以上も支配されたマンションと、それに反旗を翻した一部住人たちの戦いの記録。
 
「パソコンは一家に一台だけ」
「転入希望者は理事会の面接で許可を得なければならない。転入が決まるまで内見はできない」
「介護事業者やベビーシッターが出入りできるのは平日17時まで。土日は終日不可」
「管理人がポストの中をチェック」
「引っ越しの際は荷物を理事会がチェック。スケートボードなどは理事長の判断で持ち込めない(明文規定はない)」
「風呂はバランス釜で改修禁止。床はフローリング禁止」
「まともな説明もなく管理費が値上げされる」
「ガラス2枚の修繕に500万円など、予算執行状況がおかしい」
 
 など、異常なルール、不透明な管理費運用が常態化していた秀和幡ヶ谷レジデンス。
 
 しかし、マンション内には54台の防犯カメラが設置され、住民は24時間監視されています。
 理事長らに不満を口にする住民は、陰に陽に嫌がらせを受ける状況。
 人呼んで「渋谷の北朝鮮」。
 
 同マンションの状況は、入居者だけでなく、不在オーナーにとっても不利益でした。
 異常なルールで運営されているために、同マンションは、近隣の似たグレードのマンションの1/3ほどの価格にしないと買い手がつかず。
 理事会の許可がないと入居できないため、購入した部屋を賃貸に出そうとしていた人も、なかなか入居者が決まらなかったといいます。
 入居者にとって不利益であることは言うまでもありません。
(夜間に救急車を呼んだら救急隊が入れない、などという深刻な事例も)
 
 このような状況を変えるべく、マンション管理組合総会で過半数の委任状を獲得しようと動き始めた「秀和幡ヶ谷レジデンスをより良くする会」。
 コロナ禍で活動が中断したり、高齢のコアメンバーの乳ガンが発覚したり、活動方針を巡って分裂の危機を迎えたりしつつ、1200日に及ぶ苦闘を経て、とうとう理事会を追い落とすことに成功します。
 
 大変印象的なのですが、それにしても。
 
 理事会の異常性と、運営方針変更への協力について、オーナーへの呼びかけを続ける「より良くする会」。
 それが、最終盤に至るまで、メンバーの名前を明らかにせず、マンション内の「秘密結社」として活動を続けるのがたいへん印象的でした。
 
 主張だけ見ると、「より良くする会」の方が圧倒的に「正しい」ことを言っているのですが、理事会側が権力を握っている以上、自分たちの素性を明らかにするのは危険を伴うのですね。
「正しさ」は、身を守ってはくれない。
 文中で「レジスタンス」と言われていますが、まさにレジスタンス活動そのものだと思いました。
 
 しかし、「自由フランス」や「プラハの春」のレジスタンスと異なり、マンション理事会は、制度上は、民主的な運営が約束されているはずです。
 つまり、30年以上にわたる理事長の専横は、理事長・理事会の異常性だけでなく、その状況に異議を唱えず、現状維持を選び続けた、多くの住人の責任でもあると言えます。
 住民の多くが、安易に理事長に委任状を渡してきたことが、理事会の独裁を許してきたのだと思います。
 
 現在、私も分譲マンションの住人になりました(必ずしも望んだわけではないのですが……)。
 マンションの運営に関しても、そして自治体や政府の運営に関しても、コミュニティの運営に無関心を決め込むことは、現状維持に協力するのではなく、むしろ現状の悪化を助けることになるのだ、と思いました。
 状況を良くするには、政治活動に熱心な人間が必要なのだ、と。